シトロエンC4 1.6Tエクスクルーシブ(FF/4AT)【試乗記】
エンジンスワップ完了 2009.03.10 試乗記 シトロエンC4 1.6Tエクスクルーシブ(FF/4AT)……324.0万円
シトロエンC4が、マイナーチェンジで生まれ変わった。合理化の波と共にやってきた新エンジンを、ダブルシェブロンはどう調理したのか? MINIクーパーSとベースが同じエンジンを積む「1.6Tエクスクルーシブ」で試した。
小排気量化の流れはシトロエンにも
「シトロエンC4」にターボが付いた。といってもドカンとパンチを増したのではなく、低速から高回転まで満遍なく底上げし、いかにもC4らしい優雅さと快適さを強調する仕立てになっている。これまでも、この風味を愛するユーザーに評価されてきたところを、さらに念入りに磨き上げるマイナーチェンジだ。
まだまだ少数派のシトロエンだが、だからこそ選びたくなったりもする。全長4.3m級と手頃なサイズで使いやすい5ドアハッチバックだから、ちょっと洒落たライフスタイルと知性の表現として、真剣に検討する値打ち、おおいにあります。
ところでC4は、2009年に向けて日本での車種構成が少し変わった。従来はすべてNA4気筒の1.6、1.6EX 、2.0、2.0エクスクルーシブ、1.6VTR、2.0VTSの6車種だったが、これからは1.6、1.6Tエクスクルーシブ、1.6VTRの3種類に統合される。
1.6はこれまでより10psアップの120ps、新たに加わったターボ(モデル名の“T”がその印)は従来の2.0(143ps)とほとんど同じ140ps。ただしトルクは大幅増強で、2.0が20.8kgm/4000rpmだったのに対し、今度は約18%も太い24.5kgmを1400〜3500rpmという広い回転域でしぼり出す。
クーパーSとはぜんぜん違う
ほかにも、たとえばフロントのエアインテークの形など、いくつか変更が加えられたC4だが、ここでは特にターボについて報告しよう。シトロエンの社内コードで5FT型と名付けられたこのエンジンは、77mmのボアや85.8mmのストロークからもわかる通り、同じPSAグループに属する「プジョー207」と「308」の一部モデルに搭載されているものと共通。
ということは、PSAグループとBMWが共同開発したもので、もちろんMINIにも使われている。同じようにターボを持ちながら207/308シリーズの150〜175psやミニクーパーSの175〜211psより控えめなのは、そのぶん乗用車としての本筋を通したかったから。ビャンビャン踏んで楽しむのではなく、じっくり落ち着いて走るのが目的なのだ。
だったら、わざわざエンジンを変える必要がなかったと思われるかもしれないが、それは違う。やはり設計が新しいぶん少し軽量だし、ガソリン直噴など新世代の技術によって、次に控える排ガス規制にも対応が可能になった。
そしてもうひとつ、PSAグループにおけるプラットフォーム戦略にもからむ合理化ということもあるだろう。まずプジョーが新世代エンジンに進路変更した以上、シトロエンも従わなければならないのは当然だ。それに最近は、BMWの幹部がエリゼー宮(フランス大統領府)を表敬訪問したところをパリの新聞に目撃され、「すわ両グループの合併か!?」などと騒がれていたりする。そんな中で、エンジンなど基幹部品の共同開発と共用が広範囲に及ぶのは、自然の流れなのかもしれない。
大切なのはフィーリング
新しいエンジンを与えられながらも、C4は依然としてシトロエンそのもの。基本的に共通部分の多いプジョー308のような筋肉感ではなく、なんとなく頭脳的に路面をトレースする実感が濃い。とてもシンプルな足まわりだが、ここまで達成できるなら、シトロエンのお家芸である水と空気のハイドラスティックなど必要なさそうにさえ思えてしまう。
切った瞬間スパッと反応するステアリングと、ねっとりしなやかな足の動きにも、不思議とミスマッチ感が伴わない。こういう性格は、低速から“隠しターボ”として全体を底上げするエンジンともよく合う。
ただし、変速機のセッティングがもう一歩だ。ずいぶん昔からシトロエンにもプジョーにも広く使われてきた4段AT(AL4)だが、このAL4君、いたく3速がお気に入りのようで、普通っぽく走っていても、55〜60km/hあたりまでは4速にシフトアップしたがらない。電子制御ゆえ学習機能もあり、ず〜っとデレデレ流すと少しはシフトポイントも下がるのだが、発進停止の多い日本では、そうなるチャンスが少なすぎる。これでは、たくさんカロリーも召し上がることになる。こんな全域ターボとの組み合わせなら、もっとトップギアを多く使わせるべきだ。
そんな不平を言いながらも、乗り慣れるにしたがって、細かなことが気にならなくなるのもC4ならではの感化力。今エンジンがどれぐらい回っているかなども意識せず、ただ快適なカプセルに守られている安楽感が楽しい。だから今回のマイナーチェンジで、ダッシュ中央の透過光式計器盤も少し変わり、タコメーターが右ハンドルのドライバーから最も遠い位置に移ったのも、少しも気にならない。数字などではなく、感覚というか空気で操るべき、高度な精神性を持つクルマだからだ。
(文=熊倉重春/写真=高橋信宏)

熊倉 重春
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。