アウディRS6(4WD/6AT)【ブリーフテスト】
アウディRS6(4WD/6AT) 2009.04.10 試乗記 ……1713.0万円総合評価……★★★★★
A6のフェイスリフトとともにラインナップに加わったハイパフォーマンスセダン「RS6」。試乗したリポーターは、A6やS6と全く違う味付けに、驚きと歓びを隠せなかった。そのわけは……。
クルマ好きを驚喜させる
昨年、まずはアバントのみが導入されたアウディA6シリーズの最高峰たる「RS6」に、マイナーチェンジを機にセダンが新設定された。導入時にRS6アバントを乗り逃がしていた筆者は、今回初めてそのステアリングを握ったのだが、正直に言うと乗る前にはそれほど大きな期待を抱いていたわけではなかった。A6の走りは、日ごとに熟成が進み、とくに「2.8FSIクワトロ」が出たあたりではそれなりに満足いくものになっていたとはいえ、手放しで賞讃できるほどとは思っていなかったし、これまたマイナーチェンジで激変していたことを後で確認したが、S6にもあまり良い印象を抱いていなかったからだ。
しかし、期待は良いほうに裏切られた。このRS6、想像どおりおそろしく速いばかりでなく、その走りの質がきわめて高く、また密度がとにかく濃かったのだ。人間を置いてきぼりにしてクルマだけが速いわけではなく、その速さを自分の手で引き出していると感じさせる演出は巧みで、それゆえに飛ばしていても、あるいは街中などでゆっくり走らせていても、豊潤なドライビングプレジャーに浸ることができる。
A6を、よくぞここまで……と感嘆してしまったが、考えてみればアウディはいつだって大抵、上のグレードほど味が濃い。「技術による先進」を謳うブランドだけに、最先端の技術を投入するほどに、らしさが引き立つようである。
そうは言っても、A6があって、そのS-lineがあって、S6が用意されているのに、さらにその上にRS6をラインナップする必要性がどれほどあるのか。日本にいると、いまひとつピンとこないところだけれど、少なくとも速いクルマがあれば、それだけ確実に移動時間を短縮できるドイツでは、それにお金を払うユーザーはたくさんいるのだろう。今の時代、燃費というファクターは無視できないが、時間効率を考えれば存在意義は断固としてある。
しかもRS6は、たんにS6より速いだけでなく、しっかりと走りのキャラクターまで違えてきている。圧倒的な速さを誇るパワートレインと、重厚感に満ちた乗り味を備え、そのうえ、驚愕のパフォーマンスにたじろぐことなく思い切って踏み込んでいけば、その先にはなんともマニアックな操る歓びをも隠し持っていて、クルマ好きを驚喜させる。それが、このRS6というモデルなのだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)アウディのアッパーミディアムセダン/ワゴンの「A6」シリーズで、最もハイパフォーマンスなモデルが「RS6」。当初ワゴンボディの「RS6アバント」のみであったが、2009年1月のA6シリーズマイナーチェンジのタイミングで、セダンボディの「RS6」がラインナップに加わった。
エンジンは5リッターV10ターボチャージャー付きで、580psを発生。トルク配分の基本を前40:後60とするクワトロシステムで、四輪を駆動する。組み合わされるトランスミッションは6段のティプトロニック。
(グレード概要)
アバントと機関面を同じとするも、60kg軽量というアドバンテージを持つのがセダンモデル。0-100km/h加速は4.5秒という、スーパーカー並みのパフォーマンスを発揮する。
試乗車はオプションとなるDRC(ダイナミック・ライド・コントロール)プラス付スポーツサスペンションを装着する。標準で備わるDRCは車体の対角線位置にあるダンパーを油圧回路で接続し、ダンピング制御を行うことでロールを抑制する。オプションのDRCプラスは、これに加え、ダンパーの減衰力を「コンフォート」「ダイナミック」「スポーツ」の3モードに変更することができるというもの。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
320km/hスケールの速度計を右に、「RS6」のロゴが入れられた回転計を左に据えたメーターパネル、カーボンとピアノブラックのトリムでコーディネートされたコクピットまわりは、アウディらしい上質感の中に、精悍な雰囲気を湛えている。ちょっと華やかさが足りない? という気がするのは、試乗車がオプションのドライブアシストパッケージ装着車だったため、ステアリングがオーソドックスなデザインの、4本スポークタイプだったせいでもある。標準は「RS4」などと同様の、ディンプルレザーを使ったフラットボトムタイプ。とはいえ、舵角を問わず自然な操舵感は、試乗車の真円形状のほうが好ましい。
ベースとなったA6は、ドライバー側に傾けたセンターコンソールの採用など、アウディがダッシュボード造形の変革を始めた最初のモデルだけに、ナビ画面隣の一等地にグローブボックス開閉ボタンがあったり、エンジンスタートとストップが別ボタンだったりと、操作系には各部に洗練されていない部分も見受けられる。マイナーチェンジでこれらが改善されなかったことは、マイナスとしたい。
(前席)……★★★
ヘッドレスト一体のハイバックタイプとされたSスポーツシートは、上体、太腿部分ともサイドサポートが大きく張り出し、座ると自然に気持ちがたかぶってくる。表皮はシルクナッパレザー張りで、滑らかな感触。エンボス加工された「RS6」のロゴ、効果的に入れられた白糸のステッチなどとともに、スポーティさのなかに、上質感を演出している。
しかしながら真剣に走りと向き合うには、ちょっとサイズが大きいかなという気はした。滑りやすい表皮のせいでもあるのだろう。もちろん体型にもよるが、もしRS6のパフォーマンスを然るべきステージにて本気で引き出そうというのであれば、RSバケットと呼ばれるオプションのスポーツシートを考えるべきかもしれない。
(後席)……★★★
バケット的な形状とされた専用のシートは座面長、高さとも十分で、身体をしっかりホールドする。頭上には縦にした拳ひとつ分くらいの余裕があるし、足元も広い。横方向のゆとりも嬉しいところだ。エアコン吹き出し口だけでなく、後席用シートヒーターが備わり、サイドブラインドも用意されるなど装備も充実している。
もっとも広さに関しては、ボディサイズからしたらこれぐらいはあって当然というものだろう。ルーフを低くしているぶん、前後長で広さをかせいでいる感はあって、開放感は今ひとつともいえる。
ヘッドライニングは、上等なアルカンターラ張りとされる。さすが……と思わせるところだが、そこまでやるならアシストグリップもプラスチックのままではなく、レザーを巻くなりしてほしいところだ。1645万円のクルマなのだから。もう一歩の詰めに期待。
(荷室)……★★★★
室内と同様、ボディサイズの大きさがフルに活用されていて、ラゲッジスペースはとにかく広大だ。フロアは低く、奥行きも容易には手が届かないほど深い。リアシートには分割可倒式のバックレストが備わっているが、そこまで必要になることは滅多にないだろうと思わせる。なにしろ容量は546リッター。下手なワゴンなど相手にならない。
しいていえば、トランクリッドの見切り線がフロアより高いのが、重い荷物を積み込む時などにはマイナスと言えるが、そういう使い方が多い人のためにはアバントもあることだし、これだけの容量を実現しているのだから、文句を言うべきではないだろう。あるいは隅々までカーペットが敷き詰められた仕立ての良さに、荷物を積み込むのをためらいそうになってしまうことのほうが気になるポイントかも?
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
580ps、66.3kgmというV型10気筒5リッターツインターボユニットのスペックには思わず後ずさりしそうになるが、いざ走らせてみると、これが気難しさとはまるで無縁なことに驚かされる。アクセル操作を特に繊細にと気遣わなくてもギクシャクすることはないし、ターボラグともまるで無縁で、街中でも走りはスムーズ。1500rpmですでに最大トルクを発生する特性ゆえに、むしろ走りやすいほどだ。
そこから先、さらに踏み込んでいった時にも、どこかで突如としてトルクが爆発するようなことはなく、右足の動きに忠実にどこからでもフラットにトルクが涌き出してくる。実際には電子制御スロットルなどの巧みな制御が扱いやすさを演出しているに違いないが、ドライバーは580psを完全に制御下に置いているような、極上の気分でアクセルを踏み込んでいける。
そんな特性にフルタイム4WDのクワトロの効果が相まって、その加速はまさに暴力的と形容できるほど。Dレンジのままアクセルを踏み込むだけで、挙動の乱れなど一切感じさせないまま、速度計の針は、あっという間に盤面の右側に吸い込まれていく。6段ATがシフトアップを繰り返していっても、その勢いはまるで衰えることをしらないが、室内は至って平和なまま。歪む視界だけが、その加速度を物語る。
ひたすらジェントルに、ひたすら速い。ジェントルな振舞いに秘められた凶暴性が、かえって畏怖の念を抱かせるこのパワーユニットこそ、RS6のハイライトである。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
RS6の標準サスペンションには、対角線上のダンパーを連関動作させてロールを抑制するDRC、ダイナミックライドコントロールが備わるが、試乗車にはそれに減衰力可変ダンパーを組み合わせたオプションのDRCプラスが装着されていた。その効果はまさに絶大である。
通常走行用の「コンフォート」モードは、9.5Jリムのホイールと組み合わされた275/35ZR20の極太タイヤのせいで、時折ズシッと重い突き上げ感があるものの、少なくとも運転席にいる限りは、なかなか快適と感じられる。ワインディングロードで有効だったのは「ダイナミック」モード。適度に動きは引き締まるものの、姿勢変化を抑え過ぎてはいないため、積極的な荷重移動で姿勢を変えていく楽しみが残されている。
これに基本前後トルク配分を40:60としたクワトロが組み合わされたことで、フットワークはこの巨体からは想像できないほど自由度が高い。特に低速コーナーの連続では進入でテールアウト気味に向きを変えて、出口に向けて豪快に脱出するという極上の楽しみを味わえる。
もっとも中速以上のコーナーでは、さすがに重さ、特にフロントヘビーな部分が露見して、終始強めのアンダーステアを示すようになる。しかも、ここでアクセルをサッと戻すと、今度はリアが大きく動いて一瞬ドキッとさせられることも。パワーと車重を考えれば、動きはもう少し落ち着いていて一貫性がある方がいい。このあたりはベース車の素性が出てしまうところ。もっとも、それが乗りこなす楽しさに繋がっている部分も否定はできないのだけれど。
「スポーツ」モードは相当にハードで、跳ねるし接地は安定しないしで、公道ではトゥーマッチな印象。上下に盛大に揺すられる乗り心地も含めて、鏡のような路面以外では使い道はなさそうである。
フロントが6ピストンキャリパー+390mm径ローター、リアがシングルピストンキャリパー+356mm径ローターという大径ブレーキは、車重2トンを超えるボディに580psのエンジンという過酷な条件ながら、十分な制動力とコントロール性を確保している。酷使されている(?)試乗車は低速時にややジャダーが出ていたものの、それなりのペースで臨んだワインディングロードでも、不満を感じることはなかった。
(写真=郡大二郎)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2009年3月18日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2008年型
テスト車の走行距離:7032km
タイヤ:(前)275/35ZR20(後)同じ(いずれも、ダンロップ SP SPORT MAXX GT)
オプション装備:ドライブアシストパッケージ=45.0万円/DRCプラス付スポーツサスペンション=18.0万円/5セグメントスポークスタイリングチタンルックアルミホイール=5.0万円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:326.6km
使用燃料:67.32リッター
参考燃費:4.85km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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