メルセデス・ベンツSL63AMG(FR/7AT)【試乗記】
忘れるまでに時間がかかる 2009.01.23 試乗記 メルセデス・ベンツSL63AMG(FR/7AT)……2107.0万円
SLシリーズの中でも、ひときわ個性的な外観と超絶のパワーを併せ持つスーパースポーツ「SL63AMG」。 その魅力にはまると、なかなか元には戻れない!?
目に心地よい威圧感
「SL63AMG」に初めて触れた時の衝撃は、今でもはっきり覚えている。2008年6月のマイナーチェンジで凄みを増したSLのボディは、AMGモデルでさらに迫力をアップ。そのフォルムは一発で僕の目に焼き付いた。威圧的だが、ずっと眺めていたいデザイン。そんな風に思ったものだった。
そしてエンジンをかけた瞬間、エグゾーストノートが周囲の空気をビリビリと振動させた。僕の体には鳥肌が立った。
僕は大きな排気音が好きなわけではない。でもSLの排気音には、妙に惹かれるものがあった。詳しくは後述するが、フェラーリやランボルギーニといったスーパーカーに勝るとも劣らないドラマチックな音を奏でるのだ。
走りだした後も高まったテンションがしぼむことはなかった。見た目の迫力に引けを取らない怒濤の加速力を示し、ワインディングではコーナーを軽快にパスするフットワークを見せる。サスペンションには、ダンパーの設定を変化させるスイッチが付いているのだが、この設定を変える車両の挙動は大きく変化する。
ふたつのドライビングプレジャー
サスペンションを「ノーマル」モードにして走ると、ダンパーのストロークがしっかり感じられる。快適性重視のモードゆえ、乗り心地がもっとも良くなるのは言うまでもないが、単純にソフトやマイルドといった言葉では片づけられない奥深い乗り味に仕上がっていることもお伝えしておきたい。
SL63AMGの重量は1990kg。絶対重量は、決して軽いほうではない。コーナリング中の慣性マスはかなりものだろう。まして525psという高出力エンジンを搭載するとあっては、足まわりに相当な負荷がかかるはず。ヤワな足ではとても受け止められないはずだ。かといって、単純にガチッと固めてしまうと、2000万円カーに不釣り合いな乗り心地になってしまっただろう。
その点、SLの足まわりは絶妙だった。ノーマルモードでは、適度にストロークしつつもロールスピードは抑えられており、路面の衝撃をおおらかに包み込む懐の深さが感じられるのだ。それはまるで大海原で大型船に乗っているかのよう。大波が押し寄せてきても、予測したほど船体が揺すられることなく、順調に航海を続けられる。そんなイメージだ。
一方、スポーツモードにすると足がグッと引き締まってステアリング操作に対する応答性がアップし、低重心なスポーツカーならではの一体感が得られる。このように、ふたつのドライビングプレジャーが味わえるのだ。
快音を響かせるドライビングマシン
音良し、足まわり良しのSL63AMGだが、もうひとつ忘れてはならない大きな魅力がある。それは湿式多板クラッチをトルクコンバーターの代わりに採用した、7段自動変速トランスミッションだ。
トルクコンバーターを廃したのは、言うまでもなく変速時のダイレクト感とレスポンスを増すため。それもただガツンと繋げるのではなく、角を細かく削り落とした、精巧な機械を思わせる「やんごとない」マナーを備えている。シフト変速はいたってスムーズだ。
ひとたびアクセルを踏み込めば、その瞬間に古き良き時代のアメリカンV8を思わせるサウンドがとどろき、強烈な加速Gで背中がグッとシートに押しつけられる。ブレーキング時は、シフトダウンのたびに自動的にブリッピングが行われ、フォン、フォーン! という快音が耳に届く。そのあまりの気持ちよさに、ずっとエグゾーストノートを聴いていたい気になる。冷静に考えると排気音を聴いていたいなんて変な話なのだが、とにかくSL63AMGに乗っていると、そういうちょっと変わったテンションになってしまうのだ。
きっとSL63AMGには、我々が日頃、無意識のうちに抑え込んでいる潜在的欲望を呼び覚ます色香があるのだろう。その吸引力の強さはスーパーカーにも引けを取らない。一度その魅力に触れてしまうと、なかなか気持ちを引き離すことができず、忘れるまでに長い時間がかかってしまうのだ。
(文=五味康隆/写真=菊池貴之)

五味 康隆
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。