第110回:ロリ衣装からクルマ消しゴムまで−大矢アキオがいざなう「フランクフルトショー」魅惑の裏話?(前編)
2009.09.26 マッキナ あらモーダ!第110回:ロリ衣装からクルマ消しゴムまで−大矢アキオがいざなう「フランクフルトショー」魅惑の裏話?(前編)
マジメなだけじゃない!
ドイツでは第63回フランクフルトモーターショーが、2009年9月13日から27日まで開催されている。環境対応・省エネルギーの時代を反映し、ボディサイドにCO2排出量が記された展示車やデモカーが、2008年のパリサロンや今年3月のジュネーブショーにも増して多くみられた。ちなみに電気自動車の場合、そのボディサイドの数字は「ゼロ」となる。非常にマジメなデモンストレーションである。
そもそもフランクフルトの報道は、現地メーカーを中心とした怒涛の新車ラッシュに追われるかたちになる。今年も753社がスタンドを展開し、世界初は大小含めて82車種にのぼった。
さらに、“ドイツ=マジメ”という長年のステレオタイプが後押しするかたちで、どうもフランクフルトショーにはお楽しみが薄い感じが漂ってしまう。
ところがどっこい、あるんです。よく見回してみると。
今回と次回は、欧州を流浪するコラムニスト大矢アキオがナビゲートするフランクフルトショーの面白事象をお届けします。
「ボンサイスタ」!?
まずはオブジェの部から。
話題のベビーロールス「ゴースト」を公開したロールス・ロイスのスタンドには、いきなり巨大盆栽が設営されていた。ちなみに盆栽は欧州各国でもファンを増やしていて、専門誌が存在するほか、イタリアには「ボンサイスタ」という言葉も存在する。Bonsai+istaで盆栽をする人のことである。
このサイズを盆栽として認めるかはさておき、世界のロールス・ロイスにも日本の美が認められたと思うと、感無量である。
ただし、その下に飲み残しのグラスやコップを置く輩を発見し、無意識ながら「突き箸」「渡し箸」をするガイジンを見たときと同じ複雑な心境になるのは日本人ゆえか。
もうひとつの大矢アキオ選定オブジェは、ある排気管メーカーのスタンドである。草花のごとく商品を突き刺したうえで、植物園のごとく小さな解説板を添えた演出がニクい。
たが、やがて電気自動車の時代になった暁には、植物園を通り越して、このまま考古学館となるパーツの第一候補であることも事実だ。
見上げたぞ、フィアット
面白い話題と言いながら、つい問題提起になってしまったので、ここはひとつ明るい話題を。
自動車不況を反映して派手なコンパニオンを減らすメーカーが多いなか、相変わらずパワー全開だったのはフィアットである。
彼らは2種類のコスチュームを用意。そのひとつは写真のようなタータンチェックのミニスカート+白のソックスだ。ゴージャス系が支配してきたモーターショーの衣装に一石を投じるものといえる。とくにソックスは、従来のコンパニオンには見られなかった画期的な試みだ。
各国の報道陣にもかなり好評で、ローアングルからグッと上にパンして舐め撮りするという、一般人が真似をすると誤解のもとになりそうな撮影を敢行するビデオクルーもみられた。
ところでこうした「一歩間違えるとロリコン系衣装」は、タータンチェックの流行とともにこちらの男性誌でも多く採り上げられたものの、実際に街で着用する女子は極めて少なかった。
そうした矛盾からくる男性のフラストレーションを巧みに察し、逆に注目度アップに繋げるショー担当者のセンスと、それにハンコを押す(実際はサインだろうが)フィアット首脳陣の勇気を評価したい。
なお来年のジュネーブは、欧州でも時折話題になるアキバ風メイド姿が登場か? というのは、筆者の勝手な想像である。
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59年前のクルマに敵わない?
屋外に目を移そう。
一角にはミニカーショップが店をひろげていて、プレスデイにもかかわらず、熱心に覗く人を見かけた。実はミニカーショップはジュネーブショーでも出店しているので珍しくはないのだが、ここフランクフルトでは、なんと懐かしい「自動車型消しゴム」までバケツ入りで売られている。
元祖「メルセデス300SL」や幻の東独車「トラバント」といった歴史車だけでなく、「シトロエンXM」や、六本木のカローラ時代の「BMW3シリーズ(E30)」といった、フツーの車が掘れば掘るだけでてくる。各車のアンダーフロアの細かい彫りからは、作り手がそれなりのエンスージアストであることを感じた。
ついでにボクなどは、思わず“推進用”のBOXYノック式ボールペンも併売していないかと探してしまった。
その近くで、これまた興味深い光景を目撃した。
ケータリングサービス会社が持ち込んだ、初代「フォルクスワーゲン タイプ2」である。往年のコカ・コーラ宣伝車スタイルだ。このクルマと一緒に、カメラに収まる人の多いこと多いこと。繰り返しになるが仕事人ばかりのプレスデイにもかかわらず、である。
クルマをメシのタネと割り切っている関係者に遭遇するたび、なにやら複雑な気持ちになる筆者としては、こうやって盛り上がっている人たちを見て何やらホッとした。
それよりも、発表年から起算すれば59年前の、屋外にさりげなく停められたクルマが、最新モデルには向けられることのない微笑みをみんなから浴びているとは……。59年後の2068年、このように可愛がられるクルマは現行市販車にあるのだろうか? と思わず考えこんでしまった。
……などとカッコよく締めようと思ったものの、それを確認するにはボクは102歳まで生きなければならない。まあ、幸い生きられたとしたら、その時代の若者を相手にフランクフルトで大いにウンチクを披露したい。
「おじいさん、ガソリンスタンドって何のことっすか?」とか言われておしまいかもしれないが。(後編につづく)
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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