ホンダ・ステップワゴンG・Lパッケージ(FF/CVT)/スパーダS(FF/CVT)【試乗速報】
大きくなりました 2009.10.27 試乗記 ホンダ・ステップワゴンG・Lパッケージ(FF/CVT)/スパーダS(FF/CVT)……258万7750円/292万円
「ホンダ・ステップワゴン」が、「大きく」「広く」モデルチェンジ。5ナンバーミニバントップへの返り咲きを期す新型の使い勝手と乗り心地を、クローズドコースでチェックした。
巧みな空間設計
第一印象は「原点回帰」。飾り気の少ないシンプルな、そしてボクシーなスタイルの「ステップワゴン」、そして“エアロタイプ”が7割をも占めるという市場に合わせて今まで以上に力が入れられた「スパーダ」にも共通するのが、そんな雰囲気だ。先代はデザインに遊び心を加え、低床プラットフォームを生かして室内空間を狭めることなく車体をコンパクト化していたが、市場はそれを狭く感じると評した。それゆえに新型は、中身も見た目も大きく広いことを強調しているわけだ。
実際、室内スペースの余裕は圧倒的といえる。低い床、高いルーフのおかげで乗り込みは楽だし、運転席を基準に2列目を合わせた状態でも、3列目は足元も頭上も余裕綽々。我慢がいらない……というレベルではなく、快適に過ごせる広さがある。ラゲッジスペースも、3列目を左右跳ね上げ式から床下収納式としたことで、広さと使い勝手を高めている。空間設計は巧みで隙がなく、これなら文句は無いだろうという自信がにじみ出ているかのようにも感じられた。
運転席に陣取ると、まずは視界の開けっぷりに驚かされる。サイドウィンドウの下端を下げ、ドアミラーを拡大し、また視界の妨げになる3列目の跳ね上げ式格納をやめたことなど細かな積み重ねが効いている。視界といえば、車体左前方を幅1m、長さ7mにわたって反射鏡を使って室内ミラーに写し出すサイドビューサポートミラーも、単なるギミックかと思いきや案外役に立つ。大きくなったネガを感じさせない、取り回し性を高める工夫が嬉しい。
優れたドライバビリティ
大きくなったと聞いて不安になるのは取り回し性のほか、やはり走り、そして燃費だろう。しかし新型ステップワゴンは、ここでも不安を見事に払拭してみせた。
走りの好印象をもたらすのは、まずパワートレイン。直列4気筒2リッターエンジンとCVTの組み合わせは、アクセル操作に即応する好レスポンスが際立った走りやすさに繋がっている。燃費優先制御となるECONモードは、夏場のエアコンの効きを考えなければ常にONでもいいと思えたほどだ。
CVTといえば、アクセルを踏むとまずエンジン回転が上昇し、そこから加速が始まるという悪癖を消し切れないものも多いが、最高出力の5psダウンと引き換えに低中速トルクを引き上げたエンジンと、その特性をうまく引き出すCVTの巧みなコンビネーションが、優れたドライバビリティに繋がっているのだ。個人的に世のCVT車のほとんどは納得できるレベルに無いと思っているのだが、新型ステップワゴンはその非常に数少ない例外である。
限られたコース内での試乗だったため計測したわけではないが、燃費対策は徹底している。ポンピングロス低減を狙い“可変吸気量制御”を盛り込んだi-VTECや、ピストンリング低張力化を可能にする、オイル保持性の高いパターンピストンコーティングの採用、バランサーシャフトの廃止などによるフリクションロスの低減、さらには電動パワーステアリングの採用等々によって10・15モード燃費は、15インチタイヤ仕様で14.2km/リッターを実現。従来も実走行燃費は悪くなかったというが、新型ではモード燃費も稼ぐことで全車エコカー減税の対象としている。
本気で家族を想ったのか
操縦性も心地良いものに仕上がっていた。大舵角までしっかり追従するフロント、横方向の剛性感が高く旋回中どっしりとしたスタビリティを感じさせるリアが、もともとの低重心、そして高められたボディ剛性と相まってスッキリ爽快なフットワークに繋がっている。電動パワーステアリングが中立位置でやや固着したような手応えになるのは気になったが、おおむね印象は悪くない。
乗り心地はまずまず。多人数乗車を意識した設定だけに、1〜2人乗りではややリアが硬めに感じられるのはしょうがない。しかしスパーダに関していえば、終始跳ねていたような印象の先代から比べれば、普通にそれなりに快適に座っていられるくらいまで、大きく進化したと言える。
潰すべきネガはなにかということを含めて、目指した方向性は明確で、ハードウェアもそこに向けてしっかり進化を果たしている。しかし残念なのは、相変わらず2列目と3列目の中央席には3点式シートベルトが備わらず、ヘッドレストも上級車種にしか用意されないことだ。新型ステップワゴン、テレビCMなどでもこれまで以上に強くファミリー色を打ち出しているが、それはファミリー層の快適や安全を思った商品だという意味ではなく、ファミリー層に売りたいというだけにしか思えなくなってくる。様々な部分での進化を感じただけになおのこと空しく、残念だ。
(文=島下泰久/写真=高橋信宏)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。
































