第399回:新春“NAVIショック”勃発! 〜 雑誌はもう伝統芸能化するしかない!?
2010.01.14 小沢コージの勢いまかせ!第399回:新春“NAVIショック”勃発! 〜 雑誌はもう伝統芸能化するしかない!?
雑誌衰退は必然なれど……
あけましておめでとうございます。
『webCG』読者にはご存じのかたも多いと思いますが、2010年、いきなり衝撃のニュースが飛び込んでまいりましたっ! 伝統の自動車カルチャー雑誌、二玄社『NAVI』が休刊。さらに今春で、兄弟誌『BICYCLE NAVI』や『MOTO NAVI』もお休みするそうです。
時代の変化もわかるけど、個人的には10年以上も前に所属し、俺を育ててくれた“母”なる編集部であり、いまだ個性や魅力も十分残っている雑誌だったのでとても残念。とはいえ今も形を変えて存続すべく、一部ががんばっているので、しばらくはそれを見守りたいと思う。おそらくなんらかのカタチでは残るはずだ。
とはいえこの“NAVIショック”、いずれは出てくると思ってました。『NAVI』に限らず、今どきの雑誌は販売部数的にツラく、広告も入りにくい。よって形を変えなければ生き続けることができない。
というか俺が業界に加わるウン10年も前から雑誌は、すでに“知識や情報を売るメディア”であるというよりも“商品購買扇動メディア”=カタログ雑誌になりつつあり、これだけ経済状況がキツくて物が売れないと当然存続の危機にひんするわけだ。オマケに読者の紙媒体からネット媒体への移行も根本にあるから、雑誌衰退に対するネガティブ解説はいくらでもできる。
でもね、だからといって雑誌がすべて無くなるわけではないと思うのよ。それはまず情報の信頼性の問題で、このように伝統的で力のある雑誌が無くなるのは、めぐりめぐっては読者側であり、受け手側の不利益になる。なぜならば今後、情報が無料が前提のネットを通してばかり入ってくるようになるとますます信頼性が落ち、スキャンダラスな物ばかりはびこる可能性があるからだ。
タダ情報のリスク
某夕刊紙記者にこんなことを聞いた。
「情報がどんどんネット化、無料化するととんでもないことになりますよ。要するにネット情報って、ほとんどコピー&ペーストの世界じゃないですか。ネタ元がコピーばかりだから“伝言ゲーム”と同じで、間違ってても誰もチェックしきれなくなる。一度事故やスキャンダルが流れるととんでもないことになります。逆に一見いい加減に見えるウチ(夕刊紙)ですけど、ちゃんとウラはとってるし、直接取材もしてる。でもそれにはお金がかかるんです。要するに情報の信頼性と独自性にはどうしてもお金がかかる。ところが今のネット化の本質は“情報にはお金をかけない”ということです。この情報のデフレ化は、いつか取り返しがつかない事態を招きますよ」
そう、一時問題になった食の安全、つまり産地偽装問題みたいなもので、安くてラクなものばかり求めると、結局は質の問題になる。具体的には一度間違った情報、特に「誰々が○×をヤッてる」とか「△□が壊れた」とかいうスキャンダラスな情報が流れるとイッキにまわり、収拾するのに膨大な時間と手間がかかる。まさに情報のウィルス化であり、時に世論をミスリードしかねない。
というか既にそうなってしまってる気もするし、逆に今の大新聞がホントに偏向報道してないかというとそれまた疑問だ。
もう一つはカルチャーの問題。昔はやった「○×族」とか、自動車業界でいう「エンスー」という言葉とか、カルチャーが雑誌から生まれることはよくあった。大新聞でもなければテレビでもない、小規模なメディアが作り出す小さな文化的波=ウェーブ。それは時に大きなうねりを起こし、世の中を変える。もちろんその一部を「Twitter」や「YouTube」のようなネットメディアが生み出す可能性もあるが、雑誌とはひと味違うように思う。
それから一度に人が得られる情報量もネットの方が少ない気がする。ニュースいち記事の文字数にしてもネットは雑誌新聞に比べて圧倒的に少ない。それだけ読むのがラクになったし、効率的だが“わかった気になる”だけのことも多い気がする。
雑誌はパワーを持っている
しかし、雑誌文化の弊害もあって、今まで自動車雑誌にしろ、ファッション誌にしろ、やたらに多すぎた感がある。それはなぜなら、雑誌が読者都合ではなく、スポンサーと出版社都合でできていたからだ。日本の自動車雑誌のほとんどは毎月出るが、本当に毎月面白い新車が出るか? と言われれば疑問で、たとえば1年間で本当に記憶に残るクルマといえばざっと数台。去年の国産車でいえば、「トヨタ・プリウス」に「ホンダ・インサイト」、外しどころで「トヨタ・マークX」ぐらいのモンだろう。そういう意味での“垂れ流し”が無くなるのは、ある種、有り難いことではある。
とはいえ雑誌のみが持つパワーは間違いなくあるし、それは今後も残ると私は考えている。それはある種の個人崇拝というか、まるで“俺のためにある雑誌じゃないか!”と思う快感である。
一部優秀な雑誌には、不思議なほどそれがある。ネットでは、自分がスターになり、もう一つの人生を生きることまでできるが、雑誌は雑誌に対する憧れが生まれ、それに向かって努力する自分が生まれる。なぜなら優秀な雑誌には、作家的要素があり、1つの人格というか主張を生むからだ。それが流行を生んだのであり、カルチャーを育てたのだと思う。
だから今後の雑誌に必要なのは間違いなく情報のオリジナル性、いかに生の情報をつかむかだろう。いい野菜があれば、それが生まれた土壌、作った人の話を聞き、いいクルマがあれば、たとえばその鉄の質まで調べる。それはつまり、情報の量ではなく情報の質と個人の資質で勝負するということだ。そうやって研ぎ澄まされていって、まるで歌舞伎や雅楽のような雑誌が生まれる。それが小沢コージが勝手に考えた雑誌の理想像(笑)。
ってなわけつらつら書いてきましたが、これからの雑誌は、一部ネット情報さえ手に入れることができない人のため超低価格路線と、伝統芸能化したスペシャル路線に二極化する。勝手にそう断言してしまいましょう!
最後にふたたび、“NAVIの残り香”よ、がんばれ〜!
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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