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第99回:東京ショーよりタメになる!? 潜入! これがイタリア地元自動車ショーだ

2009.07.11 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第99回:東京ショーよりタメになる!? 潜入! これがイタリア地元自動車ショーだ

体育館裏のナゾの集まり

少し前のことである。ボクが住むシエナでクルマを走らせていたら、市民体育館の裏に何やら人が集まっていた。

「体育館の裏」というのは、チョコを渡されるバレンタインデー以外は、悪いやつらの溜まり場と相場が決まっている。あまり近づかないほうがいい場所だ。
実際シエナの体育館裏というのも、日頃はサーカス団の団員小屋が設営してあったり、東欧からの出稼ぎ労働者向けの、里帰り無認可バスの発着所になっていたりと、少々近づきがたいムードが漂っている。

「エコだ、エコだ」というこのご時世。駐車場を使ったフリーマーケットか何かだろう、と思った。ところがよく眺めると、クルマが何台も置いてあるではないか。貼り紙を発見したら、そこには「シエナ自動車フェスタ」の文字が。2輪やカーショップも含め、40数社の協賛企業の名前が並んでいる。それは、地元ディーラーの1日合同展示会だったのだ。
入場無料のうえ「私たちの小さなモーターショー」というサブタイトルに泣かされたボクは、さっそく入ってみることにした。

人気はやはりアバルトだ。会場の一角には、タイヤを積み上げたコースが設営されていて、「アバルト500」の同乗試乗会も行われていた。若者たちが列を作って待っている。
本場イタリアとはいえ、アバルトディーラーはいまだ少ない。シエナのような立派な県庁所在地にも従来のフィアット販売店による取次店しかない。そのため、この小さなモーターショーはファンにとって「生アバルト」を観られる数少ない機会なのであろう。

ランチアは、新型「デルタ」、アルファ・ロメオは「MiTo」をイチオシで並べている。日本車ディーラーもトヨタとマツダが出展していた。
なお、現在発売中の自動車雑誌『NAVI』8月号の「エンスー新聞」のコーナーに掲載されている「改善タトゥーを彫ったセールスマン」は、このとき取材したものである。

「グランデプント・アバルト」を覗き込む若者たち。
「グランデプント・アバルト」を覗き込む若者たち。 拡大
「500アバルト」の同乗試乗会も行われていた。
「500アバルト」の同乗試乗会も行われていた。 拡大
「シトロエン・サクソ」のチューニング仕様もデモ走行。
「シトロエン・サクソ」のチューニング仕様もデモ走行。 拡大

新興国メーカーも注目

それらとは別に、気合が入ったものがあった。新興工業国製のブランドを扱うディーラーの皆さんである。

まずはインドのマヒンドラ。たしかに、少し前からイタリアの路上で同社製の無骨なピックアップをちらほらと見かけることが多くなった。
横に立っていたセールスのエンリコさんによれば、イタリアでは2004年に輸入が開始されたという。彼の店では、マヒンドラを韓国の起亜製乗用車と併売している。
「代表的なお客さんは、ワイナリーだね」
SUVの名のもと年々豪華になってしまった四駆モデルは、スパルタンなワイナリー作業には向かないのだろう。ただし上級車種のシートや内張りはイタリアに輸入してから手がけているものだという。顧客満足度を高めるべく、なかなか手の込んだプロセスをふんでいるのだ。
中心価格帯を2万ユーロ(約270万円)以下に設定してあるのも、大きなセールスポイントだ。

もうひとつは中国のグレートウォール(長城汽車)である。モデルはピックアップトラック「スティード」だ。イタリアのブレシアにある、その名も「ユーラシア・モーター」という会社がディストリビューションを行っている。
ボクの街では、以前からオペルとサーブを扱っていたディーラーが、取り扱いを始めたらしい。
セールスのアレッサンドロさんは「このジャンルは、オペルになかったからね」と、取り扱いを始めた理由を説明してくれた。
価格は、イタリアで今大人気のLPGに改造済みで2万1700ユーロ(約292万円)である。アレッサンドロさんは「エンジンは三菱製、にもかかわらず三菱のピックアップより1万ユーロも安い!」と、さらなるセールスポイントを強調する。

マヒンドラの展示。クルマは「マヒンドラ・ゴア」。
マヒンドラの展示。クルマは「マヒンドラ・ゴア」。 拡大
「指パッチン」にあらず。エンリコさんが商談スペース代わりのキャンパーから出てきたところ。
「指パッチン」にあらず。エンリコさんが商談スペース代わりのキャンパーから出てきたところ。 拡大
「スティード」とセールスのアレッサンドロさん。
「スティード」とセールスのアレッサンドロさん。 拡大

今のイタリアがそこにあった

ピックアップトラック「スティード」のドアを開けて乗り込んでみる。内装プラスチックの匂いは、イタリアに近年多数開店しているアジア系雑貨店のそれと同じであった。ドアを閉めると、ボディ全体にその振動が伝わり、ブルブル震えた。

ただし、これだけでお笑いに付するのは、早計だろう。1960年代初頭のオーストラリアにおけるテレビレポートを思い出したからだ。初めて上陸した日本車を取材したレポーターは、その貧弱な造りを見て「あなたも、いつかこのクルマに乗るようになるかもしれません」と、冗談交じりに報じた。ところがわずか10年後、オーストラリア市場で、日本車は圧倒的シェアを見せつけるようになる。

インド車や中国車も侮ってはいけない。事実、先述のマヒンドラはトスカーナ州内だけで、すでに年間100台ペースで売れているそうだ。
「メルセデスGクラスを下取り車にしたお客さんもいたよ」とエンリコさんは胸を張った。
地元ショーには、世界5大モーターショーとは違う、今のイタリアを感じさせてくれるものがあった。

1日限りのイベントとはいえ、深夜0時まで開催しているというのが、宵っ張りが多いイタリアらしい。そして、夜から始まるセクシー洗車ショー(若いムスメが泡まみれになって、クルマを洗うヤツですね)があるらしかったのだが、ここはイタリア。始まると言って定時には始まらないのが常だ。
女房に「こんな遅くまでナニを見てたのヨ?」と問い詰められた場合、説明に困る。後ろ髪を引かれながら会場をあとにした筆者だった。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

地元チューニング同好会のコーナー。「オペル・コルサ」のガルウィング仕様。
地元チューニング同好会のコーナー。「オペル・コルサ」のガルウィング仕様。 拡大
来場者のクルマも、そこそこ気合入ってました。
来場者のクルマも、そこそこ気合入ってました。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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