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日産フェアレディZ NISMO(FR/9AT)

近くて遠いアイドル 2023.12.12 試乗記 高平 高輝 「日産フェアレディZ」にハイパフォーマンスバージョン「NISMO」が登場。スタイリングのよさでファンの気持ちをがっちりつかんだ現行型Zだが、モータースポーツ直系のNISMOの手によって走りの印象はどう変わったのか。箱根の山中で試してみた。
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買えるの? 買えないの?

試乗中に追走してくるクルマが多いように感じたのは久しぶり。単なる気のせいか、あるいは実際に注目度が高かったのかは定かではないが、何だかその視線が熱いだけではなく、ちょっと痛く感じたのは、現行フェアレディZのデリバリーが進んでいないことと無関係ではなさそうだ。2023年の8月、2024年モデルのフェアレディZとともに発表されたZ NISMOだが、その時点でも現在でも、そもそもスタンダードシリーズのZが受注停止中なのである。標準型の生産がまったく追い付いていないのに、高性能版NISMOを発表して大丈夫なの? と思うのは当然であり、実際に販売現場ではいろいろと混乱があると耳にする。

試乗途中で会った日産ファンの知り合いからは開口一番、「なんだ、もう売ってるの? これ買えるの?」とややとげを含んだ言葉を投げかけられた。それが自然な反応だろう。私自身も試乗車の用意ができたと聞いて、「え? もう乗れるの? だってZは今も……」と驚いたほどである。だいたい、最近ではコロナ禍におけるサプライチェーンの機能不全などを理由に生産遅延を口にしているメーカーはない。今後の見通しも不明なままで、「お答えは控えさせていただきます」では、あの大将のような日産ファンもさすがに離れていってしまうのではと心配になる。

2024年モデルで追加設定された「フェアレディZ NISMO」。当面は既存のフェアレディZの納車待ち中で、NISMOへの振り替えを希望するカスタマーに対してのみの販売となる。2023年度の国内向けの生産台数は約200台。
2024年モデルで追加設定された「フェアレディZ NISMO」。当面は既存のフェアレディZの納車待ち中で、NISMOへの振り替えを希望するカスタマーに対してのみの販売となる。2023年度の国内向けの生産台数は約200台。拡大
リアのバンパーやスポイラーなどは「NISMO」専用設計。ナンバープレート下部には他のNISMOロードカーとおそろいのバックランプも装備する。
リアのバンパーやスポイラーなどは「NISMO」専用設計。ナンバープレート下部には他のNISMOロードカーとおそろいのバックランプも装備する。拡大
ハニカムパターンのグリルや両サイドにエアガイドスロープを備えたバンパーなど、フロントまわりも専用デザイン。これらによってスタンダードモデルよりも全長が40mm拡大している。
ハニカムパターンのグリルや両サイドにエアガイドスロープを備えたバンパーなど、フロントまわりも専用デザイン。これらによってスタンダードモデルよりも全長が40mm拡大している。拡大
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920万円の特別なZ

注文はできたけど納車がいつになるか分からない人や、注文さえ受け付けてもらえなかった人からの熱く痛い視線に耐えながらとにかく走りだそう。Z NISMOはNISMOが内外装のみならず、足まわりやエンジンにまで手を加えた特別仕立てのZである。逆スラントのノーズデザインやリアスポイラーなどは空力や冷却性能向上を狙った専用品であり、そのため全長は標準型に比べて40mm長く、全幅も25mm広げられている。レカロ製スポーツシートやレイズ製の19インチ鍛造アルミホイールも専用だ。車両価格は920万0400円で、標準型のおよそ540万円~670万円よりはだいぶ高いが、「GT-R NISMO」ほどではない。「スカイラインNISMO」(こちらは1000台限定)と同レベルのチューン内容と考えればいいだろう。

搭載されるエンジンは「スカイライン400R」譲りのVR30DDTT型3リッターV6ツインターボ、トランスミッションは9段ATのみである。V6ツインターボエンジンはブーストアップやGT-R同様の気筒別点火時期制御などのNISMO専用チューニングが加えられ、420PS/6400rpmと520N・m/2000-5200rpmを生み出す。スタンダードのZ用は405PS/6400rpmと475N・m/1600-5600rpm、スカイラインNISMOは420PSと550N・mだから、パワーアップしているだけでなく、モデル別に細かくセッティングを変えていることがうかがえる。

フロントに積まれるVR30DDTT型3リッターV6ツインターボエンジンは最高出力420PS、最大トルク520N・mを発生。上まで軽々と回る爽快なユニットだ。
フロントに積まれるVR30DDTT型3リッターV6ツインターボエンジンは最高出力420PS、最大トルク520N・mを発生。上まで軽々と回る爽快なユニットだ。拡大
タイヤはフロントが255/40R19でリアが285/35R19。リアのみスタンダードモデルよりも10mm太い。
タイヤはフロントが255/40R19でリアが285/35R19。リアのみスタンダードモデルよりも10mm太い。拡大
制動力もコントロール性も高いブレーキシステムは「NISMO」専用。キャリパーにロゴが書いてあるとつい「ブレン……」と読んでしまうが、実際には「akebono」だ。
制動力もコントロール性も高いブレーキシステムは「NISMO」専用。キャリパーにロゴが書いてあるとつい「ブレン……」と読んでしまうが、実際には「akebono」だ。拡大

懐かしい雰囲気

400PSと500N・mを超えるスペックだから、強力なエンジンであることは間違いないが、このVR30DDTT型は以前から滑らかで鋭いレスポンスに定評があり、実際疾風怒濤(どとう)のパワフルさというよりも洗練された爽快な吹け上がりが特徴的で、それはこのNISMO仕様でも違いはない。スタンダードユニットに比べて特段パワーアップしたという感じはないが、それはもともと現行“Z34改”型Zがたけだけしい絶対性能を追求したモデルではなく、このNISMOもその延長線上にあるからだろう。低回転でも十分以上のたくましさが手に入るものの、できれば気持ちよく回して使いたいエンジンである。

9段ATも変速レスポンスと耐久性を向上させたというが、たとえ「スポーツ+」モードを選んでも(NISMOではドライブモードが3種類に増えた)、それほどガツガツ激しくシフトするようなことない。パドルシフトによる変速時も同様、この辺はモードによってもう少しアグレッシブな設定にしてもいいかもしれない。ちなみに従来どおり、トップ9速には100km/hクルーズでは入らないハイギアリングである。

専用スポーツシートはホールド性が高く、何だかやる気満々だが、デジタルメーターやシフトセレクターは最近の日産車同様のモダンなもの。いっぽう手動式のサイドブレーキをはじめ(すっかり忘れていて解除ボタンを探してしまった)、昔ながらのパーツもあちらこちらに散見されるのはやはりちぐはぐさが残るが、古臭いというかクラシックな雰囲気はこのクルマのユーザーにはかえって歓迎されるかもしれない。

リアアクスルにはメカニカルLSDを標準装備。足まわりも専用にセットアップされている。
リアアクスルにはメカニカルLSDを標準装備。足まわりも専用にセットアップされている。拡大
ドアハンドルなど古めかしさを感じる部分もあるが、最新の日産車と同じ液晶メーターやインフォテインメントシステムを搭載し、実用上で困ることはない。レッドのセンターマーク入りステアリングホイールは「NISMO」専用だ。
ドアハンドルなど古めかしさを感じる部分もあるが、最新の日産車と同じ液晶メーターやインフォテインメントシステムを搭載し、実用上で困ることはない。レッドのセンターマーク入りステアリングホイールは「NISMO」専用だ。拡大
レカロのシートはアルカンターラとレザーの組み合わせ。着座位置がやや高いため、運転席側のヘッドレストの先端が写っていない。
レカロのシートはアルカンターラとレザーの組み合わせ。着座位置がやや高いため、運転席側のヘッドレストの先端が写っていない。拡大
変速機は9段のトルコン式ATで「NISMO」にはマニュアル車の設定がない。ローンチコントロール機能も付いている。
変速機は9段のトルコン式ATで「NISMO」にはマニュアル車の設定がない。ローンチコントロール機能も付いている。拡大

どちらでもいいけど、どちらも……

洗練されたGTの雰囲気が色濃いZながら、山道も当然苦手ではない。電子制御ダンパーやリアステアリングなどの飛び道具はないものの、正確なステアリングとがっしり粘る後輪のトラクション、さらに荒れた路面でも音を上げない頑丈な足まわりは(スタンダードより頼もしく感じた)、正統派の後輪駆動クーペらしい自然で安定感あるハンドリングに貢献している。

Z NISMOには新たにトラクションモードが備わったというが、これはスタビリティーコントロールのVDCのスポーティーな中間モードらしく(標準型はON/OFFのみ)、効果を感じられなかった。そもそも公道での試乗ではLSDを備えるリアをブレークさせるほどのレベルを試せなかった。NISMOと聞いてとにかくピリピリと刺激的なコーナリングを求める向きには物足りないかもしれないが、Zのキャラクターはそもそもそういうものではない。

となるとNISMOならではの特徴は何か、という話になるが、私はスタンダードでも十分楽しめると思う。何よりどちらも現状手に入らないので、どちらかを気楽に薦めるわけにもいかない。首を長くして待ち続けている皆さんのために、一刻も早くデリバリーが正常化することを願うのみである。

(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

液晶メーターのサイズは12.3インチ。「スポーツ」「スポーツ+」モードにすると右側が油温計(エンジン、トランスミッション、デフ)と水温計の固定表示になる。
液晶メーターのサイズは12.3インチ。「スポーツ」「スポーツ+」モードにすると右側が油温計(エンジン、トランスミッション、デフ)と水温計の固定表示になる。拡大
ダッシュボード上部には電圧、タービン回転数、ブースト圧を示す3連メーターを搭載する。
ダッシュボード上部には電圧、タービン回転数、ブースト圧を示す3連メーターを搭載する。拡大
2024年モデルの「フェアレディZ」は全車が「Amazon Alexa」を搭載。こう見えてつながるクルマである。
2024年モデルの「フェアレディZ」は全車が「Amazon Alexa」を搭載。こう見えてつながるクルマである。拡大
ホイールハウスなどの張り出しはあるが、GTカーらしいラゲッジスペースが備わっている。こまごまとしたものはシート背面のボックスにも入る。
ホイールハウスなどの張り出しはあるが、GTカーらしいラゲッジスペースが備わっている。こまごまとしたものはシート背面のボックスにも入る。拡大

テスト車のデータ

日産フェアレディZ NISMO

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4410×1870×1315mm
ホイールベース:2550mm
車重:1680kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:420PS(309kW)/6400rpm
最大トルク:520N・m(53.0kgf・m)/2000-5200rpm
タイヤ:(前)255/40R19 100Y/(後)285/35R19 103Y(ダンロップSP SPORT MAXX GT600)
燃費:9.2km/リッター(WLTCモード)
価格:920万0400円/テスト車=944万5097円
オプション装備:ボディーカラー<プリズムホワイト/スーパーブラック ツートン>(8万2500円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア DH5-S>(10万0542円)/ウィンドウはっ水 12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面はっ水処理>(1万3255円)/NISMOフロアマット(4万8400円)

テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2339km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:468.4km
使用燃料:49.9リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.4km/リッター(満タン法)/9.3km/リッター(車載燃費計計測値)

日産フェアレディZ NISMO
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