スズキ・アルトラパンX(FF/CVT)/T TLパッケージ(FF/CVT)【試乗速報】
カワイイに全力 2008.12.25 試乗記 スズキ・アルトラパンX(FF/CVT)/T TLパッケージ(FF/CVT)……126万4200円/142万5900円
うさぎをモチーフにしたエンブレムでおなじみの「アルトラパン」が2代目へとフルモデルチェンジ。さらにキャラ濃く個性を強めたニューモデルに試乗した。
ラパンを探せ!
新型「スズキ・アルトラパン」を最初に写真で見たとき、マイナーチェンジかと思った。あまりにも先代と似ていたからだ。でも実車と対面すると、なんとなく違う。キャビンが長くなって、おとなのウサギに成長したような感じだ。
プラットフォームの一新でホイールベースが40mm伸びたことを活かし、先代では不満のひとつだったリアシートの狭さを解消したという。それなら後半部だけ新設計にすればコストを節約できた気もするが、新設計プラットフォームと従来のパネルを接合するほうが面倒なので、オールニューにしたそうだ。
でもモデルチェンジの目的はもうひとつあるのではないか? と実車を見ながら思った。とにかくウサギだらけなのだ。フロントグリル中央は当然ながら、前後のランプの中や、リアのレタリングの下のバーにも隠れている。気がつくと「ラパンを探せ!」モードに入っていた。
さらに色へのこだわりも忘れていない。10色あるボディカラーは2色が新しく、インテリアカラーは3色も用意される。ホワイトルーフのツートーンボディももちろん健在。これを選ぶとホイールも白になる。でもここまでやるなら、グリルもホワイトにすると、さらにカワイさがアップするんじゃないだろうか。あと、ツートーンのボディカラーに淡色系しか選べないのももったいない気がする。濃色系ボディでも選べると、男子としてはうれしいかもしれない。
こだわりのインテリア
キャビンは、後席が広くなった。身長170cmの自分が前後に座ると、ひざの前には15cmぐらいの空間が残る。しかも前席ともどもフッカリしていて、傾斜や形状も適切。心地いい。背もたれを前に倒すだけのシンプルなアレンジとしたことも、着座感のよさに効いているかもしれない。もっとも、後席が広くなった代わりに、荷室の奥行きは狭くなっている。
フラットなパネルとシングルメーターを組み合わせたインパネは先代譲り。でもオーディオ周辺にアクセントカラーを入れたり、グローブボックスをルーバーごと開くようにしたり、つくりはさらに凝っている。目線を横にやると、アクセントカラーで彩られた細長いパネルの中に、またもウサギが。でもこれはエンブレムではなく、なんとフォトフレームだった。
エンジンは自然吸気、ターボともに先代からのキャリーオーバー。4段ATに加えてCVTも選べるようになったトランスミッションは、シフトレバーがコラムレバーからインパネシフトに変わって操作しやすくなり、なにより見た目がスマートになった。
走りより大切なこと
自然吸気の2WDで約800kgという車重は先代とほぼ同じ。サウンドは軽そのものだが、「ワゴンR」より50kg軽いので、加速に不満はない。ターボは先代に比べるとおだやかに過給を立ち上げるようになったので、リラックスして高性能を堪能できるけれど、この日のように平地の一般道中心のドライブなら、ターボはいらないと思った。
先代は2世代前のワゴンRと同じプラットフォームを使っていたので、デビュー2年目にそのワゴンRが3代目へと進化すると、早くも乗り心地に荒さを感じるようになったものだった。その点、現行ワゴンRと同じ新世代プラットフォームを使い、ホイール/タイヤを13インチから14インチに格上げした新型は、しなやかさがアップした。ボディ剛性も高まっている印象で、石畳のような道でもショックをうまくいなしてくれる。
ちなみに自然吸気とターボで、チューニングは同じ。ターボの性能に合わせた足を全車に適用したそうだ。ゆえに自然吸気でも、ウサギのようにホンワカした乗り心地というわけではないが、それに目クジラを立てて、エンジンに合わせた専用の足回りを用意すべし! なんていう主張はしたくない。
ラパンにとって大切なのはそれよりも、ボディのあちこちにちりばめたウサギであり、3つのカラーが選べるインテリアであり、ベースモデルでは約100万円という低価格にあるのだから。加速やハンドリングを重視する従来型のジャーナリズムを、このクルマに適用してはいけない。自動車の評価軸が急速に変わりつつあることを、あらためて教えられたモデルでもあった。
(文=森口将之/写真=荒川正幸)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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