第379回:寝耳に水! まさかのF1撤退劇
暴論!? もうホンダに新作スポーツカーはいらない!
2008.12.09
小沢コージの勢いまかせ!
第379回:寝耳に水! まさかのF1撤退劇暴論!? もうホンダに新作スポーツカーはいらない!
やめる気配すらなかったのに
ついに……というか、マジ? というかまさか!? という感じで、ごぞんじのとおり先週5日にホンダがF1撤退を発表した。2000年に復活して第3期体制になってからというもの、7年目にわずか1勝のみで、あとは鳴かず飛ばず。
これだけやって、ろくに勝てないんだったらやめたら……って話はたしかにあったが、優勝請負人のロス・ブラウンが今年フェラーリから移籍したこともあったし、すぐにやめると思わなかった。意地もあるだろうし、あったとしても2年後ぐらいとは思っていた。
しかし、突然の撤退。“まさか”ではある。「人生には上り坂と下り坂、そしてまさかがある」との名言(迷言?)を残した小泉元首相にコメントを貰いたいくらいだ。
考えられるのはホンダの内部分裂だ。ウワサじゃもともと体育会系気質だったホンダも、ここ10数年ですっかり大会社化、一枚岩じゃなくなったって話で、実際、今もホンダのオフィシャルホームページにはロス・ブラウンの戦略やら、ブルーノ・セナのテストリポートまで、むなしく載っている。それを見るかぎり、直前までやめる気配すらなく、内部は相当チグハグだった可能性が高い。
景気は明らかに悪くなってるし、社内の財政事情が厳しいのは容易に想像がつく。しかし、今回の撤退はカネがないからやめるということじゃなく、先が読めないから控えるという行動だ。
でも、このホンダの行動がさらなる不況を呼び、それが再びホンダのクビをしめる。これでトヨタまで辞めたらどうなる。お先まっくらだ。こんなんで「クルマを買おう!」ってなるわけないじゃないか。
大メーカーがそろって撤退したら「不況なんだな〜」って消費者のマインドは冷えるし、広告効果はともかく、レースをきっかけにして増えるクルマ好きがいなくなる。そりゃー寂しい話だよ。
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日本での存続が無理な理由
ただし、「ホンダらしくない」とか「レースに対する心構えがヘン」という声に関しては異議を唱えたい。今回の決断はある意味、非常にホンダらしいと思う。
ホンダは良くも悪くも昔から決まりごとの少ない会社だ。「掌返しのホンダ」とはよく言われた話で、背高ノッポの「シティ」をいきなり背を低くしたり、突然FFミドシップをつくってはすぐ辞めたり、そんなのはしょっちゅう。聞けば社内では「正しい人」というより「声の大きい人」の意見が通るそうだし、そもそもF1は企業ポリシーというより、創業者の本田宗一郎が「やりたい」がために始めたもの。
たしかにスーパーカブしかつくってない時にマン島TTレースに出ると宣言したり、軽しかつくってないのにF1に出ると言って本当に出たのはすごいけど、それはある種、宗教家として評価されるべき伝説。冷静なビジネス判断としてはあまりホメられない。異様な高度成長期と相まって成功はしたが、本来トヨタ的な企業成長のほうが無難だろう。「走る実験室」とか「ホンダDNA」なんてのは、意地悪く言うと、あとからもっともらしく付けただけなのだ。
結果としてレース活動は、当初は技術開発にも繋がったし、社員の意気高揚や宣伝にもなったし、さらには部下にレース狂いを生むことになった。が、元々は趣味の延長だ。
ホンダからレース専門の子会社が派生し、和製フェラーリみたいな存在になればよかったんだろうけど、それはかなり難しい。日本で存続することは、無理だったんだと思う。
それは根本的には日本の国民性、政治の問題だ。なにしろ日本人ほどレースに理解を示さない国民はいないし、スピードを短絡的に悪に結びつける政治家やマスコミもない。なにかっていうと「レース=暴走」という扱いだ。
F1レース自体が不可思議
日本に限らず、世界を見渡してもレース専門会社は少ない。特にF1に限っていうとイギリスやイタリアの一部にしかなく、ドイツでも希有。
実際、ホンダF1だって本拠地はイギリスだ。おそらく日本でそこそこ頑張ってるレース関係団体は鈴鹿サーキットぐらいで、ツインリンクもてぎは大赤字だし、富士スピードウェイも同様。むちゃくちゃツライのだ。
というか俺に言わせれば、お金ばかりかかるF1そのものが、もはや不可思議な存在。アメリカのレースのほうがよっぽど納得できる。
だから不況になれば切るのは当たり前で、来年はトヨタはもちろん、メルセデス・ベンツ、BMW、ルノーだってどうなるかわからない。今、さかんにFIAのモズレー会長が、コスト低減を図ってるらしいけど、それだって今のメーカー&スポンサー頼りの資金供給リスクを軽減し、アメリカ的な健全経営のレースにしたかったからじゃないかと思える。
それからもう一つ。今のクルマ産業に求められるのは、クオリティやデザイン力以上に“対応力”だ。昨今の経済クライシスで痛感したように、この世はますます先の読めない時代に入る。そこで生き残る最大のポイントはフレキシブル性しかありえない。ダーウィンの法則のように、環境や時代に合わせ、姿形や考え方を変えるのだ。
工場であれば少量多機種生産がキー。いつなんどきでもフレキシブルに無駄なく調整でき、人員を増減できる。株式の売買であれば、塩漬けせずに素早く損切りできる。そういう体質のみが勝利を生み、企業の行く末を左右するのだ。
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「ホンダらしさ」の成長を!
ってなわけで今回の突然のF1撤退劇も、ホンダの力の衰えを示すのではなく、まさにホンダ特有の“変身体質”が幸いした例という気がする。
もちろん福井社長が言ったように、真の評価はホンダがこの数年後にどういう商品を出すか、どういうメーカー体質を作り上げるかによる。これこそが一番重要で一番難しい。
そして俺は今のホンダ車の売れいき分布を考えると、もしも今後ホンダがスポーツカー、それも“売れる”スポーツカーを出せなければ、2輪を除き、F1以外の全レース活動を辞めてもいいと思う。
だってあのスポーツカーイメージの強いポルシェですら、F1は完全撤退、ろくなワークス活動をしてないのだ。ルマンでは上手にベースモデルだけつくってプライベーターにレースをやらせ、ほどよくイメージと技術をキープする。なんて戦略上手なんだと思うと同時に、それほどレースをビジネスに変えるのは難しいんだとわかる。
ホンダは今後、F1から撤退して損切りするだけじゃなく、NSX、S2000は販売的には大失敗だったと認め、新しいスポーツカー作りに専念するか、既存のスポーツカーを上手に延命させてローコストでスポーツカーイメージを継続すべきだと思う。
だから正直、俺には今後出るであろう次期型NSXの存在すら疑問だ。一部ファンは喜ぶだろうが、それは本当に売れて、広く感動を与えるのだろうか? ホンダの真のブランド力を高めるのだろうか?
それは「レクサスLF-A」も同様だが、その資金と元気があったらハイブリッドスポーツをよりカッコ良く、より省燃費で、より安全に楽しませるものにするほうが素晴らしい気がする。それこそ真にホンダらしいのではないのだろうか。
ホンダ=スポーツ&レース。この希有で貴重なイメージをどこまで時代に合わせて上手に成長させて、収益を稼ぐか。それこそまさしく真の課題であろう。
(文=小沢コージ/写真=webCG)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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