こちらはテスト開発中のフィン。ドアパネル前方に取り付ける。
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エアロスタビライジングフィン
そして最後は、「今回の目玉」を紹介したい。
「エアロスタビライジングフィン」と名付けられた小さなパーツ。これを、フロントフェンダーとCピラーに装着するだけで、空力効果で挙動が安定するという。
その鍵となるのは、空気の「渦」(タービュランス)。このフィンが空気の流れに対して後方に乱気流を作り出す。まず前側フィンの作り出す渦が、ボディーサイドを流れる空気の剥離を抑える。そして後ろ側フィンの作り出す渦が、リアウィンドウやトランク部など、走行風が当たらない場所で発生する負圧を吹き飛ばす(または空気の剥離層を小さくする)。結果として空気抵抗が減り、速くなる。なおかつ、この渦がボディー側面を支えて、車体を安定させるというのである。
空力と聞いて、少し詳しい人ならばダウンフォースを思い浮かべるだろう。フェラーリをはじめとした一部高級スポーツカーが、最先端技術の流用の一環としてこれを用いる場合がある。だがダウンフォースの活用は、市販車において不都合なことも多い。
なぜならフラットボトム+ディフューザーでダウンフォースを得ようとした場合、地面とフロアの隙間は狭いほど効果が高く、ある程度のロードクリアランスが必要な市販車には不向きなのだ。またそのクリアランスも一定に保たねばならず、サスペンションを固める必要がある(乗り心地が悪化する)。車体がロールやピッチングで傾くたびにダウンフォース量が増減するのは危険だから、実際は「床下を平らにすることで空気抵抗を減らす程度」にとどめることが多いのだ。
フィンの効果を示す風洞模型。小さな空気の渦ができているのが見える。
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トヨタ車内の「自動車同好会」によるN1レース仕様の「86」。この車両でマカオグランプリに参戦予定。
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しかしこのフィンは、ダウンフォースを獲得するためのデバイスではないので、そうした条件に左右されない。当日出席していたエンジニア氏によれば、これはまさにF1から得た技術で、今後のトヨタ車にも活用されてゆくという。
「横風や突風などの外乱要素には弱いのではないか?」という問いに対しては、「渦がそれらを吸収してくれるから、むしろよい」との回答だった。
真夜中のテレビショッピングみたいなうたい文句に、最初筆者は「ふーん」と半信半疑であった。しかし試乗車(ノーマルグレードのAT仕様)で、装着・非装着の実走テストをしたところ、うそ偽りなく、その効果が体感できたのである。
一番の利点は、スイッチをオフにしても介入するVSCが、その介入の頻度と度合いを大幅に下げたことだ。ヨーモーメントが穏やかに発生するから、タイヤが滑り出してもクルマ側が「危険」と判断しないのだろう。そして、そこからアクセルを入れてゆくと、滑りながらもクルマは前に進んで行く。
上から車体を抑えつけるダウンフォースではないからタイヤは滑る。しかし、そのコントロールが最高に楽しい。
レベルの高いドリフトコントロール。
これこそ、みんなが86にイメージする走りだ。
あまりにコントロール性がよくて、キツネにつままれたような気分だった。一応周りの参加者にも確認したのだが、みな一様にその効果を認めていた。
筆者的には、ノーマルの17インチタイヤに純正サスペンションで十分おなかいっぱいになれる。チューニングパーツが売れなくなってしまうのではないか? と心配になった。
ちなみにこのフィン形状は、魚からヒントを得たのだという。いくつかのサンプルを用意して、一番速く泳げるカジキマグロのボディーを元に、その縦横比を割り出した。
ありきたりなオチで恐縮だが、まさに「目からウロコ」である。
(文=山田弘樹/写真=荒川正幸)