第348回:これでスーパーカーは完全に終わった!
2026.11.03 カーマニア人間国宝への道文字どおりの“離れ業”
もうだいぶ旧聞に属する話だが、テスラの新型「ロードスター」が空を飛びましたね。皆さんはアレについて、どう思われましたか?
私は大いなる衝撃を受けました。何の予習もないままあの発表会の動画を見、新型ロードスターがスラスターを噴射して空を飛ぶさまを見て思いました。「これでスーパーカーは完全に終わった」と。
私はスペースXのロケットが垂直着陸する姿が大好きで、動画を繰り返し見ている。特に好きなのは、「スターシップ」(史上最大の宇宙ロケット)の1段目「スーパーヘビー」が、再利用のために発射場に舞い戻ってきて、スラスターで姿勢を制御しつつ逆噴射で減速し、「メカジラ」という巨大なお箸につままれて回収される様子である。まさか私が生きてる間に、人類があんな離れ業を実現するとは思ってもいなかった。
最初に垂直着陸に成功した「ファルコン9」は、海上の浮体や地上への垂直着陸時に何度も失敗し大爆発を起こしたが、イーロン・マスクは、「それより箸でつまんだほうがラクじゃね?」と気づいたのだろう。
今まで一体誰が、巨大な宇宙ロケットを箸でつまんで回収しようなんて思っただろうか。そういう発想をする男がつくったのが、あの新型ロードスターなのである。
速さにロマンがあった時代の産物
個人的には、スーパーカーは「フェラーリ458イタリア」で終わっていた。458の加速やUFOのようなコーナリングまではなんとかついていけたし、あのクルマは「それでもやっぱりスピンできちゃう」みたいな人間臭いところがあって、本当に好きだった。
それ以降のフェラーリは、私にはあまりにも速くなりすぎた。ましてや現在の1000PS級スーパーカーのポテンシャルは、公道上ではまったく無意味だ。
サーキットというのは、市販車にとっては「檻」でしかない。檻の中でどれだけ速くても、私は大した価値を感じない。
だから私は、458から「328GTS」に戻った。もちろん加齢による動体視力や反射神経の衰えもありますけど、328なら、公道を普通に走るだけでちょっとだけ冒険。つまりロマンなのである。
いまスーパーカーは、古ければ古いほど尊いと私は思う。古ければ古いほどロマンがあるからだ。古ければ古いほど、速さにロマンがあった時代の産物でもある。
私の328は、自分の財力で手に入れられるクラシックスーパーカーのなかで、最もコストパフォーマンスの高い選択だった。328最高! だから燃えても手放さない。
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既存のスーパーカーはとどめを刺された
現代のスーパーカーは、大いなる行き詰まり状態にある。あまりにも速くなりすぎて無意味になってしまったけれど、みんなパワー競争から降りられない。降りたら負けなのだ。
フェラーリもランボルギーニも経営は絶好調だが、現在のフェラーリやランボルギーニのなかに、30年後もカーマニア的な価値を保っているモデルが、いったいいくつあるだろう。
最新のスーパーカーにあるのは、今この瞬間のステイタスで、時を超えるロマンはないんじゃないだろうか。特にハイブリッドスーパーカーは、電気系の耐久性の問題で、比較的早期(たとえば20年くらい?)の絶滅すら懸念される。先のことはわかりませんけど。
そんな状況でイーロン・マスクは、宇宙ロケット技術をクルマに搭載した。もちろん公道上では使えないけど、同じ公道上では使えないパフォーマンスなら、地面を走るだけよりも、空を飛んだほうが、ケタ外れにインパクトは強い。
一度空を飛ぶスーパーカーを見てしまったら、地面を這い回るだけの1000PS級スーパーカーなど、速いイモムシでしかないだろう。既存のスーパーカーは、とどめを刺されたのである。
イーロン・マスクは、どんなスーパーカーメーカーが逆立ちしてもつくれないスーパーカーをつくり、スーパーカーそのものを木っ端微塵に粉砕した。さすが破壊的天才!
もちろん私は、新型ロードスターを欲しいとは思わない。あのクルマにも、時を超えるロマンや耐久性はないだろうし、従来のスーパーカーに取って替わる存在ではないけれど、イーロン・マスクの生きざまを眺めるのは、本当に面白い。
(文=清水草一/写真=テスラ、清水草一/編集=櫻井健一 ※一部画像は生成AIによりつくられたイメージです)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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