BMWアクティブハイブリッド5(FR/8AT)【試乗記】
BMWの魅力、再発見 2012.10.09 試乗記 BMWアクティブハイブリッド5(FR/8AT)……965万9000円
BMWのミドル級セダン「5シリーズ」にハイブリッドバージョンが登場。その走りは、ガソリン車とどう違う? 燃費も含め、テストした。
“アクティブ重視”のハイブリッド
長い間、BMWの魅力は「シャーン!」と華やかに回るエンジンだと信じて疑わなかった。だからハイブリッド車やEVの時代になるとBMWの魅力は色あせるのではないか、と少しばかり心配していた。
けれども今年から日本への導入が始まった「BMWアクティブハイブリッド5」に乗ってみると、そんな不安は吹き飛んだ。BMWは「エンジンがいい」のではなく、「エンジンもいい」のだ。
という原稿を書く前に、アクティブハイブリッド5というモデルの性格について、少し説明しておきたい。
BMWアクティブハイブリッド5のパワーソースは、「535i」が搭載する3リッター直列6気筒ターボユニット(306ps)をベースにする。エンジンとギアボックスの間にモーターを配置し、モーターの前側と後ろ側にある二つのクラッチで駆動力を制御する「1モーター2クラッチ式」のハイブリッドシステムを採用した。
前のクラッチをつなげばエンジンの出力がダイレクトに伝わるし、エンジン側のクラッチを切ればエンジンは停止する。
最高出力54psのモーターが加わることで、ハイブリッドシステム全体の最高出力は340psと、535iの1割増しとなる。JC08モード燃費を見ると、535iが13.0km/リッター、アクティブハイブリッド5が13.6km/リッター。
ん? ハイブリッドという割にはそんなに燃費が良くなっていない……という疑問をお持ちになる方も多いと思う。それはまったくその通りで、もし省燃費を第一義に「BMW5シリーズ」を選ぶなら、JC08モード燃費で14.2km/リッターを記録する2リッター直4ターボの「523i」(184ps)がベストということになる。
つまり、BMWアクティブハイブリッド5は、徹底的に燃費を追求しようという「トヨタ・プリウス」のようなハイブリッド車とは性格が異なるのだ。
「523iに比べて最高出力が160ps近くも上回るのに、燃費はそれほど大きくは変わらない」という事実が、アクティブハイブリッド5のコンセプトを物語る。まず“アクティブであること”を重視するハイブリッドシステムなのだ。
モーターに存在感
バッテリー残量にも左右されるけれど、ゼロ発進した後にモーターだけで走るEV走行が長く続くことに驚かされる。構造的には、発進から60km/hまでEV走行が可能だという。
エンジンが始動する瞬間も極めてナチュラルで、どこでエンジンがかかるかじっくり見極めてやろうと、身構えて観察しなければ気付かないほどだ。発進加速からしばらくは、ガソリンエンジンが苦手とする低回転域の走行をモーターがアシストしているという感触が伝わってくる。
低速域だけでなく、スピードの乗った登り勾配でもモーターは存在感を発揮する。トルクにさらなる厚みを加える様子は、モーターが作動しているというより、“電気ターボ”が効いていると表現したくなるものだ。
面白いのは、巡航中にアクセルペダルを戻すとエンジンが停止して惰性で走行する状態だ。この状態をBMWは「コースティング・モード」と呼ぶ。ただし、この時のグライダーのような滑空感覚はプリウスや「ホンダ・インサイト」でも味わっているから、特別な目新しさはない。
何が面白いかといえば、「バイエルンの原動機製造株式会社」の製品なのに、エンジンが停止すると「おっ、静かでスムーズ、気持ちいい」と思うことだ。エンジンが売り物だったはずのBMWなのに、エンジンが止まったEV走行の状態をほめたくなったり、うれしく感じるところが興味深い。
このコースティング・モードは、「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ・プラス」も選べる「ドライビング・パフォーマンス・コントロール」で「ECO PROモード」を選ぶと、さらに頻繁に味わうことができる。
雑味のない乗り心地
「BMWアクティブハイブリッド5」のエンジンが止まった状態がうれしく思えるのは、この無音・無振動の状態に、クルマの隅々にまで自分の神経が通っているかのような感覚が味わえるからだ。
ノイズが静まり、クルマの各部の状態がステアリングホイールやシートを通じてクリアに伝わる。エンジンが停止した状態だと、このクルマが細部まで丁寧に造り込まれていることが、よりはっきりと理解できる。
乗り心地はフラットで、多少の外乱を受けてもぴしっと姿勢を保つ。車体の揺れや動きにイヤなブレがないから、クルマとドライバーがぴたりと一体化しているように感じる。
ただしサスペンションがごつごつしているわけでない。凸凹を乗り越える時も、「これぐらいのサイズの段差を乗り越えた」という情報はクリアに伝えつつも、体に響くショックそのものは取り除かれているのだ。
忘年会で鍋をやるときには頻繁にアクをすくってくれる“鍋奉行”がいるけれど、このクルマには4人の“突き上げ奉行”がいる。タイヤとサスペンションの間で雑味を取り除いてくれるのだ。タイヤが向いている方向や路面状態など、操縦に必要な情報はクリアに伝わる一方で、苦味やエグ味は抑えられている。
BMWアクティブハイブリッド5に乗ると、「BMWの魅力はエンジンだ」とかたくなに信じていた自分が古くさく思えてくる。
もしかしたら、クルマの魅力ってエンジンの咆哮(ほうこう)よりも、手のひらやお尻で感じる操縦感覚の方が大きいのかもしれない……。と、そんなことを考えさせるのが、「バイエルンの原動機製造株式会社」のプロダクトであることが面白い。
ちなみに、箱根・熱海までの往復256.1kmを高速道路主体で走って、燃費はドライブコンピューター上だと9.6km/リッター、満タン法だと10.8km/リッター。良くてびっくりもしなければ、悪くてがっかりもしない想像通りの値だ。
それでも、BMW535iとアクティブハイブリッド5で迷ったら、間違いなくアクティブハイブリッド5でしょう。アクティブハイブリッド5の車両価格は税込みで850万円と、BMW535iのわずか10万円増し。10万円多く出すだけで、こんなに面白い経験ができる。ハイブリッド化で失ったものは、なにひとつないのだ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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