アウディA1 1.4 TFSI(FF/7AT)【海外試乗記】
デキのいい末っ子 2010.06.24 試乗記 アウディA1 1.4 TFSI(FF/7AT)アウディ・ファミリーに、最も小さなニューモデル「A1」が誕生。その走りはいかなるものなのか、本国ドイツのベルリンからリポートする。
高級車並みのクオリティ
「A1」は、その名が示すとおり“いちばん小さなアウディ”である。全長3954mmは、親戚関係にある「フォルクスワーゲン・ポロ」の3995mmさえ下回るほどのサイズ。つまり、世間でいうところのBセグメントに属するわけだが、最近のアウディの例に漏れず、内外装のクオリティ感は驚くほど高い。
どれくらい高いかというと、ひょっとすると現行型「A3」をしのぎ、誕生からまだ2年しか経っていない「A4」にも匹敵すると思えるほど、きっちりと作り込まれている。それどころか、A1にはA3にも採用されていない統合コントロールシステム「MMI」(マルチメディアインターフェース)が用意されるほか、ナビゲーションシステムのロジックも、日本ではまだ発売もされていない新型「A8」と基本的に同じものになるという。
今回の試乗会に同行したデザイナーのひとりは「アウディの品質基準はひとつだけ。大型モデルも小型モデルも関係ありません」と語っていたが、たしかにそのとおりだと思う。
ただし、ただ贅(ぜい)を尽くすだけでは、現代の自動車として失格である。省資源でローエミッションという課題もしっかりとこなさなければ、市場では受け入れられない。その点、A1はしっかりと宿題をこなしている。
今回は、日本市場への導入が見込まれるガソリンモデル「1.4 TFSI」を中心に紹介する。まず、エンジンはフォルクスワーゲン・グループ自慢の1.4リッター直噴ガソリンターボエンジン(最高出力:122ps/5000rpm、最大トルク:20.4kgm/1500-4000rpm)を搭載。もともと燃焼効率の高い直噴ガソリンエンジンのパワーをターボで補っているのだから、力強さの点でも燃費の点でもかなりの高得点が期待できる。
これに組み合わせられるトランスミッションは、これまたフォルクスワーゲン・グループ自慢のデュアルクラッチシステム「Sトロニック」である。通常のMTと基本的な機構が同じなので伝達効率に優れるうえ、7段ギアボックスのギア比がワイドに設定されているため、カタログデータだけでなく実際に走らせても燃費がいいのが売り物。電光石火の速さでシフトするのにショックをほとんど感じなくて済むのも、デュアルクラッチシステムゆえの特徴といえる。
こだわりのスペック
ここまではアウディの小型モデルとして当然の仕様だが、新型車A1ならではの特色も備えている。そのひとつが、停車時にエンジンを自動的に止める「スタート・ストップ・システム」。車速がゼロになった瞬間にエンジンが停止し、ブレーキペダルをリリースするとセルモーターが回ってエンジンを再始動させるこのシステムは、ストップ&ゴーの多い都市部で威力を発揮してくれるだろう。
また、大型SUVの「Q7」などにも搭載されている「ブレーキエネルギー回生システム」も採用。これまで減速時や巡航時に無駄になっていたエネルギーをオルタネーターで電気エネルギーに変換、一度バッテリーで蓄えてから必要に応じて放出するため、加速時にオルタネーターで消費されるエネルギーを軽減でき、燃費の改善が見込めるようだ。
スタート・ストップ・システムとブレーキエネルギー回生システムを有しているため、A1には思いがけず大きなバッテリーが搭載されているが、これをフロントからリアに移すことで、フロント荷重を車重全体の61〜63%に抑えている点も要注目である。
アウディが誇る軽量化技術もしっかり息づいている。さすがに、かつての「A2」のようなアルミボディ技術「ASF」こそ採用されなかったが、スチールとしては最高レベルの強度を誇る熱間プレス成型された超高張力鋼板がボディ全体の11%に使われており、結果として車重は1125kgに仕上がった。
「え? でもフォルクスワーゲン・ポロの車重は1100kgしかないよ」と思われた方に念のため申し上げると、「1.2 TFSI」のあちらは、A1の「1.4 TFSI」よりパワーが20%近く低い。しかも、試乗会に参加した技術者によると、ボディ剛性はポロよりもA1のほうが5〜10%ほど高いという。前:マクファーソン・ストラット、後:トーションビームの足まわりなど、ポロと共用の技術も採用されているA1だが、そこはプレミアム・ブランドのアウディ、しっかりと差別化が図られているのである。
身のこなしは品がいい
試乗の舞台は、ドイツ・ベルリンの市街と郊外。プレゼンテーション会場から走り出すと、車内の静粛性の高さがひときわ印象に残った。一般的にトーションビーム式リアサスペンションはロードノイズの点で不利とされるが、A1ではほとんど意識されない。シャシー担当のエンジニアに聞いたところ、ボディにダンピング材をコートして遮音性を高めたそうだ。もっとも、ご想像のとおりこの素材は決して軽くないので、リアサスペンション周辺を中心に必要な部分のみに用い、重量増を最小限に抑えたという。
乗り心地は、1125kgの車重がすぐには信じられないくらい、しっとりと落ち着いている。ペースを上げていってもフラット感が損なわれない点も、評価できる。ただし低速域では、路面の凹凸にあわせてコツコツというショックを伝えるのはやや気になった。これは試乗車が215/40R17という低偏平率のタイヤを履いていたからで、標準の205/55R15か、せめて16インチだったら印象は大きく変わっていただろう。
それにしても、この軽快感は実に清々しい。発進のときすっと動き始めるさまや、ステアリングを切り込んだときのひらりと向きを変えるその様子は、シティカーにぴったりのキャラクターといえる。とはいえ、クルマの動きに軽々しさや安っぽさを覚えることはない。あくまでも品よく、それでいて機械的な精度が非常に高いことを想像させる身のこなしなのだ。
今回は、先に「1.6 TDI」(直噴ターボディーゼル)を試したため、当初「1.4 TFSI」の“線の細さ”が気になったが、Sトロニックのパドルシフトを駆使してベルリン近郊を飛ばしているうち、このシャープな吹け上がりを見せるエンジンの魅力を再認識することになった。回転が上昇するよりも前に、トルクがぐんと膨らんで力任せに加速するターボエンジンの魅力も捨てがたいが、小気味いい走りという意味では自然吸気に軍配が上がる。その点、ターボエンジンでありながら自然吸気エンジン並みのレスポンスの良さを誇るこの「1.4 TFSI」は、両者のメリットを掛け合わせたような魅力的なエンジンだといえる。
来春には日本上陸か
乾式クラッチ式の7段「Sトロニック」も制御に磨きがかけられたようで、ギクシャクすることはもちろんなく、発進時やシフト時にもほとんどショックを感じなかった。しかも、7段ゆえにギアレシオがワイドで、100km/h巡航時でも1950rpmしか回らない。
最近のダウンサイジングされたエンジンは、負荷をかけないときにどこまで燃費が伸びるかがひとつの勝負になるが、たとえば前述した7速100km/h巡航時のように、エンジンがノッキングを始める直前の、エンジン効率としては最高潮に達しているはずの状況で走っていると、省資源とCO2削減の両方に貢献していることが実感されて、えも言われぬ満足感に浸れることがある。もっとも、これは筆者だけに限った感覚かもしれないが……。
ヨーロッパでは「1.2 TFSI」(86ps)、「1.6 TDI」(90psと105psの2種)もラインナップされているが、いずれもギアボックスは5段MTのみとなるため、唯一Sトロニックが用意されている「1.4 TFSI」モデルが日本市場には投入される模様だ。
発売時期は未定ながら、早ければ来年早々になる見通し。ヨーロッパでの価格は「1.4 TFSI」のスタンダードな状態で220万円ほどだが、日本仕様はそれなりに装備が追加された状態となるから、おそらく200万円台の後半だろう。
(文=大谷達也(Little Wing)/写真=アウディジャパン)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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