ランボルギーニ・ガヤルドLP550-2 バレンティーノ・バルボーニ(MR/6AT)【試乗記】
古き良きモノ 2010.06.14 試乗記 ランボルギーニ・ガヤルドLP550-2 バレンティーノ・バルボーニ(MR/6AT)……3146万1675円
スーパースポーツカー「ガヤルド」のスペシャルモデル「バレンティーノ・バルボーニ」に試乗! 久々の復活となった“後輪駆動ランボ”の走りをリポートする。
「原点回帰」のクルマ
「バレンティーノ」と聞いて多くの人がまず思い浮かべるのは、MotoGPライダーの「ロッシ」だろう。では「バルボーニ」とは何者か? 1967年にランボルギーニに入社し、73年からはテストドライバーとして同社スーパーカーの走りを磨き上げてきた、“猛牛屋のシェフ”といえる人物である。
2008年をもってランボルギーニを退職した彼の名が、翌年250台の限定生産モデルとして発表された「LP550-2」に冠された。しかしそれは、偉大なるシェフへのオマージュだけではないことが、実車に接して理解できた。
車名にある「-2」が示すとおり、このクルマは「ガヤルド」初の、後2輪駆動である。かつての「ミウラ」や「カウンタック」と同じだ。そしてバルボーニ氏は、これらの名車を肌で知る貴重な存在である。ボディを貫く幅広のホワイトストライプや、やはり白をアクセントとしたインテリアからは、70年代の香りが漂う。
4WDスポーツカーの2WD版というと、レースをにらんだ軽量硬派仕様というイメージが浮かぶ。「911ターボ」がベースの「GT2」が典型だ。しかしガヤルドにおけるその任は、最近発売された「LP570-4 スーパーレジェーラ」が受け持つ。
ではLP550-2 バレンティーノ・バルボーニの立ち位置は? 「原点回帰」という言葉がふさわしいだろう。アルミボディにV10直噴エンジンという最新ランボルギーニのテクノロジーを用いつつ、2WDとすることでミウラやカウンタックへのリスペクトを表現した。そのキャラクターを強調するために、名物シェフの名前を加えたのではないかと思う。
「カウンタック」を操る感覚
過去の遺産をデザインでよみがえらせる例は多いが、メカニズムを復活させるのは史上初ではないだろうか。そう考えると画期的なモデルである。
車名の数字にあるように、5.2リッターV10の最高出力は550psと、LP560-4より10ps、スーパーレジェーラより20psのダウンになる。1380kgの車重(乾燥重量)は、両車のほぼ中間だ。ゆえに加速は、もちろん強烈ではあるけれど、4WD版とさしたる違いはない。でもその瞬間にドライバーが受ける感触はかなり違う。
リアミドシップならではの強大なトラクションゆえ、派手なホイールスピンは起こさないが、フル加速では進路が振れ気味になる。最初はびっくりしたが、いままで乗ったガヤルドがすべて4WDだったことを思い出して納得した。
一度でもこれを体感すると、乗り手の意識は他のガヤルドとまったく違うものになる。4WDだから踏み抜いても安心という気持ちは一気に消え失せ、ミウラやカウンタックを操るときに通じる緊張感が押し寄せるのだ。
音はV10っぽいパルスが抑えられ、4000rpmから上でフォーンと抜けのいいサウンドを響かせるようになった。この点も懐かし系だ。ギアを「オート」、モードを「ノーマル」にしていれば変速はゆっくりで、クルージングの回転数は2000rpmにも満たない。低速ではさすがにゴンゴンくる乗り心地は、100km/hに達する頃にはフラットになり、継ぎ目以外はおだやかという表現が使えるほどだ。
ところがセンターコンソールのスイッチでギアを「マニュアル」、モードを「スポーツ」にセットすると、すべてが豹変(ひょうへん)する。変速はスピーディになり、排気音は4000rpm以下でも野太く唸る。「コルサ」モードではカンカンッと、心地いいほどダイレクトなギアチェンジに圧倒される。
難しいからおもしろい
自然なステアリングの切れ味は、前輪がフリーなクルマならでは。でも前に駆動系がないから身のこなしが軽快とはいい切れない。漫然と切って踏んでも速く走れる4WDとは違い、ブレーキやステアリングやアクセルの扱い具合で、ハンドリングが歴然と変わってくるからだ。
速さを得るために、ドライバーがすべき仕事はLP560-4の何倍にもなる。だからおもしろい。制動から操舵、加速という操作をうまく決め、スーパーカーとしては大きめの姿勢変化を利用して、きれいな弧を描けたときの喜びは格別だ。絶対的なスピードだけでなく、そこに至るプロセスも楽しめる。
気分が乗ってきたら、モードを「スポーツ」、そして「コルサ」にセットすればいい。ESPが多少のスライドを許す設定になってくれるから、スロットルで向きを変える快感も堪能できる。乗り手の気持ちをより走りに反映できるわけだ。
車体がどんどん小さくなり、自分との距離が近づいていく。緊張感はあるが、それを上回る達成感もある。オーバー5リッター、オーバー500psで、ここまで乗りこなす楽しみが味わえるとは思えなかった。その人間臭さはたしかに、古き良きランボルギーニに通じるものだった。
(文=森口将之/写真=郡大二郎)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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