第162回:これが最新のスタッドレス 「ミシュランX-ICE XI3」体験試乗会から
2012.10.24 エディターから一言第162回:これが最新のスタッドレス「ミシュランX-ICE XI3」体験試乗会から
日本をメインに開発された、ミシュランの最新型スタッドレスタイヤ「X-ICE XI3」。その実力を、北海道で開催された体験試乗会で確かめた。
混乱するほど話題が豊富
「理想は3つまで」とされる。それが上手なプレゼンテーションのコツだそうだ。
コンピューターと異なり、生身の人間はたくさんの話をいっぺんに聞いても理解しきれない。だから、ポイントを3つ程度に絞って説明したほうが相手の心に強く響く。裏を返せば、的を絞りきれないままアレもコレもと取り上げるのは“プレゼン下手”ということになる。
なるほど、他メーカーのスタッドレスタイヤであれば「アイスバーンのブレーキ性能が向上」とか「氷表面の水分を効果的に吸収」といった具合に、説明するポイントが1つか2つに絞られている。ユーザーが理解しやすいように配慮したのか、それとも本当に注力した開発テーマが少なかったのかはわからないが、それが一般的な傾向であることは間違いない。
それらに比べると、ミシュランの新しいスタッドレスタイヤ「X-ICE XI3」のプレゼンテーションは、メチャクチャと言ってもいいくらい話題が多く、ある意味でわかりにくかった。
なにしろ、主要なテクノロジーだけで7つを数えるのだ。その効能としてアイスブレーキ、アイストラクション、スノーブレーキ、スノートラクション、スノーハンドリングなどの“ウインター・セーフティー”を確保したとアピールするいっぽうで、ドライ性能、ウエット性能、環境性能、静粛性、高速性能、さらにはロングライフなど、トータルバランスにも配慮したと主張するのだ。
彼らの姿勢は、思わず「スタッドレスタイヤに要求される性能として、それ以外に何があるの?」と、意地悪く聞き返したくなるくらいの“全面外交”ならぬ“全面開発”だが、裏を返せば、いかにもミシュランらしい手法と言えないこともない。
総合性能の高さがポイント
これまでもミシュランタイヤといえば、ドライグリップやウエットグリップといった個々の性能もさることながら、トータルバランスの高さで市場の支持を得ていた。一つ一つのパフォーマンスが優れているだけでなく、コントロール性も高く、寿命も長い。
いや、ただ寿命が長いだけでなく、タイヤであれば避けられないはずの「摩耗に伴う性能低下」を極力抑え、新品に近い性能を長く維持することもミシュラン製品の特徴だ。
タイヤ自体の真円度が高く、滑らかな乗り心地が味わえることも忘れることはできないし、本来はサマータイヤなのに緊急避難的に雪上を走ることもできるといったオールラウンダーな性格も、ミシュランが以前から備えていた長所である。
そういえば、日本で最も人気の高いモータースポーツであるSUPER GT選手権では、ミシュランのスリックタイヤが“チョイぬれ”の路面コンディションで圧倒的なグリップ力を発揮することが、関係者の間でもはや常識とさえなっている。
そうやって考えると、新たに登場した「X-ICE XI3」のためにさまざまなテクノロジーを開発し、すべての性能を妥協なく進歩させようとした彼らの姿勢はよくわかる。プレゼンテーションがわかりにくいのも仕方ないし、ひょっとすると、それゆえユーザーから理解を得るのが難しいかもしれない。けれども、ミシュランはあくまでも総合性能を追求し、現実社会でユーザーがメリットを享受できる製品作りを目指しているのだ。この点に共感できるかどうかが、ミシュラン製品を選ぶかどうかの、ひとつの境目になってくるような気がする。
雪道に安心感
前置きが長くなったが、2012年7月の製品発表に先立ち、今春北海道で行われた試乗会から、その実力をリポートしよう。
北海道上川地方北部の士別市郊外にあるミシュランのテストコースでは、アイスブレーキング、アイストラクション、スノーブレーキング、スノートラクション、スノーハンドリングなどを体感できるセクションが用意されていた。そのすべてではないものの、一部には1世代前の「X-ICE XI2」が比較用に用意されていて、最新モデルが果たした進化の度合いを確認できるように工夫されている。
結論から言えば、それらのテストを通じて、新型のアイス性能やスノー性能が確実に改善されていることが理解できた。アイスブレーキングは「X-ICE XI2」に比べて9%向上し、アイストラクションが5%向上したというのも、だてではない。新型は確実に進化している。
けれども、そうした個々の性能よりも印象的だったのが、一般公道で行った“総合試験”とでも呼ぶべきセッションだった。例えば「レクサスIS250」(4WD車)による試乗では、基本的なトラクションに不満を覚えなかったのはもちろんのこと、前輪が接地している様子がステアリングを通じてはっきりと伝わってきて、大きな安心感が得られた。
わずかなステアリング操作に対して、クルマが曲がろうとする力、いわゆるヨーモーメントがしっかりと立ち上がる様子が確認できたことも好印象で、おかげで自信をもってコントロールできた。
かなりのハイペースでも……
そうした基本性能を楽しんでいるうち、車速はどんどんと高くなっていき、気が付けば「スノー路面でこのスピードは速すぎるんじゃない?」という領域に突入している。それでも安心してステアリングを握っていられたのは、タイヤが唐突に滑り始めるのではなく、じわりと粘ってくれるおかげで限界が近づいたことを把握しやすかったからだろう。
これならば、リスクを冒すことなくタイヤの性能をフルに引き出せるし、仮にそこまで攻めなくても安全へのマージンを大きくとれる。現実の道路環境でも確実にメリットを感じられる特性である。
ミシュランのスタッドレスタイヤは、第三者機関のJDパワーによる「冬用タイヤ顧客満足度調査」において、9年連続でナンバー1の座を獲得しているそうだ。しかも、総合満足度で最高評価の5点を手に入れているだけでなく、「積雪路面での走行性能」「凍結路面での走行性能」「ドライ/ウエット路面でのハンドリング/グリップ性能」「ドライ/ウエット路面での乗り心地/静粛性」「耐久性/信頼性」「見栄え」の6項目すべてで5点を獲得しているという。
気がつけば、このリポートもポイントを絞りきれない内容となっている。でも、ミシュランファンであれば、きっとそれも理解してもらえるのではないか――などとムシのいいことを考えつつ、この辺で筆を置くことにしたい。
(文=大谷達也/写真=日本ミシュランタイヤ)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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