日産エルグランド350 Highway STAR Premium プロトタイプ(FF/CVT)【試乗速報】
あのクルマの後継車? 2010.06.21 試乗記 日産エルグランド350 Highway STAR Premium プロトタイプフルモデルチェンジに先だって、日産の新型エルグランドのプロトタイプ試乗会が同社の栃木テストコースで催された。新しいキング・オブ・ミニバンの仕上がり具合はいかに!?3代目というより4代目!?
エルグランドのモデルチェンジと聞いて、「おおっ」と思う。先代にあたる2代目のデビューは2002年だからモデルチェンジは8年振り。随分と長寿だ。そういえば去年だったか一昨年だったか、間もなくエルグランドがモデルチェンジするという噂を聞いたような聞かなかったような。
8年間、変える必要がなかったのか、それとも変えられなかったのか。といったあたりのお話を、試乗を行う栃木テストコースの隅っこで平野剛志CPS(チーフ・プロダクト・スペシャリスト)にうかがう。ちなみに、CPSとは開発のまとめ役。すると平野CPSは「実は一度、モデルチェンジが延期になりました」と、きっぱり。開発の最終段階でのチェックで、「これがエルグランドと呼べるのか、ヘンなものは出せない」というダメ出しにいたったそうだ。
ちゃぶ台をひっくり返した時期までは聞き出せなかったけれど、「残すところは残しましたが、フロアのレイアウトから何から、基本的には全部やり直しました」という。つまり満を持して登場した、3代目というより4代目のエルグランドということになる。
乗り込む前に新型エルグランドの周囲をぐるっとひと回り、外観と寸法をチェック。外観は、ひとことで言えば押し出しが強くなった。寸法を現行型エルグランドと比べると、全長が80mm、全幅で35mmほど大きくなっている。フロントマスクの強化とボディの大型化は、どちらも「トヨタ・アルファード」との関ヶ原の合戦に備えたものだろう。事実、新型エルグランドは全長とホイールベースで50mm、全幅で10mmほどアルファードを上回っている。ただし、全高は現行エルグランドより95mm、アルファードと比べても85mm低い。そして、外からでは見えない大きな“変革”が行われていた。
高級化路線をひた走る
それは、現行型がFRをベースにしているのに対し、新型は「ティアナ」や「ムラーノ」と共通のFFのプラットフォームを用いていることだ。ただしフロアなどはエルグランド専用設計で、フロアを低くすることを念頭に開発は進められたそうだ。現行型よりフロアは130mmも低くなっており、車高が低くなっても室内高はいままで以上に確保されている。
ここまでの概要を確認してから、試乗車に乗り込む。事前にお断りしておくと、今回試乗したのはあくまで市販化の前段階のプロトタイプである。用意されたのは「エルグランド350 Highway STAR Premium」で、3.5リッターのV型6気筒エンジンを積むFFモデル。エンジンはほかに2.5リッターの直4エンジンもラインナップされ、どちらのエンジンでもFFと4WDを選ぶことができる。組み合わされるトランスミッションは、どの仕様もエクストロニックCVTとなる。
30分という限られた試乗時間だったので細部までチェックする余裕はなかったけれど、インテリアに関しては現行型のハッとするようなモダンさは影を潜めた。それよりも、落ち着きや大人っぽさを狙ったデザインだとお見受けする。助手席と2列目シートの3つの座席に足を休めるためのオットマンが備わることからも、より快適で高級な方向に進んでいると理解する。
スタートボタンを押してエンジン始動。頭の中では、8年前の現行型の試乗会で聞いたフレーズがよみがえった。それは、「エルグランドはFRベースなので、FFベースのライバルより走りが高級なんですよ」というもの。前輪が舵、後輪が駆動と役割を分担するFRだからこそ上品なステアフィールなどのアドバンテージを得ることができる、という内容だった。では、FF化によってそうしたアドバンテージを失ってしまったのか?
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高速バンクで飛び出す鼻歌
走り始めて数十メートル、手のひらに伝わるステアリングホイールの手応えはしっとりとした上質なもの。乗り心地はソフト。テストコースには、わざと荒れた舗装にしてクルマに負荷を掛ける路面が何カ所もあるけれど、そこを突破しても直接的なショックを遮断する。サスペンションが、アスリートのひざの関節みたいにしなやかに伸び縮みしている印象だ。試乗後に乗り心地に携わったエンジニア氏に確認したところ、状況にもよるが現行型より路面からの突き上げやショックは30%ほど減っているとのこと。
おもしろいのは、乗り心地がソフトなのにテストコース周回路の高速バンクに突入しても不安を感じないことだ。バンク部分を傾きながら駆け抜けていたら、『カーグラフィックTV』のオープニング画面を思い出す。テーマ曲だった『The Theme of Winner』を鼻歌で歌ったら、『webCG』のSディレクターに鼻で笑われた。ま、それだけ安心して走れたということです。
ほかに周回路で感じたことは、直線部分でレーンチェンジを繰り返した時の安定性、160km/h程度まで速度を上げても声のボリュームを上げずに会話ができた静粛性だ。静粛性に関しては風切り音の小ささが印象的だったので、担当エンジニア氏に話を聞いたところ、「ドアミラーの位置をAピラーからドアに移したことと、フロントガラスの遮音対策が奏功した」とのこと。
ハンドリングを試すことができるコースにステージを移しても、上質な手触りは変わらない。しなやかにロールしながらコーナーをクリア、V6エンジンとCVTのマッチングも良好で、レスポンスも加速力も上々だ。山道をブッ飛ばすようなクルマではなないけれど、ペースを上げてもしっかりとついてくる。プロトタイプに“ホームグラウンド”で乗ったという点は差し引く必要があるけれど、全体にしっとりと上質になったと感じる。この日の印象に限って言うと、この8月で生産終了となるシーマの後席に座っていた方は、新しいエルグランドを後継車の選択肢に加えていいかもしれない。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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