BMW Z4 sDrive35i(FR/7AT)【海外試乗記】
「ボクスター」というより「SLK」 2009.04.14 試乗記 BMW Z4 sDrive35i(FR/7AT)BMWきってのスポーツモデル、新型「Z4」にスペインで試乗。先代を所有していたリポーターは、新型を前に複雑な気持ちを抱いていた……。
デザインの妙
新型Z4を初めて目にしたのは、その“披露宴”が行われた、2009年初めのデトロイトショーでの舞台上だった。照明を浴びるZ4も悪くはないが、このモデルの個性豊かでエキセントリックなルックスは、やはり屋外の自然の陽の光の下で目にすると、さらにグッとくる。試乗会が開かれたのは、スペイン東海岸の町アリカンテ。4月に入ったばかりでも太陽さえ昇れば青空の下、たちまち20度近くになる気候は、なるほどオープンエアモータリングを楽しむにはうってつけのロケーションだ。
国際試乗会のためにズラリと用意されたテストカーは、そのすべてがトップグレード「sDrive35i」で、ツインクラッチの2ペダルMTである7段DCTが組み合わされたモデル。オリジナル比2インチプラスの19インチシューズと、10mmのローダウン化と共に電子制御式の減衰力可変ダンパーを採用する「アダプティブMスポーツシャシー」がオプション装着されていた。
ちなみに、全テスト車の仕様統一はボディカラーまでをも、オリオンシルバーメタリックなる1色にまとめるほどの徹底ぶり。配布されたオフィシャル写真は全てがこの色のモデルで、深みがあってなかなか美しい塗装色だ。しかし一方で、悩みに悩んでモルディブブルーなる水色の旧「Z4」を手に入れた筆者の立場からすると、新型のカラーラインナップに「明るいブルー系」が用意されなかったのはちょっと寂しい……。
全幅とホイールベースはほぼ不変ながら、全長だけが140mmほど延長された新型のルックスは、誰がどこからみても「紛れもないZ4」そのものだ。実は全長延長分のうち120mmはリアのオーバーハング拡大にあてられている。しかし、見た目上はそれを意識させず、むしろロングノーズ/ショートデッキという、Z4ならではの特徴がより強まったようにさえ感じさせるのは、デザインの妙と言うしかないだろう。
さらに言えば、そんなショートデッキの中に、2分割されたハードトップが収まってしまうのもデザイン上のマジック。ルーフ部分が格納されるのはシート後ろのロールオーバーバーの直後からで、短く見えるリアデッキも実はそれなりの長さを備えているのが、このモデルのレイアウトなのだ。
ライトウェイトとは呼べない
全長の延長や電動油圧式リトラクタブルルーフの採用などもあり、「同エンジン比では従来型よりも90〜95kgほど増した」という新型Z4の重量は、「35i」DCT仕様の場合1.6トン。それはもはや、断じてライトウェイトなどと呼べる数字ではないものの、いざアクセルペダルを踏み込めばゴキゲンなサウンドと共に、重さにまつわる懸念を一切忘れさせてくれるのが、このモデルの走りでもある。
すでに「335iクーペ」に搭載済みのツインターボ付き3リッター直噴エンジン+7段DCTという組み合わせのパワーパックは、35iに一級スポーツカーにふさわしい逞しい加速力と、トルコンAT車から乗り換えても違和感を感じさせないスムーズなシフトワークを実現している。スタートの瞬間からアクセルワークに対する加速レスポンスは自然で、ともすればこのクルマの心臓が排気のエネルギーに依存をするターボ付きであることを忘れてしまいそうだ。
一方、長いノーズをその見た目に反して「軽やかに振り回せる」という俊敏性が、従来型に対してわずかながらも後退したという印象は、決して気のせいではなさそうだ。たしかに、現状でもハンドリングのテイストは十分スポーティ。が、それでもやはり時に鼻先が少々重くなったナ、という感覚を意識させられる。
リトラクタブルルーフが意味するもの
低速域ではまだ路面凹凸に敏感な反応を示す領域が残るものの、そこを過ぎればランフラット構造を忘れさせるしなやかな乗り味を実現させたのは、タイヤ自体の進化と共にテストカーの装着していた減衰力可変ダンパーの効果も大きいはず。そんなフットワークの印象を含め、室内各部の質感や静粛性、果てはドアの閉まり音などがそれぞれ2ランクほども上質になったように感じられるのが新型全般の大きな特徴だ。
ところで、そんな新型Z4最大のトピックである「リトラクタブル式ルーフ」の採用を、どう捉えれば良いだろう?
従来のソフトトップ/クーペという2本立て展開をやめ、リトラクタブル式へと一本化した事に対するBMWの公式コメントは、「従来のクーペのセールスはシリーズ全体の10%にしか及ばず、それを作り分けるのはZ4のボリュームを考えるとあまりに非効率」というもの。しかし、それは同時によりボリュームゾーンを狙うべく、「ボクスターよりはSLK方向に舵を切った」というのと同じ意味であるようにも思えてしまう。
「BMWきってのスポーツモデルだから」という思いで従来型を手に入れた自分にとって、今回の成長は、だからちょっと複雑な思いも避けられない。良くも悪くも、“Z4.5”くらいにまで上質化を果たしたのが、新型Z4なのである。
(文=河村康彦/写真=BMWジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。






























