ジャガーXJ ポートフォリオ(FR/6AT)【試乗速報】
動けるVIPサルーン 2010.04.22 試乗記 ジャガーXJ ポートフォリオ(FR/6AT)……1320.0万円
ジャガーの新型サルーン「XJ」に下野康史が試乗。伝統のスタイルを捨てクーペルックをまとう、旗艦モデルの中身や、いかに?
オーラが出ている
「ジャガーXJ」史上もっとも画期的なモデルチェンジをしたのが、今度のXJである。なにしろ、1968年以来のあの“XJスタイル”を捨てて、まったく新しいデザインに生まれ変わったのだ。
でも、見たところ、「ちょっと大きい『XF』じゃないの?」と思っている人は多いだろう。実はプレスフォトレベルではぼくもそうだった。だが、ファストバッククーペと見まがう流面形のリアスタイルを目の当たりにすれば、XFとの違いは一目瞭然(りょうぜん)だ。
こうしたラグジュアリーセダンは、たとえばホテルの車寄せに出現したとき、ギャラリーに思わずため息をつかせなければウソである。エコもいいけど、やっぱりこっちもありだなと。新型XJの裾(すそ)をひくような後ろ姿からは、アナザーワールドへいざなうそんなオーラが出ていると思う。
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ベントレークラス
インテリアは、さらにニューXJの独壇場だ。試乗車は5リッターV8自然吸気の標準ホイールベースモデルとしては最も高級な「ポートフォリオ」。20インチホイールを履き、アダプティブクルーズコントロールや1200Wのオーディオなどを標準装備して1320万円の価格は、ベースグレードの「ラグジュアリー」より320万円高い。
革や木やメッキパーツを惜しげもなく使うのはハイエンドジャガーの定石だが、その使い方や見せ方は新しい。とくにドアトリムからつながるウッドパネルをダッシュボードの奥にもベルトのように埋め込んだデザインは新鮮だ。先代XJの内装が、マイナーチェンジのたびにコストダウンをあらわにしたことを思うと、品質感の向上も著しい。その点ではいまやベントレークラスに思える。
「XF」よりむしろ若向きになったのは、メーターパネルである。アナログの3連メーターは、実はエンジンをきると消えるバーチャル計器盤である。サスペンションやエンジンや変速機の制御がスポーティになるダイナミックモードを選ぶと、メーターの盤面に赤みがさし、パドルでシフトを始めれば、変速のたびにギア段数の数字が3次元ムービーのように飛び出して見える。これまでのXJオーナーがついてこれるかどうかは不明だが、それも確信犯だろう。
“らしさ”は健在
5リッターエンジンは最新のAJ-V8。「XF」にも使われている直噴V8だ。385psのパワーを始めとして、出力のカタログ値はXFと同じだが、パフォーマンスは「XJ」が上回る。新型も先代同様、アルミモノコックボディを採用する。そのため、XJはスチールボディのXFより軽い。試乗車の車重は1850kg。「XF 5.0ポートフォリオ」より10kg軽量に仕上がっている。ボディ全長は165mm長いのに、だ。
先代よりさらに10パーセントの軽量化を果たしたというホワイドボディは、フロントエンドにマグネシウムを使用している。その結果、前後重量配分は51対49のほぼイーブンになった。
軽量設計自慢はけっしてダテではない。新型XJの第一印象は、動きの軽さだった。0-100km/hは5.7秒という加速データもこのガタイにして大したものだが、走り出した瞬間から独特の軽快感がある。スッと動くし、ブレーキもかるく効く。ズデンとしていない。全長5.1m超のフルサイズセダンとしては慣性質量が小さい感じがするのだ。「動けるVIPサルーン」である。アルミボディのメリットを実際の走行感覚にもつなげた好例だと思う。
広いトランクにゴルフバッグを入れたオーナーが、帰路のワインディングロードでがんばったとしても、大丈夫だ。そういうステージでも新型XJは速く、そして楽しい。リアにエアサスペンションを備える足まわりは、終始、良好な乗り心地をもたらすが、大入力のコーナリングではスポーツサルーンと呼べる高性能をみせてくれる。
ダイナミックモードを選ぶと、脚は少し硬くなるが、ノーマルでもロールは軽度だ。スピン制御の介入も適切で、余計なお世話を焼かない。パドルでシフトダウンを命じると、ブリッパー機能をもつ6段ATが素早い回転合わせをやってのける。まちがいなく史上もっとも運動神経のいいXJである。
その一方、ジャガーXJならではのセンシブルなやさしさは健在だ。キャビンは高級とか豪華とかいう以前に、なにより居心地がいい。昔から、XJに乗ると、なぜかぼくはいつもより多めに譲ってしまう。不思議だ。バックするために車内で後ろを振り返ると、リアシートに座っている人も振り返る、というのと同じくらい不思議である。でも、クルマ全体から醸し出される「競争はおよしよ」的なキャラクターが、今度も変わっていなかったのが、個人的には新型XJのいちばんうれしい点である。
(文=下野康史/写真=河野敦樹)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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