アルファ・ロメオ8Cコンペティツィオーネ(FR/6AT)【試乗記】
デジタル・リマスター版スポーツカー 2009.09.25 試乗記 アルファ・ロメオ8Cコンペティツィオーネ(FR/6AT)……2429万5000円
ラップタイムよりも感動を。アルファ製スーパーカーは、感性にダイレクトに訴えかけるという素晴らしい性能を備えていた。
ロマンチックなエンジン音
世界限定500台、運転する機会はこれが最初で最後になるかもしれないアルファ・ロメオの高性能スポーツカーを、まずは外からじっくり眺める。ボンネットが長くてボディ後半部が短い、いわゆるロングノーズ、ショートデッキのスタイルはクラシカルで、1960〜70年代のスポーツカーを彷彿とさせる。けれどもそのボディ素材はハイテクで、マセラティで用いられるスチール製の基本骨格に、カーボン製モノコックとカーボンパネルを組み合わせている。つまり、ボディの目に見える部分はほとんどがカーボンということになる。
シートに腰掛けた時に目の前に広がる光景も、古典的なスポーツカーの文法にのっとったもの。センターコンソールにシフトレバーのかわりにスイッチ類が配置されている以外は、インパネの右に回転計、左に速度計を配したオーソドックスなレイアウトだ。ただし、インテリアもエクステリアと同様、素材はハイテク。センターコンソールやメーターナセル、さらにシートのシェル部分などがカーボン、センターコンソールを取り囲む枠などが無垢のアルミとなっている。乱暴に言えば、インテリアの黒っぽいところがカーボン、銀色に光っているところがアルミということになる。
センターコンソールの一番目立つ部分にある、「ENGINE START」と赤字で記された銀色のボタンを押すと、フェラーリ直系の4.7リッターV8が「フォン!」と吼えた。濁りのない、すっごいイイ音! この腹に響いて魂を揺り動かす感覚は、何かに似ている。思い出すのは、F1のエンジン始動シーン。あまりにシビれたので、一度エンジンを切って、もう一度「フォン!」を味わう。何十年か後、『カーグラフィックTV』のオープニングのエンジン始動シーンは、現在の「ブガッティT35」からこの「アルファ8C」になっているかも(?)。走り始めても、とにかくエンジンの音にうっとりしたりコーフンしたり。V8エンジンは、低回転域では木管楽器の温かみのある音を聞かせる。一方で、高回転域ではジミヘンのギターのように暴力的でありながらも美しい音を鳴らす。
トンネルがうれしい
アクセルペダルは、もちろんスピードやエンジン回転数をコントロールするためのものだ。そしてアルファ8Cのアクセルペダルには、8つのシリンダーが奏でる音楽を指揮するというもうひとつの役目がある。こんな具合にエグゾーストノートを心ゆくまで堪能できるのは、トランスミッションのできがいいからだ。
グラツィアーノ製6段MTとマネッティマレリ製自動変速システムを組み合わせた2ペダルMTは、「AUTO」と「MANUAL」のどちらかを選ぶことになる。また、「SPORT」と書かれたスイッチを押すと、「AUTO」でも「MANUAL」でも変速スピードが速くなり、エグゾーストノートのヌケがさらに良くなる。
「AUTO」を選んでノーマルのセッティングだと、変速は穏やかでスムーズ。ごみごみした市街地でストップ&ゴーを繰り返すような場面でもまったく不満はない。「MANUAL」を選んで、さらに「SPORT」のスイッチを押すと、クルマの性格は一気にレーシィになる。変速ショックはやや大きくなるものの、そちらへの不満よりもシフトした時のダイレクト感への喜びのほうが勝る。高速道路を走りながら、ついつい意味もなくシフトを繰り返す。パドルを2度手前に引いて6速から4速へ、「ファーン」ときれいに中ブカシが入ってシフトダウン。
特にトンネルの中がたまらない。四方の壁で音が反響し、アルファの8Cは音の筒の中を突っ走ることになる。普通のスポーツカーだったら、地球温暖化や石油資源の枯渇が叫ばれる折りにこんなことをしていてもいいのでしょうか、という罪悪感を覚えてしまうところだ。けれども、アルファ8Cに乗っている間、そういった“宿題”をすっかり忘れてしまった。それほど美しい音を奏でていたということだけど、いまの時代にあってこのクルマの存在はヤバい。
足まわりはアルデンテの茹で上がり
ついつい音にばかり心を奪われてしまうけれど、乗り心地のよさにも驚かされた。フェラーリやマセラティと異なり、アルファ8Cは可変ダンパーを備えない。つまり渋滞のノロノロ運転からスポーツドライビングまでひとつのセッティングでこなすわけだけれど、これがちょい硬めの実に絶妙の按配。アルデンテに茹で上がっている。試乗車は、前245/35ZR20、後285/35ZR20という太くて薄いピレリPゼロを装着。轍で針路が乱されることはあったけれど、乗り心地に不満を覚えることはなかった。
ワインディングロードに入って曲がりくねった道が続くにつれ、8Cとの距離がどんどん近づくように感じる。同時に8Cがギュッとコンパクトになって、ノーズの先端からテールランプにいたるまで、隅々にまで神経が伝わっているような錯覚に陥る。クルマに乗せられている感じはまったくなく、ドライバーは自分がマシンをコントロールしていると実感しながらステアリングを握ることができる。
どうしてそう感じるのか? クルマの動きが素直なのだ。先にふれたようにアシはがちがちに固められているわけでなく、だからコーナリングでは割と大きめのロールを許す。けれども、次第に深くロールしていく姿勢の変化がナチュラルで、タイヤがどのように地面と接しているかという情報がしっかりと伝わってくるのだ。
トランスアクスルのレイアウトによって重量物を真ん中に、そして下方に集めた重量配分の恩恵か、ステアリングを切れば切ったぶんだけ、ノーズはさらっと向きを変える。ブレンボ製のブレーキシステムは信頼できる制動力を備えていることはもちろんのこと、そのタッチやフィーリングも極上だ。特にノーズだけがダイブするのでなく、安定した姿勢できゅーっと車体を沈ませながらきれいに速度を殺していくさまからも、やはり重量バランスの良さを体感する。
スピードよりも芸術点
はっきり言って、このクルマより速いクルマはいくらでもある。V8エンジンは音こそ素晴らしいけれど、そのダッシュ力は目をむくほどじゃない。現代の技術をもってすれば、もっとパワーを上げることや、アシをがっちがちに固めてロールを小さくすることはそれほど難しくないだろう。けれども、アルファ8Cはラップタイムよりも芸術性を重んじるスポーツカーだった。つまり、スピードスケートではなくフィギュアスケートの選手で、ドライブしているとロマンチックな気分になる。
面白いのは、スタイルや音、それにドライバーがクルマを完全に支配している感覚など、かつてのスポーツカーが備えていた美点を最新技術で再現していることだ。連想したのは、世界中で大ヒットしているビートルズのデジタル・リマスター版だ。ビートルズ・マニアの友人は「リンゴのすごさを再確認した」とか「ポールのベースはやっぱ世界一」と大喜び。それと同じで、最新技術によって黄金時代のスポーツカーを再現したものがアルファの8Cだと思った。つまり、スポーツカーのデジタル・リマスター版だ。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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