メルセデス・ベンツSL63 AMG(FR/7AT)【試乗記】
オープンAMGのたしなみ方 2012.10.17 試乗記 メルセデス・ベンツSL63 AMG(FR/7AT)……2245万円
飛ばせば矢のように速く、流せば無類の底力を発揮する「SL63 AMG」。このスーパーロードスターを心地よく走らせるにはどうしたらいい? 初秋の南房総を行く。
真正面から時代に取り組む
「メルセデス・ベンツSL63 AMG」は、いわばハイパフォーマンスを重ね着したモデルである。ノーマルSL V8モデルたる「SL550ブルーエフィシェンシー」が積む4.7リッターツインターボの代わりに、5.5リッターV8ツインターボが押し込まれた。5.5リッターエンジンのアウトプットは、最高出力537ps/5250-5750rpm、最大トルク81.6kgm/2000-4500rpm。4.7リッターのそれが435psと71.4kgmだから、ざっくり2割増しの強心臓を得たわけだ。
ラグジュアリースポーツの代名詞のようなSLクラスだが、もちろん、年々厳しくなる燃費(CO2排出量)、安全基準から逃れることはできない。11年ぶりにフルモデルチェンジを受けて6代目となったSLは、時代の要請に真正面から取り組んだ意欲作といえる。ボディーシェルはアルミ製となり、パワートレインの世代が新しくなった。
SLスペシャルたる「SL63 AMG」の車重は1880kg。先代型より100kg以上軽く、また、トランクリッドをカーボン化することで(−5kg)、SL550ブルーエフィシェンシー(1860〜1880kg)と同等の重さに収められた。
パワーユニットには、先代の自然吸気6.2リッターV8(525ps、64.2kgm)が捨てられ、前述の新しい5.5リッターV8ツインターボが採用された。言うまでもなく、筒内直接噴射を採り入れた燃費指向のターボエンジンである。シリンダー内に直接燃料を噴くことで異常燃焼を起こしにくくし、発動機としての効率を引き上げた。圧縮比は自然吸気並みの10.0。さらに、アイドリングストップ機能まで搭載して燃料消費量を抑えた結果、SL63 AMGのカタログ燃費(JC08モード)は、9.0km/リッターとなった。
後悔するほどの速さ
実際にメルセデス・ベンツSL63 AMGを運転してみると、「過給器より排気量が勝った……」と言うと変な表現だが、ほとんどターボを意識しないドライブフィールが得られる。5461ccと絶対的な排気量が大きいので、過給器の後押しを得ないでも、低回転域から十分なトルクが供給されるからだ。普通に走っているかぎり、回転計の針が2000を過ぎるかどうかといった早いタイミングで、次々にギアがバトンタッチされていく。シフトプログラムも燃費志向。100km/h巡航では、トップギア7速でわずかに1500rpm。2段落として5速にすると2000rpm。アクセルペダルを踏み込めば、そこから息の長い加速を味わえるはずだ。
かつての自然吸気エンジンとの違いはブン回したときに顕著になるかと思い、料金所から全力加速を敢行してみた。後悔した。グワッとノーズを上げ、ホイールスピンせんばかりに飛び出すAMGは迫力満点。タコメーターの針が4000rpm付近を超えてからは2次曲線的な加速を見せ、たしかにターボエンジンらしいワープ感を味わえるが、一度試せば、おなかいっぱい。自分でアクセルを踏んでいながら、なんだか気分が悪くなった……。
ただでさえ速いSL63 AMGだが、試乗車はさらに「AMGパフォーマンスパッケージ」が搭載されていた。最高出力が537psから564ps、最大トルクが81.6kgmから91.8kgmに向上。サスペンションやブレーキが強化され、ボディー各部には迫力あるAMGパーツがおごられる。0-100km/h加速は、4.3秒から4.2秒に削られる! 195万円のパッケージオプションの恩恵が、0.1秒!? この手のクルマは、ハイパフォーマンスゆえ値段が上がるというより、高性能が高価格の言い訳になっている側面があるから、あまり実際的な意味を追求しても、やぼなだけである。
「AMG」を意識させる乗り心地
マットブラックに塗られた「C63 AMGクーペ ブラックシリーズ」は、日本割り当て分がたちまち売り切れてしまったそうだが、今回の試乗車、SL63 AMGに使われるマットのダークグレー「セルサイトグレー」もなかなかすごみがあって、“ちょいワル”(死語?)を気取りたいむきにはオススメだ。プラス20万円の特別色。ただのマットペイントだと指紋や手の脂が気になりそうだが、AMGのそれは細かい凹凸が付いた梨地仕上げになっているので、心配いらない。
ドアを開けて、AMGの運転席へ。「ポーセレン」と名付けられた淡いベージュのレザーシートは、屋根を開けたまま道端に駐車して見せびらかしたいような、凝った造形を採る。ダッシュボード上の時計がIWCなのは、ごあいきょう。右手トンネルコンソールから生えるシフターは、ポジションが「R-N-D」だけのシンプルなもの。ギアを変えるのにオーナーの手を煩わせることなんてありません、ということだ。実際、アクセルペダルに載せた右足にちょっと力を入れるだけで、十二分の加速を得ることができる。
個人的に気になったのは、少々硬めの乗り心地。街なか、高速道路を問わず、少しばかりアシが突っ張った感覚で、細かく上下に揺すられる。路面の凹凸を「もうちょっといなしてもいいのになァ」と思った。シフター後方のダイヤルを回して、「コンフォート」「スポーツ」と交互に試してみたが、納得いかず。常に「AMG」を意識させるための設定か。
しかしそうした不満は、20秒ほどでハードトップを畳めば、霧散する。大馬力のV8ツインターボが喉を鳴らすのを感じながら、海岸沿いをゆるりと流す。ボタンひとつで飛び出すようになった背後のドラフトストップのおかげで、サイドウィンドウを下ろしていても、ときたま髪がわずかに風になぶられるだけ。湿った空気。汐(しお)のかおり。SL63 AMGの持つポテンシャルを知りながら、「首のまわりを温風が包むエアスカーフ機能があるから、寒い季節になっても、オープンエアが楽しめそうだなあ」と、そんなのんきなことを考えながら走るのが、ぜいたくな気持ちだ。
(文=青木禎之/写真=DA)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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