第132回:軽EVのデザインを考える(前編) ―「スズキeスカイ」にみる“大衆車メーカー”スズキのスゴみ―
2026.10.14 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
希代の凡作か? 実はすべてが計算のうちか? スズキ初の軽乗用電気自動車(EV)「eスカイ」の造形を、カーデザインの識者と考察。つかみどころのないイメージの背景にある、“大衆車メーカー”スズキの慧眼(けいがん)に思いをはせた。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
物議をかもすスズキeスカイのデザイン
webCGほった(以下、ほった):今回は、いま話題になってる軽EVのデザインに関してお話しいたしましょ。まずは……例の問題作から。
渕野健太郎(以下、渕野):スズキのeスカイですね。みなさんどうですか? 特にスズキをすごく応援しているほったさんとしては。
ほった:いやぁ。スズキ応援団の旗持ちを自負しているワタシですが、このデザインに関してだけは、ちょっと……。なんというか、あまりに普通の軽自動車すぎません? コンセプトモデルの「ビジョンeスカイ」のときから、「これはどうなんだろう?」って気はしていたんですが。
清水草一(以下、清水):え? コンセプトカーはぜんぜんヤバいと思わなかったけど。いい感じにベーシックで。
ほった:清水さんの評価はそうなんですね。eスカイ誕生までの経緯を見ると、2023年のジャパンモビリティショーで「eWX」っていうコンセプトが出て、それが発展的に解消されて2025年にビジョン eスカイになって、それがeスカイになったって流れですよね。ワタシとしてはeWXのデザインに期待していたのもあって、ビジョン~の段階で「あれ、お天気が怪しくなってきたぞ」ってなってました。
渕野:そのコンセプトカーの段階からそうなんですけど、eスカイのデザインの特徴はショルダーなんですよ。ショルダーラインが弓なりになってるんですよね。ヘッドランプからサイドウィンドウの肩を通って、リアコンビランプまで、まっすぐじゃなくて“弓なり”なラインを描いている。そこがこのクルマのアイデンティティーでしょう。下まわりは割とスクエアで土台みたいな形にしつつ、上はちょっと遊びを入れてる。そうやって、下まわりと上まわりでボディーをサンドイッチするような構成なんですけど。ほったさんが疑問なのはどこですか? 顔ですか?
ほった:一番はそうですね。
清水:私も市販版の顔は疑問だな。グリルレスの部分のふくらみに違和感がある。
この“顔”が分からない
渕野:顔まわりに関しては、コンセプトカーのほうがまだすっきりしてますよね。あちらも、ヘッドランプまでつながるサイドの造形に、ボンネットの立体が組み合わさる感じのデザインだったんです。ただあの段階では、その下の顔まわりは割とフラットだった。でも市販車では、ボンネットの立体がそのまま下につながっている。それで“縦”が強く見えるんです。
清水:このふくらみ、ボンネットからつながってるんですか? なんか顔の真ん中だけポッコリ盛り上がってるように見えちゃうんですけど。
ほった:よく見るとつながってますよ。でも、顔全体がおでこみたい(笑)。
渕野:ランプより下の立体が、コンセプトカーのときはひとつにまとまっていたんですけど、市販車はそこをしっかり分けてきた。それによって横方向の広がりがあんまり見えなくて、縦ばかり見え始めたので、自分もそこに違和感がありました。バンパーの上の部分がもっと横に通ってたら、あんまりそうは感じなかったんですけど。
eスカイは全高が1625mmもあって、軽ハイトワゴン寄りの高さなんですよね。それを払拭するのなら、横方向の広がりを見せたほうがいいはずなんです。それに対して、このクルマの顔まわりは、“縦”がしっかり見えすぎる。それでバランスを悪く感じるんです。
清水:いやー。単に顔の真ん中におでこがあるのが、しっくりこないんですよ。妙につるんとしてて……。
ほった:下腹がぽっこり出ちゃったみたいな、締まらない印象なんですよね。鼻の下が伸びてるようにも見えるし。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
造形の変更は構造要件によるものか?
清水:とにかくあのふくらみは、「どうしたんだろ、ここ?」っていう感じなんだよね。コンセプトカーのときはぜんぜん違和感なかったんだけど。……そもそも、このポヨンとしたふくらみはなにを表してるのか? 「EVだからグリルがないですよ」ってことを主張したいのかなぁ。でもなんかうまくいってないな。
ほった:なにを表したいのか。どういう表情のクルマなのか。いまいちつかめないんですよね。
渕野:ひとつ考えられるとしたら、ヘッドランプからつながるボリュームと、中央のボンネットのボリュームとが分かれていた、1950・1960年代のクルマのモチーフを持ってきているということでしょうか。
ほった:カブトムシだったりテントウムシだったり……。あそこまで明白じゃないけど、スズキの「スズライト」もそうでしたね。ちなみに、先ほど触れた弓なりのショルダーラインも、スズライトがモチーフだそうですよ。
清水:でも、これってそういうリバイバルなの? 正直レトロには感じないんだけど。本当にただ単に、「なんで顔の真ん中がふくらんでんだろ?」ってだけ。これ、内側になんかメカが入ってるのかな? 運転支援システム用のレーダーとか。
ほった:あれの搭載では、どのクルマでも頭を悩ませるようですし。
渕野:コンセプトカーでは、この部分はもう少し下向きになってるんですよね。ところが市販車は突き出しているように見える。確かにこれは、なにかしらの要件でこうなったのかもしれません。
構造要件といえば、フロントサイドから見たときのランプまわりも、もうちょっと内側に入っていれば軽快に見せられたと思うんですけどね。コンセプトカーではフェンダーの流れの上にランプまわりが乗っていたけど、市販車ではヘッドランプが前まで出てきている。おそらくはこれも構造要件によるものなので、なんとも言えないですけど。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
実はスゴいクルマなのかもしれない
渕野:ただですね、自分が最初に写真でeスカイを見たときは、「なんかアリかもしれないな」と思ったんです。このクルマが3台並んだ写真を見て、コモディティーの極みかもしれないと。このクルマがたくさん連なって走っていたら、100円ショップの商品みたいな「安くていいもの」的な説得力があるかもしれない。これは、単体では語れないクルマかもしれないと。
ほった:前におっしゃっていた、社会性とか街の景観としてのカーデザインですね。
渕野:とにかくこれが3台並ぶと、毒気が抜かれるのは事実です。あまりにコモディティーすぎて、なにも感じない可能性もありますけど(笑)。
ほった:しかしそれも計算のうちだとしたら、スズキのデザイナーはマジでスゴいですよ。なんかeスカイを見る目が変わったかも。「顔がぽっこり」とか言ってた自分が恥ずかしいですわ。
渕野:もうひとつスゴいなと思ったのは、ATのシフトレバーです。EVなのに、本当に普通のシフトレバーが付いてる。
ほった:ものすごく普通の。
渕野:すごい旧態依然としてますよね(笑)。センタークラスターだけ見たら、EVだって気づかないくらい。スズキはどういう人が軽自動車に乗っているかを熟知していて、その知見から出た結論なんだと思うんですよ。自分らみたいなクルマ好きじゃなく、本当にこのクルマを必要としている人たちに向けてつくってる。そういう割り切りはスゴいです。
ほった:ワタシとしても、ポチポチボタンのシフトセレクターより、よっぽど好印象ですよ。
清水:新しさはゼロですけど。
渕野:逆にそこがすごいなと思います。ほかのEVは必死に先進感を出そうとしているけど、そういうのを使いづらく感じる人はいっぱいいる。さすがスズキは、そこをよく考えている。単純にデザインだけの話じゃないなと思わされました。
ほった:普段履きする、既存の軽に一番近いところにいるEVだと思います。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
これを海外でも販売するのか?
清水:eスカイだけど、これがガソリンエンジン積んで「ワゴンR」になったり、「アルト」になったりすることはないのね?
ほった:プラットフォームはEV専用設計なので、それはないでしょう。バッテリーモジュールを車体の一部として使い、クルマの底部をフラットにすることを前提にした構造なんですよ。これベースでエンジン車は、たぶんつくれないと思います。デザインの横展開も、スズキはそういうのをしないメーカーだから、おそらくないんじゃないかなぁ。
清水:それと、スズキについては軽EVをベースとしたモデルの海外展開もウワサされてるけど、eスカイをそのままヨーロッパで売るのかな? 向こうの人は、これを見てどう思うんだろう。
ほった:旧共産圏のクルマみたいですからね(笑)。まぁeスカイがそのまま海を渡るとは思えませんけど。
清水:そもそもヨーロッパ版の軽EV規格(M1E)って、ものすごくデカいもんになっちゃったしね(参照)。
ほった:ふたを開けたらまんまAセグメントだったので、新しいイノベーションはなんも起きないでしょう。それと、あっちにはマイクロモビリティーのカテゴリーもありますよね。シトロエンの「アミ」とかが含まれるやつ。
清水:逆にそっちは、ものすごいちっちゃい。
渕野:フィアットからも「トッポリーノ」が出ましたよね。ただ、ああいうのがトレンドなのかというと、そうでもありませんが。
ほった:でもあちらでは、2人乗りのマイクロモビリティーでもこうして地球の裏側で話題にされるくらい、オシャレに気をつかってるわけです。もしeスカイがあのデザインのまま海外に出ていくとしたら、ちょっと反応が怖いかもしれません。ベーシックすぎて、コモディティーすぎて。
清水:まぁ今のところ、スズキが軽EVをどうやって海外展開するのかは、ぜんぜん見えないんだけどね。
ほった:eスカイは国内でも212万円からですから、やっぱり価格で勝負でしょう。
清水:さすがスズキ! 庶民の味方だね。
(後編へ続く)
(語り:渕野健太郎、清水草一、webCG堀田剛資/まとめ=清水草一/写真=スズキ、ステランティス、webCG/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
-
第133回:軽EVのデザインを考える(後編) ―「ラッコ」も「eスカイ」も夢がない!? 軽EVが“普通のデザイン”になった理由― 2026.10.21 「BYDラッコ」に「スズキeスカイ」と、新作が登場しては業界の話題をさらっている軽の電気自動車(EV)。しかし、そのデザインはどれも普通というか、エンジン車の延長線上にないか? 急速におとなしくなった軽EVの潮流を、カーデザインの識者と考えた。
-
第131回:新型三菱パジェロ(後編) ―レトロブームには頼らない? 最新のデザイントレンドを追求した三菱の思惑― 2026.10.7 正式発表を間近に控え、ますますファンの間で話題が盛り上がっている新型「三菱パジェロ」。歴史的な旗艦の復活だというのに、三菱があえてレトロブームに乗らなかった理由とは? カーデザインの識者とともに、新型パジェロに見る最新のデザイントレンドを探る。
-
第130回:新型三菱パジェロ(前編) ―泥や雪より都会が似合う!? 高級&上質に進化した“関越キング”に思う― 2026.9.30 いよいよ登場した新型「三菱パジェロ」。復活を遂げたクロスカントリーSUVの雄だが、そのデザインは海や山やスキー場より、むしろ都会が似合うものに仕上がっていた!? 三菱が世に問う渾身の力作、その造形をカーデザインの識者とともに考察した。
-
第129回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(後編) ―プロポーションの進化と「駄作」の消失に見る、日本車の現在地― 2026.9.23 今や欧州と立場が逆転? 世界的に見ても高い水準にあるという日本のカーデザインだが、そこには本当に足りないものはないのか? 今後、さらなる発展を望むうえで必要なものとはなにか? カーデザインの識者と、日本の自動車デザインの“今”を考えた。
-
第128回:日本のカーデザインに足りないもの・欠けているもの(前編) ―厳しい制約が鍛えた独創の美と創造性― 2026.9.16 日本の地に自動車産業が芽生えて幾星霜。今やすっかり自動車大国となったわが国だが、ことカーデザインの質については、世界的に見てどれほどのレベルにあるのだろうか? 日本車の“美”がさらに進化していくうえで必要なものを、カーデザインの識者と考えた。
-
NEW
第879回:メルセデスがうたう「想像以上」は本当か? フル電動の新型「メルセデス・ベンツCLA」に1000km乗ってわかったこと
2026.10.27エディターから一言フルモデルチェンジした「メルセデス・ベンツCLA」の中でも本命とされるのが「CLA with EQテクノロジー」。新世代EVをアピールするメーカーのうたい文句は本当なのか、北海道で1000km乗って確かめた。 -
NEW
ダイハツ・ミラ イースtuned by D-SPORT Racing(FF/5MT)【試乗記】
2026.10.27試乗記ダイハツのベーシックな軽乗用車をもとに、ラリーやレース向けの競技車両に仕立てた「ミラ イースtuned by D-SPORT Racing」。軽量ボディーをロールバーで固め、力強いターボエンジンを搭載した一台は、クルマの楽しさを学べる教科書のような一台となっていた。 -
NEW
「乗り物酔いしやすいクルマ」と「酔いにくいクルマ」の違いは?
2026.10.27あの多田哲哉のクルマQ&A乗り物酔いしやすい同乗者がいると、ドライバーは運転に気を使う。では、クルマの側にはその要因はないのだろうか? 「酔いやすいクルマ」を見極めるポイントを、車両開発者の多田哲哉さんに聞いた。 -
2026-2027 Winter webCGタイヤセレクション
2026.10.262026-2027 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2026-2027のウインターシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけたスタッドレスタイヤか。各社自慢の最新モデルの実力を検証する。 -
新山千春 ダンロップのWINTER MAXX ICE ProとSYNCHRO WEATHERを試す
2026.10.262026-2027 Winter webCGタイヤセレクション<AD>俳優/タレントとして活躍し、クルマ好きとしても知られる新山千春さんが、ダンロップの最新スタッドレスタイヤ「ウインターマックス アイスプロ」とオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」を乗り比べ。キャラクターの異なる2つのタイヤは、それぞれどんな人におススメか? -
試して分かったブリヂストンのSUV向け冬用タイヤ「ブリザック アイスピーク」の実力
2026.10.262026-2027 Winter webCGタイヤセレクション<AD>ブリヂストンからSUV向けとなるスタッドレスタイヤの新製品「ブリザック アイスピーク」が登場。氷上・雪上性能を高め、摩耗ライフも大幅に向上させたというその実力を、モータージャーナリストの斎藤 聡さんと自動車ライターの伊藤 梓さんがチェックした。




















































