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【スペック】全長×全幅×全高=4877×1983×1697mm/ホイールベース=2933mm/車重=2450kg/駆動方式=4WD/4.4リッターV8DOHC32バルブターボ(407ps/5500-6400rpm、61.2kgm/1750-4500rpm)、モーターA(91ps、26.5kgm)、モーターB(86ps、28.6kgm)(欧州仕様車)

BMWアクティブハイブリッドX6(4WD/CVT)【海外試乗記】

初モノとは思えない 2009.12.07 試乗記 河村 康彦 BMWアクティブハイブリッドX6(4WD/CVT)

BMW初のフルハイブリッドシステムが、「X6」に搭載された。マイアミでの試乗会に参加したリポーターは、その完成度の高さに「ハイブリッドニッポン」の危機を感じたという。
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日本のお家芸を脅かす

ハイブリッドカーといえば日本メーカーのお家芸――たしかに、1997年末に「世界初の量産ハイブリッドカー」である「トヨタ・プリウス」の初代モデルが発売されて以来、そんな状況が続いてきた。そうした事実をもって「ハイブリッドカー技術は日本メーカーの独壇場」、「海外メーカーは日本のテクノロジーには当分追いつけない」という見方もあるし、実はボクもおおむねそのように思っていた。ハイブリッドカーもしくはEV(電気自動車)の分野では日本のトップの座はしばらく安泰。少なくともこの先10年、いや15年は、海外メーカーの追撃から楽に逃げ切ることができるであろう、と……。

けれども、ここに来てどうやら「それは幻想だった」と考えを改めざるを得ないようだ。なぜならば、BMWが来る2010年の発売を公言しつつ世に問うたハイブリッドモデルの出来栄えが、十分に“商品”として足るものであることを知ってしまったからだ。米国フロリダ州マイアミの街を拠点に開催された国際試乗会で、そんな印象をボクに知らしめたのは「アクティブハイブリッドX6」。まずはその概要を紹介しておこう。

ベースとして用いられたのは、先般追加の「X6M」を別格とすればX6ラインナップの頂点に君臨してきた「50i」。407psと61.2kgmの最高出力/最大トルクを発するのは4.4リッターのV型8気筒エンジンで、Vバンクの内側に2基のターボチャージャーを含めた排気系を集約するという、通常とは逆のレイアウトを採用し、過給効率のアップを図ったのが大きな特徴だ。
ハイブリッドモデルではその50iの心臓はそのままに、組み合わされていた6段ATを、役割の違う2基のモーターと、3組のプラネタリーギア、4セットのクラッチからなる「ハイブリッド・トランスミッション」に置き換えた。この新しいユニットを巧みに電子制御して、エンジンからの動力による走行、モーターでの走行、両者を織り交ぜての走行を可能とした、いわゆる「シリーズ・パラレル方式」によるフルハイブリッドシステムを構築する。

 
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「ハイブリッド・トランスミッション」の透視図。(1)部分に「モーターA」、(2)部分に「モーターB」が組み込まれている。
「ハイブリッド・トランスミッション」の透視図。(1)部分に「モーターA」、(2)部分に「モーターB」が組み込まれている。 拡大
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モーターだけで60km/h

ラゲッジボード下に搭載された駆動用バッテリーが、より高性能を謳うリチウムイオン式ではなく、トヨタの各ハイブリッドモデルも用いてきたニッケル水素式なのは、こちらのほうが技術がこなれていて扱いやすいため、との回答。インバーター等も含めたハイブリッドシステム全体は、GM、ダイムラー(旧ダイムラークライスラー)との3者による共同開発の成果だ。

スターターボタンを押してのシステム起動、および65km/h以下での減速時に実施されるアイドリング停止状態からのエンジン再始動は、極めて滑らか。専用のスターターモーターは持たず、主として発電のために用いられる“モーターA”がその役割を肩代わりというのは、トヨタ方式の場合と同様の制御だ。

日常の発進加速および、低速域でのクルージングを担当するのは、主として“モーターB”。このモーターのみによるEV走行は、60km/hまでの速度で、最大2.5kmまでの距離を守備範囲としたセッティング。実際、走り始めると「かなり頻繁にエンジン停止を行うナ」というのが特徴的な印象。ちなみに、前述のような共同開発によるシステムだが、「2基のモーターを用いて、60km/hという“高速”までをEV走行するのはBMWならでは」とは開発担当のエンジニア氏の弁。ドイツの街中は50km/h制限なので、こうした区間はできるだけEV走行させたかったのが、その理由であるという。

 
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ニッケル水素式バッテリーはラゲッジボード下、すなわちリアアクスル上に配置される。
ニッケル水素式バッテリーはラゲッジボード下、すなわちリアアクスル上に配置される。 拡大

省エネより、走り

そんな市街地走行でのフィーリングは、トヨタのハイブリッドモデルを知る人には「それと同類」と受け取ってもらえれば、おおよそ当たっている。静かでスムーズでアクセルペダルの踏み込みに即応してトルクが湧き出る感じは、さすがは“電気自動車”だ。その先のエンジンパワーとの連携の巧みさにも文句はない。このあたり、初めてにしては極めて良く出来ていることに感心せざるを得ない。

ただしシビアにチェックをすると、静止寸前の減速過程に、わずかなショックを感じる場面があった。これは、トランスミッションを高速モードから低速モードに切り替える際に「必ず3速ギアを経由しなければならない」という機構に起因するものだという。「これでもかなりチューニングを煮詰めたのだが……」とエンジニア氏が語るように、気にしなければわからない程度とも思えたが、一方でこれがトヨタの作品であれば「社内基準的にNG」ともなりそう。これ以上の改善が不可能というならば、それはそれで少々問題アリだと思う。

フリーウェイに乗り入れた際のたくましさは、さすがは「アクティブハイブリッド」を名乗るだけのことはある。なにしろ、0-100km/h加速は、わずかに5.6秒でクリア。50i用エンジンにモーターパワーを上乗せし、システム最大出力は485psに達するのだから、それも当然なのだ。
こうしたことからもわかるように、「50i比で20%の燃費改善」を謳うものの、実はこのモデルは必ずしも“省エネ型”のハイブリッドモデルというわけではない。こうして、まずはガソリンモデルに対して動力性能のアドバンテージを明確に打ち出した点は、“走り”にこだわるBMWの作品としては当然というところか。

“エンジン屋”が電気に助けを求めた

ところで、そんなこのモデルで感心至極だったのは、実は動力性能面だけではない。走行中も頻繁にエンジン停止を行うことなどから、新たなシステムへと置き換えられた様々なアイテム――つまり電動パワーステアリングやバイワイヤー式のブレーキなどが生み出すフィーリングが、これも初モノとは思えないほど、こなれたものであったのも驚きだったのだ。
回生協調機能を持つブレーキの踏力と制動力の関係には、まだごくわずかに不自然さを感じるものの、だからと言ってそれが長い歴史を持つトヨタのモデルに見劣りするというわけでは決してないし、ステアリングフィールは、これまでの各BMW車のそれに照らしても、全く遜色ナシの濃厚さだった。

こうして、ボクら日本人が“百戦錬磨”と考えていたハイブリッドテクノロジーのアドバンテージは、一気にその差を縮められてしまった感が拭えない。無論、彼らにはこの先コスト低減などに高いハードルが待ち受けるはずだが、同時に日本勢に対してはディーゼル戦略の立ち遅れがとても気になってくる。そもそもは“エンジン屋”であるBMWが、ついに「電気に助けを求めた」結果のハイブリッドモデルの出来栄えは、そんな思いを強く感じさせるものだった。

(文=河村康彦/写真=BMWジャパン)

河村 康彦

河村 康彦

フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。

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