BMW550i(FR/8AT)【試乗記】
オーダーメイドする歓び 2010.06.22 試乗記 BMW550i(FR/8AT)……1171万4000円
407psのV8エンジンを積む「5シリーズ」の最高性能バージョンは、BMWが考える新時代のファン・トゥ・ドライブを表現していた。
こんなもんじゃないはずなのに
排気量4.4リッターのV8ツインターボを積む「5シリーズ」の最高性能版、「550i」で首都高速に駆け上ってすぐに、「おやっ?」と思う。50〜60km/h程度のスピードだと、乗り心地がパッとしない。こっつんこっつんという質の悪い突き上げが、比較的ダイレクトに伝わってくる。ちょっと前に、3リッター直6ターボの「535i」で東京→福島を往復したのだけれど、「550i」より205万円安い「535i」の乗り心地には感銘を受けたのだ。東北道のざらざらとした轍(わだち)を補修しながら走っているようだった。
おっかしいなぁ、こんなもんじゃなかったのにな……。407psの超高性能車には速度域が低すぎるのかもしれない。そう思ってちょこっとスピードを上げてみるけれど、多少マシになるぐらい。覆面パトやオービスを気にしなくていい速度帯だと、劇的な変化はない。ここで、最近のBMW車に乗る時は常に「スポーツ」を選択している「ダイナミック・ドライビング・コントロール」の設定を変更してみる。この調整システムはエンジンや変速のレスポンス、パワステのアシスト量などをコントロールするもの。
通常だと「ノーマル」「スポーツ」「スポーツ・プラス」の順にスポーティなセッティングになる仕組みだけれど、「550i」の場合は少し説明が必要だ。「550i」にはサスペンションの設定を調整する「ダイナミック・ダンピング・コントロール」が標準装備される。これが加わると、パワートレイン系に加えてサスペンション(ダンパー、スタビライザー)のセッティングも「ダイナミック・ドライビング・コントロール」の管轄となる。同時に、「ノーマル」よりもう1レベル快適方向に振った「コンフォート」というセッティングが用意されるようになるのだ。円盤形の操作装置「iDrive」でセッティングを変更して、なるほどとひざを打つ。
拡大
|
拡大
|
拡大
|
駆け抜ける歓び2010
「おやっ?」と懐疑的になっていた気持ちが、「スポーツ」から「ノーマル」に変更すると「なるほど」という納得感にかわる。さらに「ノーマル」から「コンフォート」にセッティングを変えると、「なるほど」が「なるほど!!」になった。つまり、感心する乗り心地になった。407psの大出力を路面に叩きつけてもへこたれないように、「550i」の足まわり全般はそこそこ固められているようで、日本的なスピードレンジだと「コンフォート」ぐらいがちょうどいい案配なのだ。
「1000万円の高級車なのに、わざわざそんな面倒なことをしないと良好な乗り心地が得られないのか」という声もあるでしょう。でも、自分はこれでいいと思う。クルマにお任せするのではなく、運転方法その他を工夫することで楽しみを得るのはビーエムらしい。電子制御システムをきちんとセッティングするのがドライビング・スキルのひとつになるあたりは、最近のF1にも通じるかもしれない。
「ダイナミック・ダンピング・コントロール」とか「ダイナミック・ドライビング・コントロール」なんて書くとナンノコッチャという感じですが、パソコンのシステム環境設定やオーディオのイコライザーと同じように自分の好みにセッティングすればいい。“つるし”の状態に甘んじないで、自分専用セッティングを自分でオーダーメイドする感覚だ。最新の“駆け抜ける歓び”は、“設定する歓び”も含む。
で、乗り心地に対する疑問やわだかまりが消えると、ややサイズが大きすぎる点を除けば素晴らしく痛快なスポーツセダンだ。「535i」の3リッター直6ターボは静かで滑らか、いかにも優等生的だった。アクセルペダルへの反応がシルキーでお上品。それに対して「550i」のV8エンジンは、アクセルペダルを踏んだ瞬間の反応が骨っぽい。一瞬、ゴロッという硬質な手触りを感じさせた後、強烈なパンチを放つ。低音にほどよく高周波の音をトッピングしたエグゾーストノートはワイルドで、5000rpmから上では背筋がぞくぞくっとするほどレーシィでカッコいい。上手にワルっぽさを演出しつつも、寡黙にいい仕事をする8段ATのおかげで粗っぽさは感じさせない。
新時代のエグゼクティブに
あと9cmで5mというデカすぎるボディサイズがこのクルマの数少ない弱点だ。事実、街なかでは持て余すことが多い。それなのに、山道などを走らせている間は大きすぎると感じないのが不思議だ。速度を上げるほどにボディをギュッとコンパクトにする「ダイナミック・ボディサイズ・コントロール」が標準装備、というのは冗談だけど、走行速度に応じて前後ホイールの切れ角をコントロールする「インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング」が効果を発揮しているのは間違いなさそうだ。
これは後輪をステアする、昔でいう「4WS」的な仕組みを高度に電子制御したもの。60km/h以下だと、後輪が前輪の反対方向を向いて最小回転半径を小さくする。一方、60km/h以上だと前輪と後輪が同じ方向を向いて素早く、安定したコーナリングを可能にする。これだけの巨体を機敏に走らせているのには、このアクティブ・ステアリングが一役買っているのだろう。そしてその作動は、実に自然だ。
「BMW5シリーズ」のフルモデルチェンジは一見、あまり冒険をしない堅実なものに見える。ヘッドランプに歌舞伎の隈取りを施したような先代5シリーズの外観デザインにインパクトがあったから、新しい「5シリーズ」にはおとなしいという印象を受けるのだ。でも、新型は決して保守的なセダンではない。新種のファン・トゥ・ドライブを提案するメカニズムを搭載して、回生ブレーキや電動パワステなどで効率化にもチャレンジしている。そういう意味で、新時代のエグゼクティブにきっちりロックオンしている。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
拡大
|
拡大
|
拡大
|

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(4WD)【試乗記】 2025.11.15 ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」にスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。ベースとなった4WDのハイブリッドモデル「e:HEV Z」との比較試乗を行い、デザインとダイナミクスを強化したとうたわれるその仕上がりを確かめた。
-
MINIジョンクーパーワークス エースマンE(FWD)【試乗記】 2025.11.12 レーシングスピリットあふれる内外装デザインと装備、そして最高出力258PSの電動パワーユニットの搭載を特徴とする電気自動車「MINIジョンクーパーワークス エースマン」に試乗。Miniのレジェンド、ジョン・クーパーの名を冠した高性能モデルの走りやいかに。
-
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2025.11.11 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
-
メルセデス・ベンツGLB200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.10 2020年に上陸したメルセデス・ベンツの3列シート7人乗りSUV「GLB」も、いよいよモデルライフの最終章に。ディーゼル車の「GLB200d 4MATIC」に追加設定された新グレード「アーバンスターズ」に試乗し、その仕上がりと熟成の走りを確かめた。
-
アウディSQ5スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】 2025.11.8 新型「アウディSQ5スポーツバック」に試乗。最高出力367PSのアウディの「S」と聞くと思わず身構えてしまうものだが、この新たなSUVクーペにその心配は無用だ。時に速く、時に優しく。ドライバーの意思に忠実に反応するその様子は、まるで長年連れ添ってきた相棒かのように感じられた。
-
NEW
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート
2025.11.18エディターから一言「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ? -
NEW
赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃
2025.11.18小沢コージの勢いまかせ!! リターンズかねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃! -
NEW
アウディRS 3スポーツバック(4WD/7AT)【試乗記】
2025.11.18試乗記ニュルブルクリンク北コースで従来モデルのラップタイムを7秒以上縮めた最新の「アウディRS 3スポーツバック」が上陸した。当時、クラス最速をうたったその記録は7分33秒123。郊外のワインディングロードで、高性能ジャーマンホットハッチの実力を確かめた。 -
NEW
「赤いブレーキキャリパー」にはどんな意味があるのか?
2025.11.18あの多田哲哉のクルマQ&A高性能をうたうブレーキキャリパーには、赤をはじめ鮮やかな色に塗られたものが多い。なぜ赤いキャリパーが採用されるのか? こうしたカラーリングとブレーキ性能との関係は? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
第323回:タダほど安いものはない
2025.11.17カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。夜の首都高に新型「シトロエンC3ハイブリッド」で出撃した。同じ1.2リッター直3ターボを積むかつての愛車「シトロエンDS3」は気持ちのいい走りを楽しめたが、マイルドハイブリッド化された最新モデルの走りやいかに。 -
スズキ・クロスビー ハイブリッドMZ(FF/CVT)【試乗記】
2025.11.17試乗記スズキがコンパクトクロスオーバー「クロスビー」をマイナーチェンジ。内外装がガラリと変わり、エンジンもトランスミッションも刷新されているのだから、その内容はフルモデルチェンジに近い。最上級グレード「ハイブリッドMZ」の仕上がりをリポートする。






































