シボレー・トラバースLS(FF/6AT)【試乗記】
未知の強豪 2009.06.15 試乗記 シボレー・トラバースLS(FF/6AT)……498.0万円
全長5.2m超、ホイールベース3m超! 圧倒されそうな巨体に乗り込んでみると、意外やその乗り味は……。
「トラバース」って何者?
恥ずかしながら、「シボレー・トラバース」という車名を聞いて、その姿が浮かばなかったわけです。冷や汗をかきながら資料に目を通すと、GMがシボレーブランドから発表した、最新CUVとのことだった。CUVとはクロスオーバー・ユーティリティ・ビークルの略で、SUV(スポーツ・ユーティリティ・ビークル)とミニバンの、いいとこ取りをしたカテゴリー。
「トラバース」と同じプラットフォームを使う兄弟車種には、「サターン・アウトルック」「GMCアカディア」「ビュイック・エンクレイブ」があるらしい。そうか、ほかに3人の兄弟がいるのか……、と自分で書きながら、いまいちピンときていません。どれも日本に馴染みのない車種ですし。
ちなみに「トラバース」とは、GMの本拠、ミシガン州にある都市の名前。日本でいうと「ホンダ・青山」みたいな感じの車名か。なんか違う気もする。
三井物産オートモーティブが日本に導入するのは、FFの「トラバースLS」と、4WDの「トラバースLT」。エンジンは、ともに直噴ガソリンの3.6リッターV型6気筒で、これは「キャデラックCTS」などに搭載されるものと基本的には共通だ。本国には7人乗りもあるけれど、日本に入ってくるのは8人乗りだけとなる。今回試乗したのは、FFの「トラバースLS」8人乗り仕様。ここまで予習し、なんとなくわかったような、わからないような気分で、キーを受け取る。
ボヨヨン系というよりカッチリ系
それにしても、素性に関しての知識がないクルマに試乗するのってワクワクしますね。子どもの頃、プロレス中継で「謎の強豪マスクマンが緊急来日します!」というアナウンサーの声に、コーフンしたことを思い出す。はたして、どんな正体を現すのでしょうか?
で、アメリカからやってきた未知のCUVは、巨体だった。シャープなフロントマスクとつるんとしたリアビューの組み合わせはよくまとまっているから、パッと見はそれほど大きさを感じさせない。けれど、実際はパーキングスペースの白線からはみ出す勢いだ。
むむむ、デカいぞ、と身構えて走り出してみると、そのフィーリングは良くも悪くも意外とフツー。「鷹揚に」とか「大らかに」というのがアメリカ車、特にSUVを形容するときの常套句だ。自分も「大船に乗った感じ」なんて書いた記憶があります。でも、「トラバースLS」にはいわゆるアメ車っぽい感触はない。ボヨヨン系というよりも、どちらかといえばカッチリ系。交差点でも、のたーっと曲がるのではなく、大きな図体がキュッと曲がって、パパイヤ鈴木が機敏にターンを決める姿を思い出す。不思議なクルマだ。
乗り心地にも、ふわんふわんした曖昧な感触はない。ほかのアメリカンSUVに乗っているとタイヤが地面に接しているのか疑問になることがあるけれど、「トラバースLS」はしっかり大地を蹴っている感覚が伝わってくる。路面に荒れたところがあれば、それを正直に伝える。ただし路面からのショックをがっちりしたボディがしっかり受け止め、ボディの揺れもすぐに収まるから乗り心地が悪いという印象は受けない。陳腐な表現を使うと、乗用車ライクなフィーリングだ。
アメリカでは女性ユーザーがターゲット?
乗用車っぽいと感じるもうひとつの理由は、3.6リッターV型6気筒のガソリン直噴エンジン。ゆるゆる回るのではなく、ビシッと硬派に回転を上げる。エンジンの印象だけを切り取れば、スポーティなセダンみたいだ。パワー、トルクは十分で、信号待ちからの発進時、軽く2トンを超すボディを軽やかに加速させる。さらにアクセルを踏み続けると4500rpmから上では澄んだ音が耳に届く。見かけによらず、なかなかイイ音を聞かせてくれる。やっぱり不思議なクルマだ。
高速道路での100km/h巡航時は、6速で1750rpm。ここでのエンジン音は控え目で、路面からのノイズもきっちり遮断されている。エンジンやロードノイズが静かなぶん、相対的に風切り音が大きく聞こえるけれど、この車内の静かさも実用セダンっぽい。特に個性があるとか優れた部分があるとは思わないけれど、不思議と体になじんでくる。ボディは大きいけれどそれ以外はフツーのクルマで、ある種のトヨタ車の感じにも似ている。
大きめの実用車、という目で見ると、このクルマがすんなり理解できる。3列目シートへの乗り込みは容易だし、2列目、3列目、そして荷室と、スペースにも余裕がある。昨年、アメリカでこのクルマのTVCMに起用されたのは女性ソウルシンガーのメアリー・J.ブライジで、その理由は「ターゲットとしている女性がメアリーに共感する部分が多い」からだという。
子育てに奮闘するメアリー・J.ブライジがイメージキャラクターということはつまり、このクルマがママも運転するファミリーカーとして買い物や送迎に活躍するということだろうか。であれば、トラバースが大きな実用車であるというのもあながち的外れではないような気がする。と、ここまで書いたところでGMの国有化が発表された。いろいろと思うところがありますが、それはまた別のストーリーだ。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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