マツダ・アテンザシリーズ【試乗速報】
欧州風味そのままに 2010.02.16 試乗記 マツダ・アテンザシリーズ直噴2リッターエンジンの採用など、マイナーチェンジが施された「マツダ・アテンザ」。試乗をしたリポーターは、エンジン以外の改良に目を見張るものがあったという。
クルマ好きが共感できる
異国情緒を味わえる日本車というと妙な表現かもしれないが、ワールドワイドに展開するわが国のクルマには、そんなモデルがいくつかある。2〜2.5リッター級のセダンやワゴンなど、代表格じゃないだろうか。
「ホンダ・アコード」に「スバル・レガシィ」、そしてここで紹介する「マツダ・アテンザ」というラインナップを紹介すれば、この主張に共感してもらえると思う。
国内のセダン/ワゴン市場が衰退したために、結果として欧米主導のクルマ作りになったことは否定できない。しかし日本のユーザーより走りにうるさい現地の基準で開発されたからこそ、クルマ好きが共感できる部分を数多く備えていると評することもできる。
そのなかでも前身の「カペラ」時代から、ドイツを中心としたヨーロッパ諸国で根強い評価を得てきたアテンザが、1月にマイナーチェンジを実施した。
「セダン」、5ドアの「スポーツ」、そして「スポーツワゴン」の3ボディ構成はいままでどおりで、2リッターと2.5リッターの直列4気筒エンジンを積んだFFあるいは4WDという基本構成も同じ。ラインナップでは6段MTの用意がスポーツのみになり、そのスポーツから2リッターモデルが消えた以外、大きな動きはない。
これ見よがしのフェイスリフト中心でなく、メカニズムを含めた熟成である点がまたヨーロッパ的だが、そのなかで注目すべきは2リッターエンジンの一新だ。「アクセラ」や「プレマシー」に積まれている直噴ユニットにスイッチしたのである。
主役交代
この日は「スポーツ25Z」の6段MT車、「スポーツワゴン20S」と「セダン25EX」の5段AT車という順番で乗ったのだが、記憶のなかにあるマイナーチェンジ前と比べると、2つのエンジンの差が縮まったような気がした。
最高出力は150psから153ps、最大トルクは18.6kgmから19.3kgmへのアップにすぎないけれど、ATのトルコンをタイトなチューニングにするなどの最適化を行ったためもあり、1450kgのボディを不満なく加速させる。
静粛性の高さも印象的で、同じ直噴2リッターを積むアクセラやプレマシーとの車格の違いを教えられた。ただボリュームを抑えただけではなく、耳障りなノイズを集中的に遮断しているのだろう。かつてのマツダのレシプロエンジンで気になったザラついた音はなく、スムーズな加速が堪能できた。
旧型ではあくまで2.5リッターがメインユニットで、2リッターは廉価版というイメージが強かったが、今回の変更で、こちらが主役と呼んでもいいぐらいの実力を手に入れていたのだ。
とはいえ2.5リッターにも持ち味はある。大きな4気筒らしい低中回転域でのトルクとパンチがそれで、2000rpmあたりからでも速度をグングン上乗せしていく力強さは、2リッターモデルでは体感できない。
しかもこちらではMTが選べる。確実なシフトタッチを手のひらで楽しみつつ、ダイレクトな加速に身をゆだねる快感は、どんなに優秀な自動変速機でも味わえない。「マツダスピード」のような硬派ではない、フツーのグレードの3ペダルというのも、好き者にはポイントが高い。5ドアハッチバックというボディを含めて考えれば、もっとも欧州的な日本車といえるんじゃないだろうか。
玄人好みのマイナーチェンジ
でも個人的には直噴エンジンやMTよりも、シャシーが印象に残った。スペック上の変更はないものの、「ステアリングの応答性を高めるとともに、その後の挙動を穏やか方向に仕立て直した」というエンジニアの言葉どおり、旧型とは明らかに違うハンドリングを備えていたのである。
従来のマツダ車の電動パワーアシストは、中心付近の反応が鈍いのに、その領域を超えると唐突に切れる感触だった。ところが新型は、センターの遊びが消え失せ、リムを回したぶんだけ前輪が動くようになった。
しかしそのまま車体がスパッと旋回を始めることはなく、スポーツワゴンで4765×1795×1450mmというボディサイズなりの反応スピードで、コーナーへと入っていける。
操舵の正確性によってクルマとの一体感を味わわせつつ、過敏すぎない身のこなしで車格にふさわしい落ち着きを表現している。意図的なまでに鋭い反応を楽しさだと主張する、一部のヨーロッパ車よりも、はるかに上質な走りだ。
車種を問わず硬すぎると不評だった乗り心地も、少し改善された。ストローク感がないのは相変わらずだが、ショックのいなしがうまくなり、高速でのフラット感もアップしていた。
見た目が激変したわけでもなく、ハイブリッドのようなわかりやすいメカもない。でもパワートレインやシャシーには良識的な改良が施してある。なんとも玄人好みのマイナーチェンジだ。かつての欧州車にあこがれた人ほど、今回のアテンザの進化に共感するんじゃないだろうか。
(文=森口将之/写真=高橋信宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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