プジョー3008 1.6THP(FF/6MT)【海外試乗記】
がんばった“ライオン” 2009.07.07 試乗記 プジョー3008 1.6THP(FF/6MT)プジョーの“4桁”シリーズ最新モデル「3008」がデビュー。個性的な顔立ちのクロスオーバーモデルは、どんなクルマなのか? 日本導入に先立ち、フランスで試乗した。
3タイプのエッセンス
2004年に先行開発がスタート、2007年7月には量産モデルとしてのデザインが確定−−プジョー社に在籍してすでに27年という、同社のイギリス人チーフデザイナーKeith Ryder氏より、まずはそんなハナシを聞く事になった。ハッチバック・ボディを中心にボリュームゾーンを狙う「308シリーズ」と、新コンパクト・モノスペースである「5008」の間で、プジョーとしての新たな顧客層を狙うという、「3008シリーズ」のプレゼンテーションでのことだ。
ちなみに、こうして、車名の中に“2つのゼロ”を含んだプジョーのモデルというのは、「プジョーラインナップの根幹となる“3桁名称”のモデルから派生した、より個性の強いモデル」というのはご承知のとおりだ。今年春のジュネーブショーでお披露目された3008は、「308派生のクロスオーバー」というのがそのキャラクターのアウトライン。Ryder氏によれば、そこにはSUV、モノスペースカー、ハッチバック&セダンという3タイプのエッセンスが組み込まれているという。
垂直に切り立った力強いフロントグリルや大径シューズ、“高床式”のボディプロポーションなどは、当然SUVのエッセンス。一方で、308比で101mmプラスというアイポイントが生み出す、見下ろし感の強い視界の広がりは、ミニバンに代表されるモノスペースカーのエッセンスだ。3番目の乗用車的なテイストは、インテリアのデザインに表現されている。メータークラスターと一体化したセンターパネル部が、そのままスラントして左右前席を分断する高いセンターコンソールへと繋がるコクピット風の造形は、なるほど既存のSUVなどには見ることのできない、3008の室内で最大の見せ場と言って良いだろう。
とは言うものの、率直なところ「なんだかちょっと無骨で、塊感の強いエクステリアデザインだナ……」と、フランスはパリの凱旋門にもほど近いプジョー本社で対面して、個人的にはまずそんな思いを抱いてしまった3008だが、実はなかなか実用性に優れたパッケージングの持ち主であった。
日本仕様はガソリン+6段AT
まずはじめに、後席に乗り込んだ。前席下への足入れ性に優れることもあって、後席足下空間には思った以上の余裕がある。さらに、上下開き式ゆえにコンパクトに開くテールゲートや、深くて広いラゲッジスペースも外観から想像する以上のボリューム。3段階に高さを調節できるフロアボードによって、そんなラゲッジスペースを上下2段で使えるのもアイディアもの。ちなみに、フロントパッセンジャー側のシートバックは、水平位置まで前倒れするので、キャビン内にサーフボードを収納可能というのも売り物のひとつだ。
「2010年夏までには日本導入の予定」と、フランスらしく(?)おっとりしたスケジュールなのは、すでにヨーロッパでリリース済みのラインナップに、ガソリンエンジンとATの組み合わせが存在しないため。その代わりと言ってはなんだが、長いリードタイムの末に日本上陸をする暁には、トランスミッションは現行308シリーズが採用する4段ではなく、同じアイシン製の6段オートマチックを採用というプレゼントが付くという。
パリの郊外西方へと向けてドライブを開始したテストモデルのパワーパックは、PSAグループとBMWの共同開発による、ターボ付きの直噴1.6リッターエンジン+6段MTという組み合わせ。MTのシフトフィールは、シンクロも強力で節度感もキッチリと、なかなか素晴らしい。AT免許なるものの普及とともに、実用モデルからMTが抹殺され、特にラテンの国からは“本場仕様”のモデルが入り辛くなった日本の輸入車市場の状況が、ちょっと恨めしく思えてしまう。当然のように、MTは日本に入らないのである。
安定感の隠し味
1400kg台半ばの重量に対して最高出力150psというエンジンパワーは、特に強力という印象ではない。しかし、1500rpmも回れば十二分に実用的なトルクを発生するという、まるで「オーバー6000rpmまで回るディーゼル」のようなキャラクターのおかげで、力不足を意識させられるシチュエーションは皆無。
ただしこの心臓、アクセルワークに対するレスポンスが少々鈍いのは残念だ。たとえば、ダウンシフト時に回転合わせの操作を行おうとしても、なかなか一発で目標回転数に達しなかったリする。
「日本仕様はそうなる予定」との事から18インチシューズを履いたモデルをメインにテストドライブを行ったが、実は短時間だけ乗る機会が得られた16インチ仕様のほうが、突き上げ感やロードノイズではそれなりに有利な印象。ただし、それを知らなければ18インチモデルの快適性にも不満はないし、なによりルックスでは、やはりこちらの方が遥かに“気分”というもの。舵の正確性はいかにもプジョー車らしいし、高速走行時のフラット感の高さはプジョーラインナップの中でも上位にランクインするだろう。
今回のテストドライブではハードな走りをトライする機会はなかったが、それでもコーナリングやレーンチェンジシーンでロール感がほとんど気にならなかったというのには、実はヒミツがある。このモデルのリアサスペンションには、左右ダンパーを結ぶ油圧回路の途中に“第3のダンパー”を挿入することで、過度のロールを抑制する「ダイナミック・ロール・コントロール」なるメカニズムを採用。全高が1.6mを超えるモデルでありながら、終始高い安定感と安心感を味わわせてくれたのは、そんな隠し味も効いてのことなのだ。
全長が4.4m弱、全幅は1.8m少々というのは、日本でもなんとか抵抗なく扱えるサイズだろう。それを含めて、実用性をなにひとつ犠牲にすることなく、既存モデルにはない個性を演出するという点においては、なかなかがんばった“ライオン”の誕生だ。
(文=河村康彦/写真=プジョー・シトロエン・ジャポン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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