第377回:カー・オブ・ザ・イヤー打ち明け話
不思議、「日産GT-R」自滅の法則!
2008.11.21
小沢コージの勢いまかせ!
第377回:カー・オブ・ザ・イヤー打ち明け話不思議、「日産GT-R」自滅の法則!
スポーツカーの金字塔だったが……
いやー、つくづく難しいのねと思いました。そ、ついに決まったニッポン自動車マスコミ界最大の祭りであり、マツリゴト(政治)でもある日本カー・オブ・ザ・イヤー! 俺も末席に加えさせていただいてるわけだけど、今回の内情をサラリとお伝えしよう。
今回の面白さはズバリGT-Rの自滅! にある。というのもそれはある種、構造的な問題でもあったのだ。
大前提として、今回の新型GT-Rは“日本が世界に誇るべきクルマである”ということがある。それはまず1964年の第2回日本グランプリで「プリンス・スカイラインGT」がポルシェを抜いた瞬間に始まった超スポーツカーブランド「スカイライン」の中でも最上級となる位置づけを引き継ぐクルマであるということ。つまり俺に言わせると“長嶋茂雄”にも匹敵する偉大な存在でもある。
さらに今回の6代目GT-Rが実際、ものすごくよくできていたことも大切な要素だ。
それはご存じ、世界初のトランスアクスル方式のフルタイム4WDシステムであったり、480psの日本最大パワーのエンジンであったり、ツインクラッチシステムによる最新トランスミッションだったり、なによりも走りがズバ抜けてすごかったので世界的にも話題になったこと。
なにしろニュルブルクリンクサーキットにおけるラップタイムのあまりの速さに、あのポルシェが「それ、おかしいんじゃない?」とイチャモンを付けたほどなのだ。
これはまさしく日本車始まって以来の快挙であり、未だ世界のメジャーレースで勝ってないのがタマにキズだが、ある意味、メジャーリーグの野茂、サッカーの中田英寿に匹敵する存在感ではある。
これだけクルマ離れが問題視されている昨今、2007年の東京モーターショーにおいて一般人を巻き込むほどの話題になったこともあり、俺たち自動車ライターの間では、当初からGT-Rは間違いなくイヤーカー第一候補であると同時に、テクノロジー、ファン、ベストバリューの3賞をも同時獲得する可能性があると目されていた。
ハッキリ言って日本のスポーツカーの最新金字塔であったわけですよ。
個性的宣伝方式が仇に
ところがここからが面白いのだが、なぜこんなクルマが生まれたのかというと、主査の水野和敏さんという超個性的エンジニアの存在がある。水野さんは、俺も何度もお会いしているが、まさに日本のサラリーマンの枠を飛び出した存在で、ある意味無法者であり、ある意味歌舞伎者である。
カルロス・ゴーン直結でクルマを開発するという特例を生み出し、ゆえにGT-Rは特別なものとして生まれ、素晴らしい性能、そしてコストパフォーマンスを発揮することができた。
しかしそれは同時に、個性的な広報宣伝方式を取ることにもなった。ようするにマスコミの選別である。俺からみれば“ブランディング”=“選別”にほかならず、当然だと思うのだが、日産はGT-Rを誰にも分け隔てなく車両を貸し出すことをやめ、それに当然反発する声もあった。ま、日本という社会構造を考えれば当然のことだ。
結果、日産自動車としてはGT-Rをイヤーカーとして推薦するのを辞めてしまった。これはまさに日本の村社会的判断であり、これまた多分にあり得ること。
なぜなら日本の政治、つまりマツリゴトとは基本的には万人受けすることをもって良しとする。GT-Rは素晴らしいクルマだが、いろんな意味で個性的過ぎてみなさんに受け入れられない、そう判断したわけだ。これまた日本人らしき判断である。
iQがヘンに負けてもねぇ
ってなわけで、すっかりイヤーカー候補は、その次に出た「トヨタiQ」に流れてしまったというわけ。
iQはたしかにGT-Rほどの実績やインパクトはない。だが、今まで「大きいほど高い」とされていたクルマの価値観を「小さいほど良い」と変えたのは、見事なパラダイムシフトであり、未来に続く英断である。
その上、時代の価値観とも合致する。よってまあ、GT-RでもiQでもどっちでもいいんじゃない? ってムードはあったわけよ。ハッキリ言ってね。
ってなわけで俺の配点を言っちゃうと
トヨタiQ:10点
日産GT-R:7点
ダイハツ・タント:4点
フィアット500:3点
アウディA4:1点
正直、GT-RとiQはどっちが10点でもよかった。というか、個人的にはGT-Rの方が好みであった。ところが、今回の流れでは完全にGT-Rに入れても無駄票になる。で、やめたわけです。
実際、総合結果を見ればおわかりの通り、GT-Rは次点にもなってない。個人的に発表すれば目立つのはGT-R10点だとも思ったけど、それより全体としてiQがヘンに負けるより、トップに輝いたほうがいいと思ったわけですよ。iQ主査の中島さんも熱くて面白かったしね。
よって俺は今回の投票に全然後悔してません。日和ったとも思ってない。ただ、日産さんは下手打ったなぁ……と思うわけですよ。ホント、マツリゴトって難しいよね。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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