ホンダ・ステップワゴン スパーダZi/ステップワゴンG Lパッケージ【試乗記】
闘うホンダ 2009.11.25 試乗記 ホンダ・ステップワゴン スパーダZi(FF/CVT)/ステップワゴンG Lパッケージ(FF/CVT)……352万1250円/272万4250円
いまやファミリーカーの代名詞ともいえるミニバン。中でも5ナンバーサイズ・200万円そこそこのクラスは人気が高く、競争が熾烈だ。果たして新型「ステップワゴン」は、いかなる進化を遂げたのか?
カッコつけず、わかりやすく
新型「ステップワゴン」は、すがすがしいクルマだ。じつはこのクルマのデビュー前に、そのLPL(=ラージプロジェクトリーダー、いわゆる開発チームの責任者)である小西真氏にインタビューする機会があった。そのとき「このジャンルにユーザーが期待するものはなにか?」と問うと、小西LPLが間髪いれずに「容積単価ですよ、つまり広くて安い(笑)」とズバリと答えてくれたのには、少しばかり面食らった。それ以外の話題でも、小西LPLはイメージとか建て前を気にせずに、とにかくこちらが言ってほしい本音を、オヤジギャグをおりまぜながらビシバシきめてくれる愛すべきオジサン(失礼!)だった。
低床低重心で、まるで「シビック」のように走った先代ステップワゴンは、発売1〜2年は爆発的に売れた。おそらくは“F1のホンダらしいミニバン”として一定以上のファンの支持を受けたのだろう。しかし、モデルライフ後期に入ると、「ノア/ヴォクシー」が出ても粘りゴシで売れ続ける「セレナ」とは対照的に、ステップワゴンの販売は急降下。極端にいえば指名買いメインのスポーツカーのような売れ方で“ひとり負け”だったことは否定できない。先代ステップワゴンは背は低いがその分フロアも低く、室内空間が大きく劣っていたわけではなかった。ひとたび車内に入って座ればけっして狭くもなかったが「見た目で先入観を持たれるので売りにくい……が販売現場からの声でした」と小西LPL。
だから、この種のミニバンを望むユーザーの興味を、カッコつけずにわかりやすく引き寄せる……が、新型ステップワゴン最大の使命だったという。当然、テレビCMも想定ユーザー層に対してドンピシャにキャッチーであることが重要。というわけで、ウルトラファミリーの登場である。実際に購入するパパママ層から車内での主役たる子供まで共通して刺さるキャラクターであり、しかも8人乗りミニバンだから登場人数は最低8人は必要……となると、候補はいくつかに絞られるが、そこで仮面ライダーや戦隊シリーズが選ばれなかったのは、彼らは家族ではないからだ。わかりやすい。
クラス初の床下収納サードシート
新型ステップワゴンは、すべてが奇をてらわずわかりやすい。あらゆるポイントでライバル車と真正面からぶつかって、言い訳なしで勝つように作られている。ライバルに負けないくらい背は高く、ベルトラインを下げてまでウィンドウ面積も最大限まで広げた。低いベルトラインによる巨大ウィンドウは宿敵セレナの大きな売りである。
ステップワゴンの全高はそれでもまだノア/ヴォクシーやセレナより数cm低いのだが、これは先代から受け継いだプラットフォーム(=もともと低床)でライバルに勝つ室内高(=1395mm、開発当時に国内トップだったアルファードと同寸)を確保して自動的に決まったものだという。床下収納サードシートはご存じのようにクラス初。幅広い3人用シートを5ナンバーボディの床下に納めるのは非常に難しかったそうだが、これは圧倒的にわかりやすい武器だ。
サードシート以外はシート基本骨格も先代と共通だが、1列目と2列目のシート自体のデキはクラスで最も優秀といっていい。唯一の弱点といえばサードシートで、空間自体はライバルに僅差勝ちでも、床下収納のためにシートバック高と座面幅で惜敗。床下収納による利便性、収納したときの後方視界や低重心化を取るか、サードシートの居住性を重視するかは人それぞれ。さすがにこのサイズでこの機能だから、すべてに妥協なし……とはいえない。
ただ、セカンドシートやサードシートでの乗り心地を徹底追求したのも新型ステップワゴンの売りだそうだ。“皆楽”というコンセプトにはそういう意味もある。どの列に座っても楽しい……と。今回は短時間の試乗なのでハッキリしたことはいえないが、自然なロール感や穏やかなステアリングゲインは非常によく煮詰められており、同乗者をクルマ酔いさせない運転はしやすいだろう。
“走り”も手を抜かず
新型ステップワゴンがスタイルや走りをあえて声高に訴求しないのも、徹底して“わかりやすい”ためだという。旧来のクルマの魅力をうたうと、訴えるべきポイントがぼやけてユーザーにはわかりにくい……という判断らしい。
とはいっても、走りに手を抜いたわけではない。むしろその逆。先代のデビュー時ほどのインパクトはないものの、乗り心地やハンドリングは間違いなくクラストップといえるデキだ。このクラスでは相変わらずもっとも腰が据わった走りである。ロールをむりやり抑制するでもなく、それでいて上屋からくずれるような挙動は一切ない。ステアリング反応はちょうどよく穏やかで、パワステもほどよく重い。
基本的な乗り味が標準モデルもスパーダも大差ないのは、15インチ(標準モデル)と16インチ(スパーダ)それぞれを同じ方向性で煮詰めたからだという。少なくとも乗り味については“スパーダ=スポーツ”という明確な性格わけはしていない。
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気取っている場合じゃない
パワートレーン関連では、2.4リッターが廃止されて、主力の2リッターFFの変速機が5ATからCVTに変わったのがニュース(4WD車は5ATのまま)。ねらいはもちろん、ラインナップの整理と燃費向上だ。とにかくエンジン回転を下げたがる燃費優先プログラムでエンジンブレーキが弱いのが気になるが、これは昨今のCVTすべてに共通するもので、新型ステップワゴンだけの弱点ではない。「従来改良型エンジンで、トヨタのバルブマチックに燃費で負けない」が至上命題だったと聞けば、なおのこと、エンジニアの苦労がしのばれる。
5ナンバーワンボックス市場は、非常にせまいレギュレーションのなかで、日本のビッグスリーが完全な三つどもえ状態となっている戦場だ。買う側もクールに割り切ったタイプがほとんどで、イメージだスポーツだオシャレだ個性だ……などという、甘っちょろくてわかりにくい理由でクルマを選ばない。機能性と価格で冷徹に判断をくだす。“クルマの家電化”などと言われてひさしいが、ここは家電グルマの最前線。気取っている場合ではない。だから小西LPLも気取らない(のか?)。
スキあらばライバルに半歩でも先んじて、価格は1000円でも安くして、ウルトラマンを動員してでも売りぬく。新型ステップワゴンがこうなったのはまったくの必然。これは闘いだ。闘うホンダは、すがすがしい。
(文=佐野弘宗/写真=菊池貴之)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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