第267回:ノーベル平和賞記念寄稿! 「ユーロはひとつ」と言ったヤツ、出てこ〜いッ
2012.10.18 マッキナ あらモーダ!第267回:ノーベル平和賞記念寄稿! 「ユーロはひとつ」と言ったヤツ、出てこ〜いッ
とても「ひとつ」とは言えない
2012年のノーベル平和賞が欧州連合(EU)に決まった。その賛否はともかく、ボクが驚いているのは、日本のメディアが、イタリアやフランスのメディア以上に詳しく報道していたことだ。
ある日本メディアは、EUの前身である終戦直後の欧州石炭鉄鋼共同体までさかのぼって解説していた。いやはや世界遺産しかり、“本場”欧州でメディアも深く採り上げず、人々もさして関心がない対象を、意外に日本でしっかり採り上げるのは毎回見ていて面白い。
欧州といえば、よく日本の方から、「ユーロは、もはやひとつなんでしょ?」と質問される。その質問自体かなり曖昧なのだが、要は「通貨統合が行われている=生活に関するさまざまなインフラやアイテムも同じになりつつあるのだろう」というニュアンスであろう。
ところがどっこい、そんなことはない。国境ひとつ越えると、いまだに他人の家に間借りしているような感覚に襲われることしきりだ。
今回は、ボク大矢アキオが日々の旅でいつも一瞬戸惑ってしまう面白ルールやアイテムを集めて皆さんと楽しんでみようと思う。
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フランスに気をつけろ!
他国からクルマを運転してフランスへ入国する人間にとって困惑するのは、道路標識であろう。一般道路と有料道路を示す表示色が違うのである。具体的に言うと、イタリアやスイスなど周辺諸国が日本と同じで、一般道路が青、有料道路は緑なのに対して、フランスは逆。一般が緑、有料が青である。
国境を越えてフランスに入った直後に制限速度などとともに記されているものの、どうも慣れない。特に、イタリアに住み始めた頃はフランスに来るたび、急いでいるにもかかわらず時間がかかる一般道に行ってしまったり、逆にゆっくり“下道(したみち)”を行きたいのに殺風景な有料道路に導かれてしまったものだ。毎年ジュネーブモーターショーに行くときなどは、イタリア−フランス−スイスと通過するので、いまだに頭の中が混乱する。
まあ、「フランスだけ標識を付け替えろ」というのは、財政危機厳しき折、もはや無理な話だろう。
変わって、鉄道で戸惑うのはベルギーである。「SNC」「NMBS」といわれるベルギー国鉄は、日本のような改札口もなければ、イタリアやフランスのように駅コンコースやホームに日時を打刻する機械もない。原則として車掌さんによる車内の検札が唯一のチェックなのである。
イタリアでは、打刻しないと定期券1カ月分相当に近い反則金を課せられるため、いつも「打刻、打刻〜」と呪文のごとく唱(とな)えながら乗車しているボクとしては、何もしないで電車に乗るのはどうも落ち着かない。
そのベルギーのアントワープでは、路線バスにはボタンが2つあり、戸惑う。「STOP」と書かれたボタンは実はエマージェンシー用で、次の停留所で普通に止まってもらうときは青いボタンを押す。観光客はかなりの確率で間違うに違いない。
バスといえば、多くの国で「H」のマークは病院「Hospital」を指すが、ドイツやオーストリアで路肩に頻繁に現れる「H」マークはバスの停留所「Haltestelle」である。ボクなどは最初のうち、あまりの「H」マークの多さに、「さすが医学の国ドイツだ」と森鴎外時代のような感心をしていたものである。
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「ひもスイッチ」で育ったものの……
宿で戸惑うのはイギリスである。まずは洗面台の蛇口。混合栓ではなく、温水と冷水それぞれの単水栓が別々に付いていることが大半だ。それも写真のように、洗面台左右にかなり離れて付いている。要は、適温の湯が欲しければ、排水口に栓をしてから湯と水を別々に出してためて使いなさいということであろう。そろそろ混合栓にしてほしいところだが、かなり新しいホテルでも蛇口は別々だ。
もうひとつは、天井から垂れ下がる「ひもスイッチ」である。何のことはない、照明のオンオフだ。いっぽうイタリアの宿では、バスルームのひもスイッチは、緊急アラーム用だ。これは、ホテルを営業する際の法律で定められている。だから、イギリスではたとえトイレの明かりひとつ点灯するにしても、アラームが鳴りださないか緊張してしまう。ボクが育った東京郊外の戦前築家屋は大半がひもスイッチだったから、そんな驚くことではないのだが……。
最も困る “未統一のEU”は電気のコンセントやプラグの形状である。欧州大陸各国には、形が似ていても微妙にサイズが違うプラグがいくつか存在する。イタリアの狭いわが家のコンセントを見ても、ユーロタイプとイタリアタイプの2種類がある。
たとえ同じサイズでもプラグのほうがアースなし2本、テーブルタップのほうがアース付き仕様だったりすると、アダプターを挟むという手間がひとつ加わる。
さらに「イギリス型プラグ」というのが追加される。イギリス出張や旅行の経験がある読者ならご記憶だろうが、一般的な欧州大陸側仕様とはまったく違うプラグ形状がいまだに使われている。
そのため、iPhoneなどに用いるアップル製品用純正USBアダプターも、写真のごとくゴツくなってしまう。持ち運びも不便だ。どんな小さなアイテムにもデザインコンシャスを目指すアップルのデザイナーとしては、悔しくて悔しくて眠れないに違いない、とボクは想像している。
ユーロ統一の道は、まだまだ遠い。
(文と写真=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)
★お知らせ★
2012年11月12日(月)渋谷・日伊学院にて、大矢アキオの新著『イタリア発 シアワセの秘密』刊行を記念し、著者講演会が開催されます。詳しくはこちらをご覧ください。
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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