ランドローバー・レンジローバー(4WD/8AT)【海外試乗記】
次元が違う完成度 2012.11.30 試乗記 ランドローバー・レンジローバー(4WD/8AT)10年ぶりのフルモデルチェンジで4代目に生まれ変わった「レンジローバー」。軽量化に加え、オフロード性能も進化した新型をモロッコで試乗した。
伝統が引き継がれたデザイン
今年の話題をさらったニューモデルのひとつ、「レンジローバー イヴォーク」の印象をもって新型「レンジローバー」(日本名:レンジローバー ヴォーグ)を見ると、それはかなりあっさりしたものだ。実物を見れば空気抵抗の低減を狙って若干低められた全高や、寝かされたピラー、そして前後の強められた絞り込みなどが「変わった」感を醸しているが、写真で見る限り、表面的なコスメティック以外に劇的な変化は見受けられない。
それは内に入っても然(しか)りだ。握るステアリングは現行型と同様、オフロードでの微妙な力加減を調整しやすいように細身にしつらえられ、三角形の断面をもっている。全高に合わせて着座位置も若干低められたものの、ショルダーラインは低く、窓を開ければ容易に側面が見通せる。クラムシェルと呼ばれるボンネットの凸凹は運転席から一目瞭然だ。
顧客がほれているのは機能的デザインであり、控えめなアピアランスである。それを崩すようなことはあってはならない。新型レンジローバーはその意向が完全に貫かれた。あれほど劇的な手腕を見せたイヴォークと並行して造られたクルマだという事実が、なおさらに敬意を抱かせる。しかし変わっていないように見えるのは見た目だけ。中身は史上最大ともいえる激変を遂げている。
最大420kgもの軽量化
その最大のトピックは、ほとんど2割近くを削り落とした軽量化にある。オールアルミのモノコック構造を採用した車体と、最新の軽量設計となる3リッターV6ディーゼルの組み合わせでは、600Nm(61.2kgm)のトルクと共に258psを発生しながら、現行の同等モデルに対して実に420kgもの軽量化を果たし、CO2排出量でも200g/kmを切る環境性能を手に入れた。
しかも来年にはこのユニットにモーターをアドオンしたハイブリッドモデルを設定。達成予定とされる169g/kmのCO2排出量は、Cセグメントのホットハッチ辺りと変わらない数字となる。そこにかつてのレンジローバーのガス食い的なイメージはみじんもない。
残念ながら日本仕様では現行型と同じ、5リッターV8の自然吸気およびスーパーチャージドのガソリンユニット2本立てとなるもようだが、それでも軽量化の効果はある。アルミモノコック化された上屋側だけで300kg近くに及ぶため、全グレードが2トン前半の車重に収まることは間違いないだろう。
加えて新型ではワイドなギアレシオを小さなステップ比でカバーする8段ATを採用、結果としてV8スーパーチャージドでは現行型に対し7%の燃費改善と共に、0-100km/h加速で0.8秒早い5.4秒という強力な動力性能を得るに至っている。
駆動方式は50:50のフルタイム4WDながら電子制御多板クラッチによるトルクスプリット制御を持つもので、標準でセンター、およびオプションでリアのデフロック機能を備えるなど、基本的な構成は現行型のそれを踏襲しながらリファインを加えている。
オフロードの走破性が大幅に向上
路面状況に応じて、電子制御による駆動配分および車高調整やトランスファーマネジメントなどを手元のノブひとつで切り替える「テレインレスポンス」は、ランドローバーが先鞭(せんべん)をつけた今日の4WDの標準的装備だが、新型レンジローバーでは速度や舵角(だかく)、ヨーレートや路面入力、タイヤの回転状況などから総合的に路面状況を判断し、自動でマネジメントを最適化する「テレインレスポンス2」を新たに採用し、悪路を相手にさらなるイージードライブを実現している。
このシステムにも連動するエアサスは、乗降時に車高を落とすアクセスモードから最大190mmの車高調整が可能。ホイールストロークは前が260mmの後が310mm、最低地上高は最大296mmとピュアオフローダーとしてみても突出したものだ。
「アプローチ」「ランプブレーク」「デパーチャー」の3つの走破アングルは、ホイールベースの延長にもかかわらず、すべて現行型と同等以上を確保。渡河深度に至っては200mmも上回る900mmとなっている。これは吸気をボンネットとグリルの隙間から取り入れ、左右フロントフェンダー上縁に設けられた彼らいわくの「クイーンメリー」と呼ぶダクトへと導き、水の侵入を防ぐことによって実現したもの。それを戦前に造られた豪華客船の煙突になぞらえる辺りが、なんともイギリス人らしい。
居心地のいい室内
インテリアは相変わらず息をのむ豪華さだ。それこそ船、それもクルーザーあたりの重厚なしつらえにならったであろう、ウッドトリムを垂直に配置するデザインテイストは現行型を継承するも、新しいインフォテインメントシステムの導入でセンターパネルまわりのスイッチ類は50%削減された。
リアエンターテインメントシステムとの組み合わせで29スピーカー、1700Wになるというオーディオは、自前のiPhoneを接続してみると、車中とは思えないほど立体的な音を聞かせてくれる。エンジンを大きくうならせる必要のない常速域では、そのサウンドを存分に楽しめるほど車内は静かだ。実際、社内のテストでは50km/hでのロードノイズと、160km/hでの風切り音は共に目標としたハイエンドサルーンをも上回るレベルを確保しているという。
加えて、乗り心地の丸さも驚愕(きょうがく)のレベルに達しており、普通の道を走る限り、多少舗装が荒れようが補修の継ぎ目を踏み越えようが、まるでそれを感じさせない。大きな目地段差や明らかな凸凹を越えるにしても、衝撃は音、振動ともにごく小さいレベルに収められている。まるでじゅうたんの上を滑るように走るそのフィーリングに、アルミボディーの減衰癖はまったく感じられないと言っていいだろう。
軽さは大きな武器
それでいて身のこなしが驚くほど軽やかなのは、やはり減量の効果。しかもその大半を上屋で稼ぎ出しているがゆえだろう。現行型でも車格なりにまとめられていたオンロードでのコーナリングには、そのしなやかさを全く失うことなくスポーツサルーンのような一体感が加わっている。タイトベントでも接地感は最後まで逃げることなくさらりと回る、その軽やかな操縦性はこれまでのモデルでは考えられなかったものだ。
悪路においてもその軽さは大きな武器となり、凸凹の乗り越えやキャンバー路では意図せぬ車体の動きが確実に減っているのがわかる。と、そんな場面ですら、乗り心地が良いと思わせるのはレンジローバーくらいなものだろう。
試乗コースに用意された難所とて、ドライバー側はアクセルとステアリングの操作さえ適切に行えていれば、あとはなにもやることがない。軽量化とテレインレスポンス2の効果はあらたかで、その簡単さや快適さは、これまで幾度も経験したレンジローバーの悪路走行とは次元が違う。
「砂漠のロールス・ロイス」という俗称に恥じない仕立てとオンロードでの快適性を持ちながら、ライバルとは一線を画するオフロード性能は意地でも守り続ける。その相反性にわれわれはレンジローバーの圧倒的存在感を見いだしてきた。その点において、新型の出来はまったくもって盤石だ。日本への上陸は来春が予定されているという。
(文=渡辺敏史/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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