ポルシェ・ケイマンS(MR/7AT)【海外試乗記】
進化の度合いは911以上 2008.12.15 試乗記 ポルシェ・ケイマンS(MR/7AT)ポルシェのミドシップスポーツ「ケイマン」シリーズがマイナーチェンジされた。「911」シリーズと同様、新エンジン搭載とPDKの採用をしたことで、どのような変化をもたらしたのか?
新エンジンの秘密
ポルシェの動きが急だ。「911」シリーズが新型へ移行したかと思ったら、今度は「ケイマン」そして「ボクスター」がフェイスリフトを行った。目玉は911シリーズと同様、新エンジンの搭載と、デュアルクラッチトランスミッション「PDK」の採用である。今回、スペイン・ヘレス近郊でステアリングホイールを握るチャンスに恵まれたのは、そのうちの新しいケイマンSだ。
精悍さを増したエクステリアのモチーフは、眼光鋭いヘッドライトに象徴されるように、同じミドエンジン・スポーツであるカレラGTだったようである。その他の変更点は、前後レンズ類や前後バンパーなど、まさにフェイスリフトの定番メニュー。新型911同様、LEDも効果的に用いられている。デビュー3年で、意匠をこんなに変えなくてもいいのにとは思うが、特にバンパーまわりのデザインなど、ボクスターとの違いがこれまで以上に明確になったことは悪くない。
新しいエンジンは911シリーズに先に採用された完全新設計のブロックを用いたもの。ケイマンSは排気量を従来同様の3.4リッターとしたまま新たに直噴化され、ケイマンはポート噴射のまま排気量が2.7から2.9リッターに拡大された。一方は排気量を変えずに直噴化、もう一方は直噴化せずに排気量アップって一体どうして? と思うところだが、カギはこの2つのエンジンともストロークが77.5mmで一緒という点。つまり「ケイマン」に関しては、排気量を2.7リッターに留めるためにクランクを別設計して直噴化するより、「ケイマンS」とクランクを共用し、排気量拡大分の余裕をエミッションと燃費にまわすほうが、コストが抑えられるということなのだろう。ポルシェ側は絶対に「コスト」という言葉を使わないが、おそらく理由はそんなところだ。
サウンドを楽しめる
結果として、いずれのエンジンも出力は現行モデルを上まわり、特にケイマンSは最高出力325psとついに300psの大台を突破。しかも同時にEU5エミッションをクリアし、燃費向上をも果たしている。排気量が大きくなったと聞くと時代に逆行しているようにも思えるが、実際は結果オーライというわけだ。
今回用意されていた試乗車は、ケイマンSの7段PDKのみ。オプション装備の違いなど、いくつかの仕様に乗ることができたが、総じて言えるのは、室内の音環境が抜群に良くなったということだ。室内でこもる感じがなくなり、スカッと抜けた気持ちよい音が響くようになったのだ。新開発の吸気系の効果も大きいようだが、エンジン搭載位置が乗員に近いせいもあるのだろう、やや淡白に感じた911カレラより断然スポーツカーらしいサウンドを楽しめる。吹け上がり自体も、領分を守って最高出力を300ps以下に抑えるためか無理矢理高回転域のパワーを抑え込んでいた感のある現行モデルより、回すほどに伸びる爽快な感覚が強まった。
PDKについては911と基本的に変わらない。Dレンジのマナーの良さは同種のデュアルクラッチトランスミッションの中ではベスト。一方、独創的過ぎて使いにくい操作ロジックもそのまま。つまり、ステアリングホイールスポーク上にある、変速スイッチのことだ。ティプトロニックに置き換わるトランスミッションとしては素晴らしいが、走りにこだわりを持っているMT派は、この操作系では満足できないに違いない。
LSDでリアルスポーツに
個人的にはフットワークの進化のほうが印象的だった。まず乗り心地が劇的に良くなった。後輪の空気圧設定の変更や、PASM装着車はその減衰力のリセッティングなどの結果である。また走りの面では、オプションで機械式LSDが設定されたのが大きい。グリップ限界付近でも挙動が安定していて穏やかだったケイマンだが、ミドシップスポーツとしては、どこか物足りなさがあったのも事実。しかしLSDの設定で、その走りはリアルスポーツにグッと近づいた。弾けるエンジンフィールとあわせて、ケイマンSは今まで以上に走りの充実感高いモデルへと変貌を遂げたのだ。
スポーツ性にも快適性にも確実に磨きをかけた新しいケイマンSは、しかし依然としてRRより軽快な挙動、リアにハッチゲートをもつアクティブな生活感などによって、911とは明らかに違う世界を持った1台であり続けてもいる。これはフェイスリフトとしては、理想的なものだと言えるだろう。進化の度合いは911以上。財布の紐が引き締まる今日この頃ではあるが、かねてから狙っていた人にとっては、これはもう我慢できないかもしれない。
(文=島下泰久/写真=ポルシェジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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