第68回:「誰か教えてやってくれ〜!」 こんな言葉で異文化交流!?
2008.11.22 マッキナ あらモーダ!第68回:「誰か教えてやってくれ〜!」 こんな言葉で異文化交流!?
昔は「ナカータ!」だったけど
10年ほど前は、イタリアの街を歩いていると、露天商のおじさんがボクの気をひくため、「ナカータ!」と呼びかけてきたものである。当時サッカーのペルージャチームにやって来た中田選手は、それほどイタリアで話題を呼んでいたのだ。
そして今日はといえば、同じ店のおじさんから「ニーハオ」と声をかけられる。見回せば、イタリアも中国系の観光客が増えてきたのだ。
そういえは、先日まで滞在した東京では、中国系の団体観光客や巨龍が描かれた観光バスをたびたび見かけた。銀座のモンブランビルには、ヨーロッパでも有名な中国人ピアニスト、ラン・ランの垂れ幕が掛かっていた。日本でも中国系の観光客が増えているようだ。
そんな日本人の陰が薄くなりつつあるイタリアだが、ぼくは欧州各地で日本人観光客の華やかなりし頃の面影や、日本カルチャーにこだわり続けている事象をみるたび、日本人として感謝のあまり、ついカメラを向けるようになってしまった。
ゲイシャ・フォーエバー
まず最初はパリ。現在はアコーホテルズ「ノボテル」のひとつとなっている、旧ホテル・ニッコー・ド・パリの客室で発見したものである。
刺身をイメージしたのではないか? と噂された赤い外壁をもつこのホテルは、1970年代後半以降、パリ出張をするおじさんたちや、ツアー客がお世話になったのである。
その名残りであろう。いまだバスルームには、日本語で「お湯は3分程で一杯になります」と注意書きがされている。
本当は、「日本の風呂のように浴槽の外でお湯を体にかけないで……」と書き足したかったのかもしれないかと思うと、当時のホテルマンの苦労がしのばれる。
いっぽう、「ゲイシャ・フォーエバー」とでも名づけられるのは、マルタ島のホテルで発見した。
食堂の壁に世界各国をイメージした絵が掲げられているのだが、「日本」はというと、胸部を露出した花魁風の女性が唐傘をさしているものだった。といってもこの絵、昔描かれたものではなく、2007年秋のリニューアル時にローマのイタリア人アーティストを招いて制作させたものという。
ウチの女房はゲイシャ出身とか、ボクもサムライやっていたのかと、ホテルの人から勘違いされているのではと思うと、少々困惑した次第である。
だが「日本が忘れられていなかった」という感謝を込めて、またまた思わずシャッターを切ったのだ。
「安物買い」の女、現る!
ヘンな漢字や日本語が書かれた服を着る外国人というのは星の数ほどいる。我が家の近所では「艶女」と書かれたTシャツを着た、それも男を発見した。そう書いて「アデージョ」と読ませたのは、すでに休刊となった女性ファッション誌『NIKITA(ニキータ)』であるが、当の本人はそんないきさつは知らないに違いない。
またある日、イタリアのテレビニュースを見ていて、ヘンな日本語の横綱級を発見した。キャスターのお姉さんの衣装に漢字が書いてあるのだが、よく読むと、「牡丹」の文字や篆刻のほかに、なんと左右に分かれて、「安物買いの銭失い」とプリントされているではないか!
日本ムードに憧れを持っていただくのは嬉しいが、公営放送のニュースチャンネルのキャスターがこれでいいのか! 「誰か教えてやってくれー!」と思わず我が家の12年物テレビの前で叫んでしまった。
滝川クリステルに「着てくれ」と頼んでも、絶対断られるであろう。
……と、この原稿を書いていたら、我が家のビンボーさを見かねた女房の実家が、救援物資のごとく衣類を送ってきた。
タグには「イタリアの毛糸を使いました」云々の英文説明が書かれている。おいおい、これじゃ逆輸入じゃないか。
ところがよく見ると、「Itary」と書いてある。これだけ東京で、犬も歩けばイタリア料理屋に当たり、イタリア・ブランドが依然女子の憧れであっても、まだ「イタリア」の綴りって浸透していないんですねえ。
まあ、イタリアの中古車雑誌や新聞のクルマ売りたし買いたし欄を見ても、「SUZUKY」「MATSUDA」と書いてあるのは当たり前なんだから、いいじゃないかよ! とも言えるが、やはり国名くらいはきちんと書いてほしい。
とか何とか偉そうなことを言いながら、いまだ「ランボルギーニ・カウンタック」をアルファベットで綴るとき、とりあえずトイレに行って落ち着いてから書き始めるワタクシである。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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