ルノー・ルーテシア イニシアル・パリ(FF/4AT)【ブリーフテスト】
ルノー・ルーテシア イニシアル・パリ(FF/4AT) 2008.11.13 試乗記 ……285万9500円総合評価……★★★★
クラスを超えた走りを謳う、ルノーのコンパクト「ルーテシア」。なかでも最も豪華な装備をもつ「イニシアル・パリ」を駆って、その乗り味を検証した。
真の高級を知る人に
いま世界の自動車会社がいちばん欲しい持ち駒のひとつが、プレミアムコンパクトだろう。
時代の空気にフィットする環境性能を備えながら、便利なだけの道具ではなく、所有欲を満たす付加価値を併せ持つ。ゆえに相応の価格で販売することが可能で、車格以上の収益を上げることができるし、ブランドアイデンティティの確立にも有効だ。
付加価値=大排気量&高性能が過去の公式となりつつあるなか、多くのブランドが生き残りのために、このジャンルこそ必要不可欠と考えているようだ。だからこそ、トヨタやアルファ・ロメオ、アウディなどが、ここへきて一気に名乗りを上げてきているのだろう。
でも「プレミアムは一日にして成らず」なのも事実。それをルーテシア・イニシアル・パリに乗って思い知った。ルノーは1988年に「サンク・バカラ」を発表して以来、この道20年のキャリアがある。その経験は、素材選びから仕立て、色遣いに至るまで、あらゆる部分に反映されている。
現行型になって個性が薄れた感もあるルーテシアに、絶妙の華をトッピングしたイニシアル・パリ。真の高級を知る人にこそすすめたい、豊潤なコンパクトカーだった。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「ルーテシア」(欧州名:クリオ)は、ルノーのBセグメントをになうコンパクトカー。初代は1990年に欧州で発売され、欧州カー・オブ・ザ・イヤーを獲得。1998年には2代目へと進化した。
現行モデルは2005年3月に本国デビューした3代目で、同車として2度目の欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。日本では2006年3月に発売された。
ボディサイズはひとまわり拡大され、兄弟車「日産マーチ」よりも大きい。スタイリッシュなデザインや豊富なボディカラー、高品質なインテリアなどがウリ。コンパクトクラスでありながらクラス最長となるホイールベースをもち、高い走行安定性や快適性もセリングポイントとする。
日本仕様のエンジンは1.6リッター直4(112ps、15.4kgm)のみで、マニュアルモード付き4段ATか5段MTを組み合わせる。ボディ形状は5ドアのほかに、4段ATのみながら3ドアバージョンが選べる。
(グレード概要)
試乗車は、2007年12月に発売された“豪華グレード”たる「イニシアル・パリ」。ランバーサポート付きのレザーシート、ウッドフィニッシャー、ガーメントケース付きトノボードなど、インテリアを中心に特別装備が盛り込まれる。
外観ではひとまわり大きくなった16インチアロイホイールが、機能面ではバックソナーとESP(横滑り防止装置)などがイニシアル・パリならではの装備。下位グレードとの価格差は、55万円となっている。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★★
フツーのルーテシアをベースに木目パネルと本革巻きステアリングでドレスアップ、という安直な仕立てで終わっていないところにこのクルマの価値がある。ウッドトリムはチェリーウッドにウォールナットのワンポイントをちりばめ、メーターは速度計と回転計で色を反転させ、そのメーターやセンターパネルはレザーに合わせシャンパンゴールドに統一。
プレミアムの判断基準は「どれだけ手の込んだ作りか」にあると思うが、イニシアル・パリはルーテシアがベースという制約がありながら、こだわりの作りこみにあふれている。勘どころをわきまえたドレスアップがすばらしい。
(前席)……★★★★★
スタンダードのルーテシアを本革張りにしただけに見えるのだが、しっとりしなやかな着座感で、腰をおろした瞬間にいい革を使っていると実感できる。しかも適度な沈み込みのおかげでカラダに合ったホールド感が得られる一方、内側の張りはしっかりしているので腰が痛くなったりすることはない。150kmを一気に走り続けても辛くないどころか、もっと座っていたいと思えたほど。前半分が開閉できるガラスルーフは、この種の装備としてはかなり前方から開くので、前席にいても降り注ぐ光を感じながらドライブできた。
(後席)……★★★
身長170cmの人間が運転席に座った後ろに同じ体格の人間が掛けると、ひざの前には10cmほどの空間が残り、頭上にも余裕がある。つまりスペースは問題ない。ただし座り心地は硬めで、シートサイズは小さい。走行中も後輪からの入力を伝えがちで、あまりにも心地よかった前席と比べると、快適性は少し落ちる。にもかかわらず前席と同じ上質な革を用いている。座るという機能より、上質な空間を演出することに重きをおいている感じがして、なんともゼイタクな気持ちにさせてくれる。
(荷室)……★★★★★
定員乗車で288リッター、リアシートを畳めば694リッターという広いスペースは他のルーテシアと同じ。そのうえでトノカバーにはリアウインドー用のブラインドがつくほか、裏にはサンク・バカラ以来の伝統である、コートなどを入れるのに便利なガーメントケースが用意される。見えない部分に気を配るとは、かなりの洒落者である。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
ルノーはそもそも一部のスポール系を除き、パワートレインに感動するクルマではない。ルーテシアもそうで、1.6リッター・エンジンと4段ATがもたらす加速は、遅くも扱いにくくもない代わりに、あれこれ書き連ねるほどの特徴はない。2000〜5750rpmという幅広いレンジで最大トルクの90%を発生するフレキシビリティのおかげで、ATが4段でもさほど不満はなく、100km/hでは3000rpm近くまで回るものの、ノイズが気になることもない。でも願わくば新型メガーヌのようにCVTが欲しいところだ。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★★
イニシアル・パリのタイヤはスタンダードの185/60R15から195/50R16へサイズアップされているが、乗り心地が荒くなった気配はなく、速度を上げていったときのフラット感は車格を完全に忘れさせる。高速道路での直進安定性もすばらしく、コンパクトなのに距離を重ねていくことが全然苦にならない。それでいてステアリングを切るとスッと向きを変え、コーナー途中でアクセルペダルを開け閉めしても微動だにしないほどロードホールディングは高く、乗り手が思ったとおりのラインを描いていく。初期のモデルで気になった電動パワーアシストの癖はかなり弱められていて、ドレッシーな姿からは想像できないペースで山道を駆け抜けることができた。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2008年9月17日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:15675km
タイヤ:(前)195/50R16(後)同じ(いずれも、ミシュランPILOT PRIMACY)
オプション装備:ショートアンテナ(9500円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(7):山岳路(1)
テスト距離:502.4km
使用燃料:50.45リッター
参考燃費:9.96km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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