第152回:つながらなくって困るのォ!? 「WiFi」イタリア&フランス奮闘記
2010.07.24 マッキナ あらモーダ!第152回:つながらなくって困るのォ!? 「WiFi」イタリア&フランス奮闘記
「WiFi車」ステッカーを貼りたい?
「WiFiオンボード」とは、目下シトロエンが欧州で販売する全モデルに装着しようとしている車内無線LANシステムのことだ。
WiFiオンボードの概要はこうである。ユーザーは好みの通信事業者から3G/3G+携帯のSIMカードを入手して車両にセットする。エンジンがオンの状態なら、停車中・走行中いずれも使用できる。ただし、国境を越えた場合は自動的に一旦オフとなる。高額な国際ローミング料金を未然に防ぐためだ。
メーカーはこのシステムでメール送受信に加え、オンラインゲームを楽しむことも提案している。
すでにシトロエンは2010年3月から欧州で販売している「C3」「DS3」「C3ピカソ」「C4ピカソ」全車にWiFiオンボードをオプションで選択できるようにしており、2010年夏の終わりまでには商用車を含む全モデルで装着可能にする計画だ。
オプション価格は国によって異なるが、取り付け費込みで約500ユーロ(約5万6000円)が目安という。それだけの投資である。もしボクが装着したなら、昔クーラーの付いたクルマに「冷房車」と貼ってあったように、リアウインドウに「WiFi車」と貼って自慢したいところだ。たとえハッカーがいても、目的地まで追いかけながら試みる暇人はいるまい。
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「ITオタク」の宿が狙い目?
これにちなんで、今回はイタリアの最新公衆無線LAN事情をお話ししよう。
最近イタリアのアウトストラーダを走っていると、路肩に「サービスエリアあり」の表示とともに「WiFiあります」の看板が出ていることが多くなった。しかしいまだ無料ではないのがほとんどだ。売店でパスワードの書かれたカードを数ユーロで買い、自分の端末やラップトップPCに入力する方式である。
ホテルもWiFi設備がない場合が多い。さすがに4つ星以上のホテルでは対応しているところが多いが、問題は値段で、60分約7ユーロ(約800円)などと、えらく高いのが一般的だ。より多くの分数を選択すれば、若干割安になるのだが、それでも高い。
いったい誰がこんなサービスを使うのだろう? と思い、ボク同様に旅を頻繁にしている英国人に聞けば、「あれは出張で来た人が使うのだ」と教えてくれた。なるほど、会社の経費をバシバシ使える人を対象にしているのか。ボクが手を出してはいけないものだったのだ。
そうかと思うと、小さな民宿が意外にも無料で無線LANを使用できて、苦もなく接続できてしまったりする。そうした宿は、大抵ITオタクの息子が張り切って投資してしまった場合が多い。つながらない場合も部屋までお兄さんがやって来て熱烈サポートがあったりする。
そうした大変ほほ笑ましいケースもまれにあるものの、全体的にみれば、やはりイタリアの公衆無線LAN環境は遅れていると言わざるを得ない。
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「わいふぁい」ではなく「うぃふぃ」
いっぽう意外にも無料・無制限の公衆無線LANが普及しているのは、地中海に浮かぶ小国家マルタである。街角のちょっとしたカフェでも「WiFi無料」の看板を掲げていて、お客さんたちがラップトップPCを広げている。
ちょっと前のEU統計だが、マルタにおける2007年から2008年のブロードバンド加入伸び率はドイツなどを抜いて欧州1位だった。そうしたブームのなかで、無線LAN無料を顧客サービスに打ち出す店が増えたのは想像に難くない。
気候もいい。だからボクなどはマルタにアパートを借り、毎日喫茶店に出ていっては原稿を書いたら、もっと筆が進むのではないか? と本気で考えたくらいだ。まあ、住む期間が長くなるにしたがい、知り合いになったおじさんたちに絡まれ、仕事にならなくなるのがオチだろうが。
フランスでも、無料の公衆無線LANがめざましい勢いで普及し始めている。とくに、郊外型ファミリーレストランや同じく郊外型のチェーン系ホテルが、無線LAN無料を売り物にし始めた。まあ、先にぶっちゃけた話をすれば、いずれの業種もイタリアでは、いまだ本格的に普及していない、うらやましいジャンルである。
参考までにフランスでは、WiFiを「わいふぁい」ではなく「うぃふぃ」と呼ぶ。
最も簡単な設定方法は、フロントなどでパスワードをもらい、自分のパソコンのブラウザに現れる専用サイトで入力するか、Windows Vistaでいう「ネットワークに接続」画面のパスフレーズ欄に入力するものだ。
いっぽうレストランなどでは、専用サイト上で自らパスワードを設定したのち、接続できるようになっているところが多い。
レストランでは、屋外のテラス部分でもかなりの確率で通じるので、子供が遊ぶボールや喫煙者の煙の行く方向さえ気をつけていれば、外で通信したほうが気持ちいい。
最後の手段は絵手紙!?
ただし、フランスでいつも簡単につながるとは限らない。先日泊まったチェーン系ホテルでは苦戦した。
そのホテルでは、自分のパソコンのブラウザ上に現れる専用サイトに携帯電話番号を入力すると、携帯にパスワードが送られてくるという仕組みだった。ところがフロントのお姉さんによると「フランスの携帯番号のみ有効よ」というではないか。そんなこと言ったって、イタリア在住のボクはフランスの携帯番号などもっているはずがない。
結局、ボクのパソコンのブラウザに現れる専用サイトの入力画面にお姉さんの携帯番号を入力し、その後お姉さんが自分の携帯で受信したパスワードをボクの携帯に転送してもらうことにした。人力である。
部屋に戻って、取り決めたとおりにする。なかなかお姉さんからメッセージが来ない。お姉さんが携帯を放置してしまったのだろう。
仕方がないので、「つながらなくって困るのォ〜」と、マスプロアンテナのCMソングの替え歌を歌って待っていた。その後3回くらい試して、ようやくパスワードが送られてきた。お姉さんには「しつこいやつだ」と思われたに違いない。
翌日、またネットに接続しようとしたがつながらないので聞いてみると「アクセスを切断したら、もういちど同じ操作を繰り返す必要がある」と言うではないか。
たまりかねたボクは、モノは試しと、イタリアの携帯番号を例の画面上で入力してみた。すると、なんのことはない、ちゃんとボクの携帯にパスワードが送られてきた。お姉さんの「フランスの番号のみ」は誤りだったわけだ。
公衆無線LANの不便さは他にもある。モバイルパソコンのユーザーなら誰でも経験があると思うが、自分のメーラーで受信はできても、送信はサーバーのセッティング上できない場合が多い。使い慣れないウェブメールを使うしかない。
そうこう苦戦しているうちに、「暑中見舞いを、ありがとう」というEメールが日本から舞い込んだ。フランスに到着後、気まぐれで出しておいた絵ハガキが東京に到着してしまったのだ。
所要日数は中3日。メールよりもハガキのほうが速いとは泣けてきた。それも普段のメールのやりとりでは有り得ない感激をされた。
こうなったら、iPadを買う資金でシニア向け生涯学習・絵手紙講座を受講しようかと真剣に考え始めた今日このごろである。
(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、Citroen)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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