第144回:俺たちに「クルマ好きか?」と聞くなかれ! トリノの古典車コンクール
2010.05.29 マッキナ あらモーダ!第144回:俺たちに「クルマ好きか?」と聞くなかれ!トリノの古典車コンクール
カラヤンのあとにマーチングバンド!?
毎年お誘いを受けながら、ついつい顔をだす機会を逸してきたイベントがある。そのひとつが、今回お届けする「トリノ国際コンクール・デレガンス」である。
なかなか足を向けるのがおっくうだったのには理由がある。それは毎回、泣く子も黙るヴィラ・デステのコンクール・デレガンスの直後であることだった。
それもトリノの1日めは旧市街のサンカルロ広場で開催ということで、「サントリーホールでカラヤンを堪能した翌日、地元中学の校庭でマーチングバンドを聴くようなものか」と勝手に想像していたこともあった。
しかし先日、某所でトリノコンクールのオーガナイザーであるジョルジョ・モッレ氏にばったり会ってしまった。
彼は「もちろん、ヴィラ・デステとは、レベルが違う。でも、ぜひ私たちのやり方を一度観にきてほしい」とボクに熱く語った。自らのイベントの立ち位置を謙虚に認める、その姿に感動したボクは、我が家から400km、トリノまでクルマを走らせた。
そうそうたる審査員
トリノのコンクールは、今年で5年目である。ただし実はもう少し説明が必要なのだ。
このイベントは、1923年に第1回が開催されつつも消滅してしまった、往年のトリノ自動車コンクール・デレガンスを復刻させたものである。ついでにいえば、れっきとしたイタリア古典車協会(ASI)の公認イベントで、ピエモンテ州、トリノ県およびトリノ市といった自治体の後援も受けている。
サブタイトルには「レ・レジデンツェ・サバウデ(サヴォイア家の館)」とつけられている。その昔トリノ一帯を治め、のちに新生イタリア王家となるサヴォイア家ゆかりのサンカルロ広場と、郊外の庭園が舞台だからだ。
今年出展車リストに並んだ参加車は61台。1920年代から1960年代まで9クラスに分けられていて、最古の車両は1923年の「ロールス・ロイス シルバーゴースト ピカデリー」だ。
いっぽう最も若いクルマのカテゴリーは1960年代後半にまで及んでいて、それらは少々玉石混交というか、天上界と俗界が入り混じった感じがあるが、多くの人々を引き付けるエンターテインメントとしては、必要であるのかもしれない。
それはともかく驚いたのは、11人の審査員。ボクの想像を超えたメンバーだったのだ。
ピニンファリーナで「ディーノ246GT」などを手がけたアルド・ブロヴァローネをはじめ、往年カロッツェリア・ギアで「デ・トマソ パンテーラ」のデザインを担当したトム・チャーダや、現フィアット・グループ・オートモービルズのデザイン担当副社長ロレンツォ・ラマチョッティもいる。
そうしたそうそうたる人々が顔を揃えているにもかかわらず、サンカルロ広場は公共の場所ゆえに入場無料だ。後日の発表によれば、ビジターの数は5000人に達したという。
思えばここは、歴史上幾度となく、フィアットやランチアのカタログ写真に使われた広場である。もちろん、オーガナイザーによってプロのモデルさんたちもチャーターしているのだが、そこを散歩するトリネーゼたちも天然モデルと化している。
コンクールの舞台として、けっしてヴィラ・デステにひけをとらないではないか。見れば、若い女子たちがクルマの前でデジカメ写真の撮りっこをしている。彼女たちが「クアント・ベッラ(かっこいい)!」と、ひときわ盛り上がっていたのが戦前モデルなのは意外だった。
クルマの街のコンクール
前述のアルド・ブロヴァローネ氏に話を聞く。このイベントの存在意義は? すると彼はこう答えた。
「イタリアの中で、最も古いコンクールのひとつだからです」
たしかにヴィラ・デステの第1回は1929年だ。トリノはそれより6年も早く始まっていたのである。
「もちろん、今日トリノの街は、すべてが順風満帆とはいえない。しかし、私たちは、自動車の街である誇りを保ち続けたいのです」
次に、忙しく動き回るオーガナイザーのジョルジョ氏をつかまえることができた。彼は1945年トリノ県生まれ。父親は早くからクルマを愛し、レースにも積極的に参加していた、いわゆるジェントルマン・ドライバーだった。
そうした環境ゆえ、ジョルジョ氏も早くからクルマに親しんだ。大学を卒業後、いったんクルマとは関係ない仕事に就いたが、30年前に独立を決意。以来トリノを中心に、さまざまな自動車イベントのプロモーションを手がけてきた。自分が主催するイベント以外にも、ヒルクライムの計測委員などのため年中イタリア各地を巡っている。
クルマへの情熱をそこまで維持できる秘密は?
そんな質問をボクが投げかけ始めた途端、ジョルジョ氏と一緒にいたおじさんが
「そんな質問は無意味だよ」と笑いながら話を遮った。そして胸に手を当てながら、こう続けた。
「クルマとユベントス(イタリアのプロサッカークラブ)は、俺たちトリネーゼのDNAなんだから」
トリノのコンクールは、かくもパッシオーネ多き人たちによって支えられていた。イベントの面白さを知名度で類推してはいけない、のである。
(文=大矢アキオ、Akio Lorezno OYA/写真=大矢アキオ、Fiat Group Automobiles)
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写真で見る、「トリノ国際コンクール・デレガンス」はこちら。

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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