スバル・インプレッサXV 2.0i-L EyeSight(4WD/CVT)【試乗記】
見た目だけのクルマにあらず 2012.11.13 試乗記 スバル・インプレッサXV 2.0i-L EyeSight(4WD/CVT)……260万9250円
「スバル・インプレッサ」ファミリーに、SUVライクな装いの「XV」が登場。その走りは? 乗り心地は?
定番のジャンルになる予感!?
これはハッキリ言って、ナンチャッテ商品だろう。古くは初代「インプレッサ」に「グラベルEX」があり、兄貴分の「レガシィ グランドワゴン」(現「アウトバック」)は押しも押されもせぬ定番ジャンルとなった。ただ、グラベルEXにしてもアウトバックにしても、もとはステーションワゴンだから、それなりにSUVルックとの親和性があった気がする。
しかし、それと同じ企画をハッチバック=「インプレッサスポーツ」でやっちまったところが、「XV」のミソである。しかも、先代インプレッサにもXVがあったから、この新型はすでに2世代目。欧州車でも「フォルクスワーゲン・クロスポロ」が2世代続いている。ジワジワとではあるが、これも1ジャンルとして確立しつつあるのかもしれない。
「ナンチャッテ」を英訳するとおそらく「クロスオーバー」になる。ステーションワゴンもミニバンもSUVも最初はすべてクロスオーバー。乗用車の進化はすなわち、ナンチャッテの歴史と言えなくもない。
XVの成り立ちは見たまんまである。インプレッサスポーツにオフローダー風の加飾をあしらって、最低地上高をノーマル比で55mmかさ上げした。また、最新カスタムカーのようなホイールデザインも今回の大きな売り。これまで約10人の知り合いに「新型XVに乗った」と話したが、そのうちの2人から「あのホイールのカッコいいヤツ!?」と言われた。
カタチは妙でも、走りはナチュラル
もともと低めのインプレッサのボディーの下部をブラックアウト化して、視覚的にさらにボディーを薄く高く、そこにブッ飛んだホイールデザイン。私のような古いセンスの人間には違和感があるXVだが、その違和感こそXV最大の魅力である。さすがに55mmも上がると、室内に座っても目線が上がったことがはっきり分かる。
これだけ地上高が変わると、最低限のロール剛性の確保も簡単ではないはずだが、スバルXVの調律はなかなか絶妙といってよい。見た目はただのかさ上げだが、実際にはフロントナックル、リアアッパーアーム、ステアリングマウントやサブフレームの強化などで、荷重変化やキャンバー変化に手厚く対処した凝った設計である。スタビライザーもかなり強化されているはずだ。
さらにベースのインプレッサは今やFFが主力だが、XVには4WDしか用意しないあたりにも、スバルのプライドがうかがえる。
XVはインプレッサ比で明確なロール増をあまり感じさせず、それでいて不自然に押さえつけた神経質さや過敏なステアリング反応もない。自然な荷重移動で、しなやかに曲がり、サスストローク感のある乗り心地も悪くない。さすがは、この種のクルマを「レガシィ」で長く経験してきたスバル。失礼ながら事前の予測以上のデキである。
この優秀なフットワークには、55偏平17インチの「ヨコハマ・ブルーアースE70」というほどよい寸止め感のあるタイヤも効いていると思われる。この種のスペシャル企画商品は一昔前だと、やけに高性能なスポーツタイヤ、もしくはSUVらしいオールラウンドタイヤを履かせがちだった。
しかし、市場の意識も成熟して、燃費への要求度も厳しい現代ゆえに、XVには適度にハイトが高くて転がり抵抗の小さい、穏やかなサマータイヤが選ばれている。だから、強引な水平姿勢のままタイヤだけで曲がっていく……みたいな不自然さが、新型XVの走りにはまるでない。そういうXVには、高回転まで爽やかに伸びるがパワフルすぎない2リッター自然吸気エンジンもちょうどいい。
安全装備にほれぼれ
ところで、今回の試乗車もまた、もはやスバルの必須装備であるEyeSight(アイサイト)が標準装着された「2.0i-L EyeSight」だった。アイサイトは今や、スバル新車販売での装着シェアが9割とも7割ともいわれる。
テレビCMでおなじみの急停止は安易に試すことはできないが、高度なステレオカメラで前方や車線をずっと監視しているアイサイトには、そういう緊急事態以外にも効能がけっこうある。スバルの場合は、追従機能付きクルーズコントロールにもステレオカメラを使う。
他にも例えばレーンチェンジだ。黄線や白線(破線も含む)をウインカー未点灯でまたぐと、アイサイトはほぼ百発百中で警告する。消し忘れの(薄くなった)白線にまで反応する高精度ぶりに、わずらわしさを感じることもなくはないが、いざ予想外に反応しないと「どうしたオイ!」と、いつの間にか逆に心配になるほど依存性が高い。あと、渋滞時にボーっとしていて、前車の発進に気づかないでいると「前が空きました」と教えてくれるのは都市部では重宝。後続車にクラクションを鳴らされることはほとんどなくなるだろう。
ある意味で究極のクロスオーバーに、慣れると絶対に手放せなくなりそうなアイサイトの組み合わせ……アイサイト付きのスバル・インプレッサXVは近未来を先取りしたクルマなのかも。
(文=佐野弘宗/写真=峰昌宏)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
ホンダ・ヴェゼル【開発者インタビュー】 2025.11.24 「ホンダ・ヴェゼル」に「URBAN SPORT VEZEL(アーバン スポーツ ヴェゼル)」をグランドコンセプトとするスポーティーな新グレード「RS」が追加設定された。これまでのモデルとの違いはどこにあるのか。開発担当者に、RSならではのこだわりや改良のポイントを聞いた。
-
NEW
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
NEW
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
NEW
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。 -
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】
2025.12.2試乗記「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。 -
4WDという駆動方式は、雪道以外でも意味がある?
2025.12.2あの多田哲哉のクルマQ&A新車では、高性能車を中心に4WDの比率が高まっているようだが、実際のところ、雪道をはじめとする低μ路以外での4WDのメリットとは何か? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
BYDシーライオン6
2025.12.1画像・写真BYDオートジャパンが、「ジャパンモビリティショー2025」で初披露したプラグインハイブリッド車「BYDシーライオン6」の正式導入を発表した。400万円を切る価格が注目される新型SUVの内装・外装と、発表イベントの様子を写真で詳しく紹介する。






























