日産フェアレディZ バージョンST(FR/7AT)/バージョンST(FR/6MT)【試乗速報】
「こんな時期」こそスポーツカー 2009.01.16 試乗記 日産フェアレディZ バージョンST(FR/7AT)/バージョンST(FR/6MT)……492万1350円/467万9850円
冷たい逆風がピューピュー吹く中、新型「フェアレディZ」が登場。それでも6代目の“Z”は、「スポーツカーっていいなぁ……」としみじみ感じせてくれる出来映えだった。
次男はのびのび、日産3兄弟
日産はいまや、日本一のスポーツカー一家だ。1957年の「プリンス・スカイライン」をオリジンに持つ「スカイラインクーペ」が長男、1969年に初代がデビューした「フェアレディZ」が次男で、2007年の「GT-R」が末っ子。この3兄弟の構成は、お宅は亀田家ですかと聞きたくなるぐらい強烈だ。
2008年12月に、「フェアレディZ」がフルモデルチェンジを受けて6代目となった。新型を写真で見た時には、なんだ変わってないじゃんと思ったけれど、試乗会会場で実車を見ると先代とは全然違う。金属を削りだしたかのようなカタマリ感やリアのボリューム感など、新型のほうが明らかに二枚目。インテリアもはっきりと上等になっている。
試乗を終えて感じたのは、次男はのびのびしている、ということ。長男「スカイランクーペ」は北米で「インフィニティG37クーペ」として成功。末っ子「GT-R」も欧米の列強をビビらすパフォーマンスで世界にアピールした。長男がプレミアム、末弟が超ド級を担当してくれることで、次男はスポーツカーに磨きをかけることに専念できた。
つまり3兄弟の役割分担が明確になったことで、6代目となる新型「フェアレディZ」は高級感やラップタイムに縛られることなく、純粋に走る楽しさを追求できた。新型Zの開発キーワードは「すべては走りのために」だったというけれど、確かにファン・トゥ・ドライブを純化しようとする試みはいろいろな部分から伝わってくる。具体的には、まず寸法に表れている。
安定しながらクルッと曲がる、新鮮な感覚
新型「Z」の寸法で特筆すべきは、従来型に比べてホイールベースが100mm短くなっていること。ホイールベースが短くなったといってもなんのことだかわかりにくいけれど、リアタイヤが100mmもドライバーに近づいたと知れば、ことの本質が見えてくる。これがクルマとドライバーが一体化したような、濃密な操縦感覚を生んだ要因のひとつだろう。
クルマに乗せられているのではなく、ドライバーがクルマをねじ伏せている感じでもない。何というか、気の合う相棒と会話を交わしているかのようなコミュニケーション能力こそ、新型Z最大の魅力だ。クルマとドライバーの距離が近い。
一般に、ホイールベースを短くしてクルッと曲がるようにすると、安定性が損なわれる。運動神経抜群で元気な子は、じっと机に向かうのが苦手だ。
試乗会会場でお話をうかがった車両実験部のエンジニアのかたによれば、サスペンションと車体の剛性を上げること、そしてトレッドを従来型より30mm広げることでこの問題をクリアしたという。
実際にさまざまなコーナーで試してみると、敏捷さと安定感が両立しているのがわかる。2速で回る低速コーナーでは小気味よくクルリンと曲がる回頭性のよさにニンマリ。中速コーナーではノーズがスパッと向きを変える応答性にシビれる。高速コーナーでは安定した挙動でスムーズにラインをトレースするから「いいモンに乗ってるなあ」としみじみ感じる。
踏ん張って安定しながらもクルッと曲がる新型Zの感覚は、何かに似ていると思った。よ〜く思い出してみると、それは「トヨタiQ」だった。もしかしたら、このコーナリングの感覚がこれからのトレンドなのかもしれない。
トレンドといえば、試乗したのはAT/MTモデルともに19インチを履くバージョンSTだったけれど、最近のスポーツカーの例に漏れず乗り心地は良好。ゴツゴツした荒っぽさはない。前出のエンジニア氏によれば、Zの主戦場たるアメリカのフリーウェイで頻繁に出くわす凸凹対策を入念に施したところ、乗り心地が飛躍的によくなったとのこと。
シンクロレブコントロールは習字の手本
バージョンSTとバーションSの6MT仕様には、シンクロレブコントロールという機構が備わる。これはシフトダウン時に自動的にエンジン回転数を合わせてくれる仕組み。ヒール&トゥやダブルクラッチといったテクニックを使わなくても、スムーズかつ電光石火のシフトダウンが可能になるというのがウリだ。
たとえば3速でコーナーに進入、ブレーキングしながらシフトレバーを3速から2速にシフトする。間髪入れずにエンジンが勝手に「ウォン!」と吹け上がる。そしてエンジンの回転数がドンピシャで合って、シフトダウン完了。一連の動きは実に見事で、人の手と足でこれより上手にシフトダウンするのは不可能だと思えるほど。
「失敗することもあるけれど上手くいった時の喜びがマニュアルトランスミッションの醍醐味」という意見もあって、それはまったくその通り。だからZのシンクロレブコントロールは解除もできる。で、このシンクロレブコントロール、習字の手本みたいなもんだと思いました。
まずシンクロレブコントロールONでシフトダウン。上手い、素晴らしい。それを手本に、今度はスイッチをOFFにして自力でチャレンジ。すると、うまくできたり、できなかったり。この新しい“マニュアルトランスミッション遊び”は、いつまでも飽きない。
実は7段ATも、トルコン式ATとは思えないダイレクト感があり、変速もスムーズ。シフトダウン時にブリッピングしてきっちり回転数を合わせるあたりもなかなかやるなという印象。けれど、短時間の試乗では6MTのインパクトで影が薄かった。すみません。1月12日現在の受注状況ではATが67%、MTが33%ということだけれど、個人的にはMTにグッときた。
EVとスポーツカー、両方が必要
新型Zは、「スポーツカーに乗ろうと思う」なんて1989年のZ32型フェアレディZの宣伝コピーを思い出すような感じのいいスポーツカーだった。その中で、ひとつだけ残念なのがエンジン。
パワーは文句ナシだし、高回転域までガッチリ回る。でも、音がややガサツで、回転フィールも目が粗い。特にスポーツカーのエンジンのフィーリングなんて好みの問題だから、「この豪快なフィーリングがいいんだ!」という意見もあるでしょう。でも、いかにもきっちり煮詰められた印象のハンドリングや乗り心地、トランスミッションなどと並べると、エンジンには隙がある。
技術説明会の席で、新型Zの開発をとりまとめた湯川伸次郎チーフ・プロダクト・スペシャリストは、「新型Zの発表会で、新聞記者の方に“こんな時期になんでこんなクルマを発表するのですか?”と聞かれちゃいまして……」とコボした。
「こんな時期」とは、ひとつに不況を指すのでしょう。でも、この中身で362万2500円から買える新型Zは、はっきりとお値打ちだ。こんな時期だからこそ、乗る人に活力を与えてくれる、ワクワクする乗り物が必要だという考え方もアリだと思う。
「こんな時期」のもうひとつは、環境問題を考えるべき時期にスポーツカーなんて出しやがって、という意味だろう。スポーツカーなんか作らずに、カルロス・ゴーンが2010年に販売するとアナウンスしたEV(電気自動車)の開発に全勢力を傾けろということなのか。
でも、EVにも「思うように動かせる楽しさ」とか「走ってドキドキする感じ」が欲しいじゃないですか。もしEVがつまんない乗り物だったら、電車や自転車に乗ってもいい。だから自動車メーカーにはEVとスポーツカーの両方を追求してほしいし、すべきだと思う。「こんな時期」にファン・トゥ・ドライブをないがしろにする自動車メーカーは、EVが一般化した時に「無味乾燥なクルマを作るメーカー」に落ちぶれるかもしれない。
だから自分みたいな好きモンとしては、逆風ビュンビュン吹く「こんな時期」に、後ろ指さされながらもスポーツカーを出してくれたことに感謝したい。そして将来、走って楽しいEVが完成した暁には、「V6エンジンの荒っぽさ」なんてことも書かれなくなる。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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