第66回:大矢アキオの「桜木町ブルース」
「TOKYO MOTOR WEEK 2008」訪問記
2008.11.06
マッキナ あらモーダ!
第66回:大矢アキオの「桜木町ブルース」 「東京モーターウィーク2008」訪問記
あなた知ってる〜♪
ボクは横浜が苦手である。
東京の八王子ナンバー地区に生まれたボクにとって、「横浜はカッコいい憧れの地」だった。しかし、多摩地区から行こうとすると、たとえ最短距離であっても本数が少なく不便なJR横浜線を使わざるを得なかったからだ。
クルマを運転するようになってからも、国道16号の橋本五差路をはじめとする渋滞で、行くのが億劫になった。
社会人になると、横浜生まれの上司が少年時代の思い出話なんぞをするので、さらに参った。かくして、横浜コンプレックスがボクの中に醸成されていったのである。
さて、他のページでも紹介されているように、今年は「東京モーターショー」のかわりに、「東京モーターウィーク」なる無料イベントが計画されている。
ちょうど東京に来ていたボクがその情報を入手し詳細を読むと、第1週目である11月1日から3日の会場はお台場と横浜だという。
お台場のほうが近いけれど、せっかく都心(八王子じゃなくて)にいるし……。よく考えると、今日まで一度たりとも、都内から電車で横浜に行ったことがないボクは、「ナビタイム」で電車の乗換案内を調べてみた。すると、たった1時間で行けるではないか。
「そんな当たり前のことを天下の(?)『webCG』に書くな」というなかれ。当時、横浜まで3時間かかるのが当たり前の地で生まれた者にとっては、東京と横浜が近いということは、それだけで驚きなのである。
会場となっているみなとみらい地区に一番近いJR駅は桜木町。というわけで心の中で、桜木町にちなんだあの有名な歌を歌いながら、京浜東北線に乗った。
しかし、桜木町のホームに降り立った瞬間、とんでもない勘違いをしていることに気がついた。「あなた知ってる 港ヨコハマ〜」で始まる青江三奈のムード歌謡は、桜木町ブルースではなく伊勢佐木町ブルースだった。これだからハマっ子にバカにされる。
拡大
|
さかなクン登場
会場に到着して取材の旨伝えると、いきなりスタッフから「さかなクンのご取材ですか?」と聞かれてしまった。
さかなクンは、当日11月3日のスペシャル・ライブステージのゲストだったのだ。それまでまだ時間があるので、クルマを見せてもらうことにした。
今回の展示台数は16台だが、なかでも来場者の一番の関心は、やはり「トヨタiQ」であった。
新聞広告を見て訪れたという「ジープ・シェロキー」オーナーの青年(26歳)は、「小さいクルマなのに、スピーカーやツイーターがしっかりと付いている」と評価していた。
面白いのは、多くの人がわざわざリアシートに潜り込んでみていることだった。これはイタリアのブレビューでも同じだった。実際には後席に人を乗せる機会は少ないと思うのだが、とりあえず後席の広さが気になってブツブツ言ってしまう。万国共通の心理のようだ。
午後2時、いよいよ「さかなクン」のライブが始まった。あの人気者のステージとはいえ、電波時計で測っていたかのごとく定刻に始まるところは、さすが日本である。イタリアでは考えられない。
お題は「クルマで行く!!水族館の旅」だ。
まずはステージ横に展示してある「マツダ・ビアンテ」を見て、「おーっきいクルマで、いいなァ」と第一声。イベントの趣旨を押さえている。さかなクンのサービス精神に感銘した。こういうさかなクンだからウケるのであろう。出世魚! なんちゃって。
ショーの中では、水族館情報にとどまらず、魚がうまい店の電話番号まで次々と披露する。
さらに、さかなクンお得意のライブイラストによる、魚当てクイズも行なわれた。正解者にできたてホヤホヤのイラストが贈呈されるという企画である。
魚の名前を当てた子供の中に「魚津くん」という苗字の子がいれば、「お友達になりたいなー」とはしゃぐさかなクン。かと思えば、彼が数日前に他の場所で行ったショーにも来ていた子供を発見して、さらに盛り上がる。
実は前日に行われた「川原亜矢子トークショー」が観たかったボクである。ついでにいえば子供と犬が苦手。だから、初めはさかなクンを観るために集まった会場のファミリームードに少々戸惑った、というのが正直なところだった。
しかしながら、彼のテンポの良さと見習うべきノリ、豊富でわかりやすい魚知識の連発に、ぐいぐいと引き込まれてしまった。さかなクン、恐るべし。
意外な人気車
ライブのあとも、ボクは会場見学を続けた。
気がついたのは、クルマ好きと思われる来場者が前述の「トヨタiQ」や「ホンダ・アコードツアラー」といった近日発売車に興味を寄せていたのとは別に、一般来場者、とくに子供連れに抜群の人気を誇っていたのは、意外にもダイハツの軽であった。
とくに「タントカスタム」のセンターピラーレス&スライドドアは視覚的効果抜群で、子供たちが磁石にひきつけられるように室内に吸い込まれてゆく。ボクさえも、用もないのに仕事を忘れ思わず乗り込んでしまった。
同じくダイハツの「コンテカスタム」も、日頃日本の軽に接することのないボクにとっては新鮮であった。したがって、「ヒャー、MOMOステアリングだァ」「ギョギョッ、軽なのにパワーシートだァ」と、さきほど見たさかなクンの影響で、普段でさえ高いボクの声がさらに2トーンほど高くなっていた。
ついでに、イタリア人が見たら絶対驚くに違いないと思い、カタログもしっかり頂戴した。
ダイハツがさらに偉かったのは、こうしたミニイベントでも、きちんと説明員のお姉さんに制服を着用させていたことである。ダイハツの社風によるものか一見町娘風なのも好感がもてる。それでありながら車両知識は豊富だった。
イタリアのディーラーにも、受付のお姉さんはいるが、たとえ高級車の店であってもクルマ本体に関しては、「あそこのセールスマンに聞いてよ」でおしまいである。
ダイソー100円ショップしかり、すべての価格帯のブランドで、必要最低限のクオリティが維持されている。日本の底力だ。
これぞハイブリッドシナジー
横浜会場は3つのエリアに分かれていた。そのひとつが赤レンガ倉庫会場である。
横浜の名所を巡回する市営バス「あかいくつ」が100円で乗れることを知らなかったボクは、メインブースであるクイーンズスクエアから、15分もかけて赤レンガ倉庫まで、てくてくと歩いて到着した。主催者の皆さん、次回はバスがあること教えてください! というのは、ふたたび多摩地区出身のボクからのお願いである。
その赤レンガ倉庫では、2日と3日に「全国ふるさとフェア」という催しも行われていた。食品を中心に、全国各地の名産品を紹介するお祭りである。
あるスタッフによれば、「ふるさとフェア」には両日とも10〜16万人規模のお客さんが訪れ、おかげで赤レンガ倉庫のモーターウィークにも多くの人が立ち寄ったという。
これこそハイブリッドシナジーだ。
ボクも、宇都宮餃子500円、やきそば200円、鎌倉ハム・大人のウィンナー300円を購入した。
餃子屋さんは「ハイ、おつり500万円」ともはや絶滅危惧種的ギャグを平然と口にする。仮設テントでは、隣に座った若者たちが話す中国語をBGMに食べることができた。
あれほど苦手だった横浜だが、モーターウィークのおかげで、おおいに楽しめた1日だった。
なお、夜枕につくと、さかなクンの声が頭の中で繰り返されるという、予期せぬおみやげは、今日まで続いている。
(文と写真=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第961回:海賊エンツォ・フェラーリ 敵に取り囲まれる 2026.5.14 F1における、フェラーリとイギリスのコンストラクターの戦いにフォーカス。「トリノ自動車博物館」でスタートした企画展「ドレイクの敵たち—エンツォ・フェラーリと英国のチーム」を、イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオがリポートする。
-
第960回:レクサスは欧州人のマナーを変えた? 「ミラノ・デザインウイーク2026」の自動車ブランド出展から 2026.5.7 イタリア・ミラノで世界的なデザインの祭典「デザインウイーク」が開催された。アウディ、レクサス、ルノー、イタルデザイン……と、自動車関連の出展も数多く見られた会場の様子を、伊在住の大矢アキオがリポート。今回はどんな展示が注目を集めていたのか?
-
第959回:「うすらデカいフィアット」がもたらしてくれたもの 2026.4.30 11年にわたりモデルライフを重ねてきた、フィアットのCセグメント車「ティーポ」が、ついに生産終了に……。知る人ぞ知る一台の終売の報を受け、イタリア在住の大矢アキオが、“ちょっと大きなフィアット”の歴史を振り返り、かつての愛車の思い出を語る。
-
第958回:欧州BEVのゲームチェンジャー? 「ルノー・トゥインゴE-Tech」と初対面 2026.4.23 いよいよ欧州で販売が開始された、新型「ルノー・トゥインゴ」。初代を思わせるデザインをまとい、電気自動車のみのラインナップとなって現れた4代目は、マーケットの勢力図を変える一台となり得るのか? 欧州在住の大矢アキオが、実車に触れての心象を語る。
-
第957回:伝説のベルトーネが復活 新経営陣が目指すブランドの未来 2026.4.16 イタリアを代表するカロッツェリア&デザイン開発会社だったベルトーネ。新たな資本のもとで再起を図る彼らが見据えたビジネスと、新生ベルトーネのクルマの特色とは? 温故知新で未来に臨む名門の取り組みを、イタリア在住の大矢アキオがリポートする。
-
NEW
DS N°4エトワール ハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.5.20試乗記DSオートモビルから「DS N°4」が登場。そのいでたちは前衛的でありながらきらびやかであり、さすが「パリのアバンギャルド」を自任するブランドというほかない。あいにくの空模様ではあったものの、350km余りをドライブした。 -
NEW
第113回:ホンダデザインにささぐ鎮魂歌(後編) ―「Honda 0」と「アフィーラ」の断捨離で見えてくる未来―
2026.5.20カーデザイン曼荼羅「Honda 0」の計画縮小と「アフィーラ」の開発中止で、すっかりネガティブな印象がついてしまったホンダデザイン。彼らの未来に再生の曙光はあるのか? というか、そもそもホンダ車のデザインって本当に迷走しているの? カーデザインの専門家と考えた。 -
NEW
「北京モーターショー2026」で実感 中国車の進化のスピードは想像のはるか上をいっていた
2026.5.20デイリーコラム今や世界最大の自動車市場である中国だが、すでに開発拠点としても世界でも有数の地位に達している。「北京モーターショー2026」で見た数々のテクノロジーは、今後は自動車の進化の中心が中国になると思わせるほどのレベルだった。現地からのリポートをお届けする。 -
運転がうまくなるために、最も意識すべきことは?
2026.5.19あの多田哲哉のクルマQ&A車両開発者であるとともに、トヨタ社内でトップクラスの運転資格を所有していた多田哲哉さん。運転がうまくなるには、どんなことに気をつけるべきなのか、「プロダクトとドライビングをよく知る人」としての意見を聞いてみた。 -
アルファ・ロメオ・トナーレ イブリダ ヴェローチェ(FF/7AT)【試乗記】
2026.5.19試乗記2026年3月に大幅改良モデルが発表され、ほどなくメディア試乗会も開催された「アルファ・ロメオ・トナーレ」。今回はこれをあらためて借り出し、一般道から高速道路まで“普通に”走らせてみた。進化を遂げたアルファの中核SUVの仕上がりやいかに? -
日産エルグランド プロトタイプ(4WD)【試乗記】
2026.5.18試乗記「日産エルグランド」の新型が間もなく登場。前回のフルモデルチェンジからは実に16年が経過しており、待ちくたびれたファンは半端なレベルの進化では納得してくれないことだろう。日産のテストコースで乗ったプロトタイプの印象をリポートする。