クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

第93回:祝! 「アルト」30周年&1000万台達成 スズキのものづくりを学びに「スズキ歴史館」へ(前編)

2009.06.09 エディターから一言 田沼 哲
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

第93回:祝! 「アルト」30周年&1000万台達成スズキのものづくりを学びに「スズキ歴史館」へ(前編)

 

スズキは今年「アルト」30周年&販売台数1000万台を達成。そして4月にオープンした「スズキ歴史館」は、1909年の創業以来、スズキが取り組んできたものづくりの精神がつまった施設。『webCG』ワタナベは、スズキのモノづくりと歴史を学ぶべく、エンスーライター田沼 哲さんと共にスズキ本社のある浜松へ向かった。

ルーツとなる「鈴木式織機製作所」の店舗を模したエントランス。
ルーツとなる「鈴木式織機製作所」の店舗を模したエントランス。 拡大
創業者である鈴木道雄(1887-1982年)の胸像。
創業者である鈴木道雄(1887-1982年)の胸像。 拡大
スズキの自動車業界における処女作であるバイクモーター「パワーフリーE2」(1952年)。36ccの空冷2ストローク単気筒、最高出力1.0ps/4000rpm。左の胸像は2代目社長の鈴木俊三。
スズキの自動車業界における処女作であるバイクモーター「パワーフリーE2」(1952年)。36ccの空冷2ストローク単気筒、最高出力1.0ps/4000rpm。左の胸像は2代目社長の鈴木俊三。 拡大

スズキのはじまりは自動車じゃない!?

ワタナベ(以下「ワ」):自動車のミュージアムを見学するのは、じつは今日が初めてなんです。わくわくするなあ〜。
田沼(以下「た」):へえ、そうなんだ。お、エントランスにさっそく凝ったディスプレイがあるぞ。
ワ:機織動自……? いきなりわけがわからないんですけど。
た:左からじゃなくて右から読むんだよ。鈴木式改良自動織機。左にカラフルな布を織ってる機械があるだろ? もともとここ遠州の地は繊維産業が盛んで、スズキは1909年に織機製造から始まったんだ。
ワ:まったく知りませんでした。

た:ちなみにトヨタもルーツは遠州で、織機からスタートしたんだよ。スズキに話を戻すと、自動車メーカーへの道を歩み始めたのは戦後の1952年。記念すべき第1作がこの「パワーフリー」というバイクモーター。
ワ:自転車にエンジンを付けたみたいですね。
た:ていうか、そのものだよ。バイクモーターとは、既存の自転車への後付けを前提に設計されたエンジンのことだから。
ワ:じゃあ自転車はスズキ製じゃないんですか?
た:うん。これは山口自転車製だな。ついでにいうと、ホンダも同じ浜松の地で、戦後間もなくバイクモーターから二輪業界に参入したんだよ。

ワ:ふ〜ん。パワーフリーから2年後の54年に出たという「コレダCO」になると、急にオートバイらしくなりますね。
た:うん。「コレダCO」は、すべてスズキで開発・生産された初めての製品なんだって。
ワ:見た目はクラシックな感じで悪くないけど、「コレダ」って不思議な車名だなあ。
た:「オートバイはこれだ!」という意味から名付けたそうだよ。
ワ:またまた〜。私が何も知らないと思って。
た:ホントだってば。スズキにはそうした語呂合わせやダジャレのようなネーミングが少なくないんだよ。「あると便利なクルマ」から「アルト」とか、「(セダンもあるけど)ワゴンもあーる」から「ワゴンR」とか。
ワ:にわかには信じがたいですね。まるでオヤジギャグじゃないですか。
た:しーっ! 今日はアルトとワゴンRの名付け親である鈴木修会長兼社長もいらしてるんだから。(編集部注=上記のネーミングの由来は本当です)

本格的なオートバイ第1号である「コレダCO」(1954年)。後に2ストロークメーカーとして世界に名を馳せるスズキだが、これは90ccの空冷4ストローク単気筒OHVで、最高出力2.0ps/5000rpmだった。
第93回:祝! 「アルト」30周年&1000万台達成 スズキのものづくりを学びに「スズキ歴史館」へ(前編)
スズキ の中古車webCG中古車検索

四輪1号車は当時唯一のFF車

た:本格的なオートバイを作った翌年の1955年には、スズキは早くも四輪車市場に参入する。第1号がこの「スズライトSS」。359ccの空冷2ストローク2気筒エンジンを積んだ軽乗用車だ。
ワ:小さいけど、ずいぶん腰高ですね。
た:軽なのに16インチという大きなホイール/タイヤを履いてるから。それはともかく、当時の日本では唯一のFF(前輪駆動)車でもあるんだよ。
ワ:すごいじゃないですか!
た:お手本はあったんだけどね。ドイツの「ロイト」っていう、やはり2ストローク2気筒エンジン搭載の小型FF車を参考に作られたんだ。以後しばらくの間、スズキはFF車を中心にラインナップしていくことになる。

ワ:じゃあ隣にある「スズライトTL」っていうのもFFなんですね。これ、とってもかわいいな。
た:ああ。子供の頃、近所にあってさ。当時は貧乏臭いクルマだと思ってたけど、今見るとかわいいね。ところで、このスズライトTLは59年に登場したんだよ。そう聞いて何かピンとこないかな?
ワ:なんだろう? 59年ということは、今からちょうど50年前……わかった、田沼さんと同じ年!
た:ピンポ〜ン、じゃねえよ。俺は58年式だから、ひとつ年上。それはどうでもいいんだけど、今年50周年を迎えたクルマといえば「ミニ」だろうよ。
ワ:あ、そうか。
た:小型車の世界に革命を起した傑作であるミニと同じ年に、同じFFを採用した、似たようなカッコのスズライトTLも生まれていたというわけさ。
ワ:やるなあ、スズキ。

た:TLの隣にあるのが「スズライト・フロンテTLA」(62年)。スズライトTLと基本的に同じだけど、TLはテールゲート付きのバンで、こっちはトランク付きの乗用車。
ワ:カタチはほとんど同じなのに、TLのほうがよりかわいく見えるのはなぜ?
た:TLのほうがシンプルだからだと思うよ。フロントのウインドシールドが平面ガラスで、フェンダーミラーもフロントのウインカーもないから、顔つきがさらにトボケて見えるんだ。
ワ:ホントだ。でもウインカーやミラーがなくてOKだったんですか?
た:ウインカーはセンターピラーに付いてるよ。あれで前後を兼用するから、後ろもテールランプしかないんだ。フェンダーミラーは、本来は運転席側には付いてたと思うんだけど……。いずれにせよ保安基準の改正によって、TLAの時代には前後独立したウインカーとフェンダーミラーが装着されたわけ。
ワ:なるほど。よく見ると、TLにはワイパーも1本しか付いてないんですね。
た:ああ、そうだね。

四輪車第1号である「スズライトSS」(1955年)。「スズライト」は、スズキの略である「スズ」と「軽量」と「光明」を意味する英語の「LIGHT」の合成語。前輪を駆動するエンジンは、359ccの空冷2ストローク2気筒、最高出力15.1ps/3800rpm。価格は42万円。展示は工場風景を再現したもので、バックのスクリーンには開発ストーリーが流れる。
四輪車第1号である「スズライトSS」(1955年)。「スズライト」は、スズキの略である「スズ」と「軽量」と「光明」を意味する英語の「LIGHT」の合成語。前輪を駆動するエンジンは、359ccの空冷2ストローク2気筒、最高出力15.1ps/3800rpm。価格は42万円。展示は工場風景を再現したもので、バックのスクリーンには開発ストーリーが流れる。 拡大
「スズライトTL」(1961年)。59年に登場したライトバン「TL」のフェイスリフト版。エンジンは基本的にSS以来のものだが、最高出力は21ps/5500rpmに向上。価格は39万8000円で、輸出も開始された。
「スズライトTL」(1961年)。59年に登場したライトバン「TL」のフェイスリフト版。エンジンは基本的にSS以来のものだが、最高出力は21ps/5500rpmに向上。価格は39万8000円で、輸出も開始された。 拡大
「スズライトTL」のテールゲートを独立したトランクに改めるなどして乗用車とした「スズライト・フロンテTLA」(1962年)。「フロンテ」は「フロンティアスピリット」に、「FF」(前輪駆動)の意味をも込めた造語である。
「スズライトTL」のテールゲートを独立したトランクに改めるなどして乗用車とした「スズライト・フロンテTLA」(1962年)。「フロンテ」は「フロンティアスピリット」に、「FF」(前輪駆動)の意味をも込めた造語である。 拡大
「スズライトTL」をはじめ、1960年代の軽四輪および二輪が並ぶ。
「スズライトTL」をはじめ、1960年代の軽四輪および二輪が並ぶ。 拡大

60年代、スズキの実力

ワ:なにこれ、チョーかわいい! まるでブリキのおもちゃみたい。
た:61年に登場したスズキ初の軽トラックである「スズライト・キャリイFB」。現在もラインナップされている軽トラック「キャリイ」のルーツだ。
ワ:へえ〜、「キャリイ」って半世紀近い歴史がある車名だったんですか。
た:で、この「スズライト・キャリイFB」は、当時入社3年目だった鈴木修会長兼社長をプロジェクトリーダーとして設立された豊川工場で、初めて生産されたモデルでもあるそうだよ。
ワ:たったそれだけのキャリアで。やっぱり鈴木会長は最初からキレ者だったんですね。

た:そういうこと。ところで、今日は四輪を中心に話を進めてるけど、60年代のスズキの実力を示す証拠として、ぜひ紹介しておきたいバイクがあるんだ。
ワ:どうぞ、お願いします。
た:これだよ、「RM62」。
ワ:レーサーレプリカですか?
た:レプリカじゃなくてホンモノのレーサー、それもチャンピオンマシン。今から50年前の59年にホンダが二輪レースの最高峰であるロードレース世界選手権(以下世界GP)、現在の「MOTO GP」に挑戦を開始したのはよく知られているけど、スズキも翌60年から早くも参戦しているんだよ。
ワ:まったく知りませんでした。

た:で、参戦3年目の62年には、この年から世界GPに設けられた50ccクラスのライダー、メーカー両部門を「RM62」で制したんだ。
ワ:すごいじゃないですか。

た:その後50ccクラスは64年まで3連覇、125ccクラスでも63年と65年にライダー、メーカー双方のタイトルを獲得している。レースで鍛えられたスズキの2ストロークエンジン技術は、間違いなく当時世界のトップレベルだったんだよ。
ワ:のんきな顔をしたクルマを作ってたいっぽうで、そんな偉業を成し遂げていたとは。
た:その勢いでもって、63年に鈴鹿サーキットで開かれた日本初の本格的な四輪レースである第1回日本グランプリの400cc以下クラスでも「スズライト・フロンテFEA」がワンツー・フィニッシュをキメてる。FEAというのは、さっき見たTLAの改良型ね。
ワ:へえ。

た:下馬評では、当時の軽でもっとも評価が高かった「スバル360」の勝利が予想されており、実際予選でも速かったんだけど、いざ決勝となったらフロンテがぶっちぎり。スズキが二輪世界GPを通じて、2ストロークエンジンのチューニングとレースにおける駆け引きを会得していたことが勝因だったんじゃないかな。
ワ:なるほど。(中編へつづく)

(文と写真=田沼 哲、webCGワタナベ)

スズキ初の軽トラックである「スズライト・キャリイFB」(1961年)。ドイツのロイトを参考に作られた「スズライトSS」以来のエンジンに代えて、新設計された空冷2ストローク2気筒ツインキャブエンジンをシート下に収めたセミキャブオーバー型トラック。
スズキ初の軽トラックである「スズライト・キャリイFB」(1961年)。ドイツのロイトを参考に作られた「スズライトSS」以来のエンジンに代えて、新設計された空冷2ストローク2気筒ツインキャブエンジンをシート下に収めたセミキャブオーバー型トラック。 拡大
フロントサスペンションをリーフリジッドからダブルウィッシュボーンの独立式にするなど改良が施された「スズライト・キャリイL20」(1965年)。展示車両は、当時「斡旋車両」として設定されていた「アサヒビール仕様車」を再現したもの。バックのスクリーン「スズライト・キャリイ劇場」には、60年代のモノクロ写真をベースにCG(コンピュータ・グラフィクス)で制作された映像が流れる。いわばスズキ版『ALWAYS三丁目の夕日』。
フロントサスペンションをリーフリジッドからダブルウィッシュボーンの独立式にするなど改良が施された「スズライト・キャリイL20」(1965年)。展示車両は、当時「斡旋車両」として設定されていた「アサヒビール仕様車」を再現したもの。バックのスクリーン「スズライト・キャリイ劇場」には、60年代のモノクロ写真をベースにCG(コンピュータ・グラフィクス)で制作された映像が流れる。いわばスズキ版『ALWAYS三丁目の夕日』。 拡大
「RM62」。1962年、世界一過酷なレースと言われていたマン島TTレースの50ccクラスで世界GP初優勝を飾り、その年のライダー、メーカー両タイトルを獲得した記念すべきマシン。50ccの空冷2ストローク単気筒、最高出力は9.0ps。右のスーツケースは、当時遠征メンバーが買い揃えて使用していたもの。
「RM62」。1962年、世界一過酷なレースと言われていたマン島TTレースの50ccクラスで世界GP初優勝を飾り、その年のライダー、メーカー両タイトルを獲得した記念すべきマシン。50ccの空冷2ストローク単気筒、最高出力は9.0ps。右のスーツケースは、当時遠征メンバーが買い揃えて使用していたもの。 拡大
かつて2ストロークエンジンはガソリンにオイルを混ぜた混合燃料が使われていたが、スズキは独自の分離給油機構を開発し、1965年から市販車に採用した。この人形は、「CCI」(Cylinder Crankshaft Injection)と命名された機構のシンボルとして、販売店に置かれたマスコット「CCI坊や」である。
かつて2ストロークエンジンはガソリンにオイルを混ぜた混合燃料が使われていたが、スズキは独自の分離給油機構を開発し、1965年から市販車に採用した。この人形は、「CCI」(Cylinder Crankshaft Injection)と命名された機構のシンボルとして、販売店に置かれたマスコット「CCI坊や」である。 拡大
田沼 哲

田沼 哲

NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。

エディターから一言の新着記事
エディターから一言の記事をもっとみる
関連キーワード
関連サービス(価格.com)
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。