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日産フェアレディZバージョンST(FR/9AT)

長く付き合える相棒 2022.10.11 試乗記 下野 康史 日産伝統のスポーツカー「フェアレディZ」が、およそ13年半ぶりにモデルチェンジ。従来型より多くのものを受け継いだ新型は、どこが進化し、どのような美点を継承したのか。実車に触れて感じた、「速すぎない、新しすぎない」スポーツカーの魅力を報告する。
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新しいのか? 古いのか?

新型Zの計器盤はデジタルに変わった。エンジンをかけなければ、何も出ていないブラックパネルである。エンジン始動/停止はプッシュボタンだ。ATセレクターは変速レバーもレンジのアドレスも持たない。ごく小さなストロークでスライドする電子スイッチである。おそらく「日産アリア」のドライブセレクターと基本は同じ部品と思われる。

その一方、センターコンソールの左脇に屹立(きつりつ)するのは、ギリギリっとやる昔ながらの機械式サイドブレーキである。試乗車は最上級モデルの「バージョンST」。しかしシートの電動スイッチが見当たらない。右ももの下にはダイヤル式の座面調整がある。エッ、まさか手動!? と、シート下に手を突っ込んだら、何かの電線に手が触れた。

シートスライドとリクラインの電動スイッチはシート座面の左側に発見された。調べたらこれは先代「Z34」型以来だった。リング状のドアレバーも同じだ。内装の基本レイアウトも変わっていない。

「マツダ・ロードスター」でも「ポルシェ911」でも、歴代モデルを特定するのに、通の人は「NA」とか「NB」とか、「992」とか「964」とか、それぞれの型式名で呼ぶ。新型Zのそれは「Z35」ではなく、「RZ34」。アタマの“R”は“リファイン”の略だという。つまりZ34“改”。プラットホーム(車台)をキャリーオーバーするビッグマイナーチェンジ案件としてそもそも開発されたのが今度のZである。

とはいえ、13年半ぶりのモデルチェンジだから、外形デザインとパワートレインは新調されている。果たして新しいのか古いのか、ちょっとワケありの新型Zに乗ってみた。

7代目となる新型「日産フェアレディZ」。当初は2022年6月の発売予定だったが、サプライチェーンの混乱により延期に。このほどようやく発売にこぎ着けたが、今度は注文が殺到し、今(2022年10月)は受注を停止している。
7代目となる新型「日産フェアレディZ」。当初は2022年6月の発売予定だったが、サプライチェーンの混乱により延期に。このほどようやく発売にこぎ着けたが、今度は注文が殺到し、今(2022年10月)は受注を停止している。拡大
フル液晶のディスプレイに3連の機械式メーター、バイ・ワイヤのシフトセレクターに手引きのパーキングブレーキ……と、操作系にはデジタルとアナログが混在している。
フル液晶のディスプレイに3連の機械式メーター、バイ・ワイヤのシフトセレクターに手引きのパーキングブレーキ……と、操作系にはデジタルとアナログが混在している。拡大
「バージョンT/ST」に装備される、本革とスエード調ファブリックのコンビシート。電動調整機構のコントローラーは、シートの内側(センターコンソール側)に配置されている。
「バージョンT/ST」に装備される、本革とスエード調ファブリックのコンビシート。電動調整機構のコントローラーは、シートの内側(センターコンソール側)に配置されている。拡大
1969年からの歴史を誇る「日産フェアレディZ」。前身の「フェアレデー」の時代も含めると、その起源は1960年にまでさかのぼる。世界的に見ても長い歴史を持つスポーツカーなのだ。
1969年からの歴史を誇る「日産フェアレディZ」。前身の「フェアレデー」の時代も含めると、その起源は1960年にまでさかのぼる。世界的に見ても長い歴史を持つスポーツカーなのだ。拡大
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街なかでも感じられる快適さと軽快感

webCGの駐車場で試乗車を引き取り、ゆるい上り坂の大通りでひと加速する。最近では1.5リッターターボとCVTのシビックがゾクゾクっとするほど気持ちよかった(参照)。あれほどではなかったが、9段ATのZもファーストタッチから好感の持てるクルマである。

乗り心地がいい。想像していたより足まわりがかろやかだ。バージョンSTはフロントに255/40、リアに275/35の19インチホイールを履くが、バネ下の動きにドテッとしたところがない。ステアリングも重くない。1620㎏の車重は先代より大人ひとり分重くなったが、身のこなしはむしろシェイプした感じだ。シャシーのリファインだけでなく、新しい3リッターV6ツインターボの高トルクとレスポンスのよさが自然吸気3.7リッターV6の先代をしのぐ軽快感に効いていると思う。

エンジンは「スカイライン400R」初出のVR30DDTT。初めて400Rで味わった時には、BMWの6気筒をスポーツ性でも官能性でもしのぐ! と思った。Z搭載にあたっては、よりレスポンシブな方向にリファインが施されているというが、405PSの最高出力や475N・mの最大トルクは変わらない。とはいえ、車重は400Rより140㎏軽い。

騒音規制で新しいクルマほど静かになるが、実際、エンジン音は車内でも車外でも400Rより控えめに感じた。左右2本出しテールパイプからはいかにもイイ音がしそうだが、コールドスタートでもほえたりはしない。

新型は、先代から車両の基本設計を受け継ぎつつ、フロントのボディーまわりとリアクロスメンバーを重点的に強化し、十分なねじり剛性を確保。直進性を高めるべく、フロントにはハイキャスターのサスペンションを採用している。
新型は、先代から車両の基本設計を受け継ぎつつ、フロントのボディーまわりとリアクロスメンバーを重点的に強化し、十分なねじり剛性を確保。直進性を高めるべく、フロントにはハイキャスターのサスペンションを採用している。拡大
タイヤサイズは、ベースグレードと「バージョンT」は245/45R18だが、「バージョンS/ST」では前:255/40R19、後ろ:275/35R19の前後異径となる。試乗車には「ブリヂストン・ポテンザS007」が装着されていた。
タイヤサイズは、ベースグレードと「バージョンT」は245/45R18だが、「バージョンS/ST」では前:255/40R19、後ろ:275/35R19の前後異径となる。試乗車には「ブリヂストン・ポテンザS007」が装着されていた。拡大
エンジンは最高出力405PS、最大トルク475N・mを発生する3リッターV6ツインターボ。先代の3.7リッターV6(336PS、365N・m)より大幅なパフォーマンスアップを実現している。
エンジンは最高出力405PS、最大トルク475N・mを発生する3リッターV6ツインターボ。先代の3.7リッターV6(336PS、365N・m)より大幅なパフォーマンスアップを実現している。拡大
エキゾーストサウンドは最新の騒音規制に対応した控えめなもの。代わりに音響機器には、車内の静粛性を高めつつエンジン音を引き立てる「アクティブ・ノイズ・コントロール/アクティブ・サウンド・コントロール」機能が備わっている。
エキゾーストサウンドは最新の騒音規制に対応した控えめなもの。代わりに音響機器には、車内の静粛性を高めつつエンジン音を引き立てる「アクティブ・ノイズ・コントロール/アクティブ・サウンド・コントロール」機能が備わっている。拡大

パワフルなだけの退屈なクルマではない

パワートレインでのZ初出はジヤトコ製の9段ATである。先代の7段からさらに多段化が進んだ。

高速道路の100km/h巡航だと、Dレンジでは8速までしか上がらない。MTモードに入れて9速トップに上げると100km/h時は1400rpm。パドルでシフトダウンしてゆけば1700、2000、2300、2800、3900と細かく回転を上げ、3速5400rpmまで落とせる。Dレンジのまま軽いスロットルペダルを床まで踏み込むと4速に落ちる。

MTモードは基本的にギア固定で、自動シフトアップもキックダウンも起きない。レブリミットの7000rpmに至っても、右パドルを引かなければシフトアップしない。そういうところは蛮カラな設計だ。

400PSオーバーだから、加速は言うまでもなく強力だ。パワー・トゥ・ウェイト・レシオを考えれば、文句なしにZ史上最速だろう。だが、普段使いで見せる表情は決して「踏め! 踏め!」タイプではない。むしろ落ち着いている。

ATモデルはこのSTにのみ機械式LSDが標準装備される。もちろんシャシーの限界は高いが、“高いの一語に尽きる”と言いたくなるような退屈なキャラクターではない。峠道でペースを上げると、ボディーを小さく感じるタイプのクルマである。後輪がすぐ後ろにあって、そのトラクションを実感できるのがうれしい。べつにまなじりをつり上げて飛ばさなくたってFRのダイナミズムが味わえる。

サスペンションには路面との接地性を向上させる高応答モノチューブダンパーを採用。一部の仕様のドライブトレインには、コーナリング時のトラクションを高める機械式LSDも装備される。
サスペンションには路面との接地性を向上させる高応答モノチューブダンパーを採用。一部の仕様のドライブトレインには、コーナリング時のトラクションを高める機械式LSDも装備される。拡大
12.3インチの液晶メーターには、標準的な2眼デザインの「ノーマル」、ナビやオーディオなどの情報を大きく表示する「エンハンス」、センターにタコメーターを配置する「スポーツ」(写真)の、3種類の表示レイアウトが用意される。
12.3インチの液晶メーターには、標準的な2眼デザインの「ノーマル」、ナビやオーディオなどの情報を大きく表示する「エンハンス」、センターにタコメーターを配置する「スポーツ」(写真)の、3種類の表示レイアウトが用意される。拡大
センターコンソールに配された、9段ATのシフトセレクター。その右前にはスタートスイッチが、左前には走行モードの切り替えスイッチが備わる。
センターコンソールに配された、9段ATのシフトセレクター。その右前にはスタートスイッチが、左前には走行モードの切り替えスイッチが備わる。拡大
ボディーカラーは全9種類。試乗車に採用されていた「セイランブルー」は新色で、ルーフを「スーパーブラック」で塗り分けたツートンカラー仕様で用意される。
ボディーカラーは全9種類。試乗車に採用されていた「セイランブルー」は新色で、ルーフを「スーパーブラック」で塗り分けたツートンカラー仕様で用意される。拡大

“速すぎない”“新しすぎない”という魅力

注文殺到で受注停止という状況のなか、広報車貸し出し解禁直後のタイトな日程での短い公道試乗だったが、新型Zはなんというか、読後感ならぬ“乗車後感”のいいクルマだった。

「400馬力!」と気負って乗ったら、この405PSは実によく調教されていて、むしろ大人のスポーツカーという感じがした。これならふだんのアシとしても、デートカーとしても無理なく使える。それでいながら、スポーツカーとしてのフィジカルは先代よりプレーンで“素な感じ”がした。

車高の低いスポーツカーが数売れる時代はとっくに終わった。しかも最近は増殖するSUVに押し込まれるばかりだ。投資リスクを下げるため、トヨタは新型「スープラ」をBMWとの共同開発でつくった。日産は単独開発にこだわったが、型式認定を取り直さない先代“改”というかたちで2008年末以来のモデルチェンジを敢行した。

ドライブモードはスタンダードとスポーツのふたつだけで、スポーツモードにしたからといって、液晶計器盤の色やデザインが変わったりもしない。足まわりにアダプティブなんとか的な電子制御は入っていない。予算が許せば開発者はもっといろいろやりたかったに違いないが、結果として盛りすぎず、新しすぎなかったところが新型Zの魅力だと思う。速いけど、ちょっと遅れたところがイイ。相棒として長く乗れそうなZである。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)

初代「S30」のそれを想起させるヘッドランプや、スクエアなフロントグリル、ボンネットのY字のプレスラインなど、新型「フェアレディZ」には、各所に歴代モデルをオマージュした意匠が取り入れられている。
初代「S30」のそれを想起させるヘッドランプや、スクエアなフロントグリル、ボンネットのY字のプレスラインなど、新型「フェアレディZ」には、各所に歴代モデルをオマージュした意匠が取り入れられている。拡大
運転支援システムは意外とコンベンショナルで、アダプティブクルーズコントロールはあるが操舵支援式のレーンキープアシストはない。もちろん「アリア」などに見られるハンズフリー運転支援機能なども用意されない。
運転支援システムは意外とコンベンショナルで、アダプティブクルーズコントロールはあるが操舵支援式のレーンキープアシストはない。もちろん「アリア」などに見られるハンズフリー運転支援機能なども用意されない。拡大
トランクルームは広さはそこそこあるものの、ホイールアーチやリアサスペンションの張り出しが目立つ。大きい荷物を積むには、相応な工夫が必要だろう。
トランクルームは広さはそこそこあるものの、ホイールアーチやリアサスペンションの張り出しが目立つ。大きい荷物を積むには、相応な工夫が必要だろう。拡大
リスク回避のための協業がはやる昨今にあって、日産が自前のクルマづくりにこだわって送り出した新型「フェアレディZ」。“新しさ”で訴求するクルマではなかったが、だからこそ飽きずに長く付き合える気がした。
リスク回避のための協業がはやる昨今にあって、日産が自前のクルマづくりにこだわって送り出した新型「フェアレディZ」。“新しさ”で訴求するクルマではなかったが、だからこそ飽きずに長く付き合える気がした。拡大
日産フェアレディZバージョンST
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テスト車のデータ

日産フェアレディZバージョンST

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4380×1845×1315mm
ホイールベース:2550mm
車重:1620kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:405PS(298kW)/6400rpm
最大トルク:475N・m(48.4kgf・m)/1600-5600rpm
タイヤ:(前)255/40R19 96W/(後)275/35R19 96W(ブリヂストン・ポテンザS007)
燃費:10.2km/リッター(WLTCモード)
価格:648万2500円/テスト車=678万5035円
オプション装備:ボディーカラー<セイランブルー/スーパーブラック 2トーン>(17万6000円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア DH5-S>(8万4800円)/ウィンドウはっ水 12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面はっ水処理>(1万1935円)/フロアカーペット<ラグジュアリー、消臭機能付き>(4万9800円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:3043km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:409.9km
使用燃料:46.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.8km/リッター(満タン法)/9.3km/リッター(車載燃費計計測値)

 
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日産フェアレディZバージョンST(FR/6MT)/フェアレディZ(FR/9AT)【試乗記】

下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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