スズキ・ワゴンR FXリミテッド(FF/CVT)/スティングレーTS(FF/CVT)【試乗速報(後編)】
大きな存在(後編) 2008.10.21 試乗記 スズキ・ワゴンR FXリミテッド(FF/CVT)/スティングレーTS(FF/CVT)……118万1250円/161万7000円
道具から乗用車への脱皮を狙ったという新型「ワゴンR」。量販グレードでその進化を見定める。現代社会が求める軽自動車像がそこにはあった。
攻めたスタイリング
続く試乗車「FXリミテッド」は、縦型ヘッドランプを踏襲する素のワゴンRだが、そのスタイリングも単純に先代の意匠を継承したわけではない。そのヘッドランプもよく見ると複雑な形状で、フェンダーラインと一体のラインで構成されているなど、実はなかなか凝っている。これは「シンプル イズ ベスト」を狙った先代の評価が今ひとつだったことを受けて、進化をわかりやすく表現した結果だという。よく見ると適度にウェッジが効かされたサイドビューなどを見ても、実は新型は相当攻めたスタイリングなのだ。
インテリアの意匠は基本の部分は共通。しかしながら、こちらは淡い室内色や、上下2段式のグローブボックスが採用されず膝まわりの余裕が確保されていることなどから、スティングレーほどの圧迫感は無い。一方、スティングレーに使われていた見映えも操作感も良い空調操作パネルが、「いかにも事務的なしつらえのものに置き換えられていたのが残念。「最後まで悩んだんですが……。FXリミテッドまでは、やっぱり上級仕様にしておくべきでしたね」と、チーフエンジニア氏もちょっぴり悔しそうだった。ちなみに、最上級のFTリミテッドにはスティングレーと同じものが備わる。
しかし、それよりも付けてほしかったのはシートリフターやチルトステアリングの方である。これが無いと、やはり体型によってはインストゥルメントパネルの圧迫感は気になってしまうかもしれない。
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“あのクルマ”とは違う味つけ
走りっぷりは、スティングレーと比べると上着を1枚脱いだような軽やかな印象。心地良い操舵感の電動パワーステアリングの手応えが、より自然に感じられるのは、タイヤの違いの影響も小さくないのだろう。
ただし、乗り心地は期待したほど良くはなかった。スティングレーほどではないが、路面の小さなうねりに対する感度が、やや高めなのだ。
「ホイールベースの延長と新設計サスペンションの採用で、基本となる安定性を稼ぎ、その分の余裕をスプリングをソフト方向にして乗り心地に振っている」
そういう説明だったのだが、よくよく聞いてみると、チーフエンジニア氏にとっては、最大のライバルである「ダイハツ・ムーヴ」(と名指しはしなかったが)の、深くロールする味つけは『絶対ナシ』だったらしい。地方の、山間部のユーザーにとって、ロールの大きさは気になるはずというのだが、それでもやっぱりもっとしなやかなほうがいいと思う。ムーヴはたしかに大きくロールするが、安定感が損なわれているわけではなく、むしろ挙動変化は穏やかだし、ロールの大きさで自制が効く部分もある。大きなロールを嫌う声があるのは理解できるが、ロールの前後バランスやスピード、あるいはステアリングとの連携で、いくらでも不安感は取り除けるはずだ。
最高出力54psのNAユニットも、パフォーマンスは必要十分と言っていい。大人3名乗車で、しかもパワフルなスティングレーからの乗り換えでも、さほど不満は感じなかったのだから文句の出る余地はないだろう。もちろん、それなりにエンジンを回すことにはなるから、騒音は高まる。実は前席ではそれほどでもないのだが、後席にいると、どこかこもったような音が耳に障った。スティングレーより遮音材が省かれているだけに、そこは割り切るしかないのだろう。
ちょっと疲れる……
「道具」から「乗用車」へと脱皮せんと、おそらくは開発費もコストもこれまで以上に注ぎ込まれ、ものすごい意気込みで開発された。新型ワゴンRを見て、触れて、そして乗ってみると、そのことがこれでもかと伝わってくる。けれど率直に言って、その「これでもか」という気合いのようなものに、ちょっと疲れるな……という印象をもったことも事実だ。
たしかにすべてが進化して、多くの部分で小型車や中型車を、そのままサイズダウンしたかのような上等な仕上がりになっている。けれど軽自動車で忠実にそれを実行するのは、やはり過剰な部分もあるのかもしれない。初代の道具感覚が、ちょっと懐かしくなってしまった。乗用車化はイコール上質化じゃなく、もっとカジュアルなかたちでもいいはずである。
とは言いつつも、今や軽自動車はファーストカーとして、小型車などと同じような感覚で選ばれる対象であることも事実だ。いわゆるダウンサイジング層を惹き付けることを考えても、簡素さや道具っぽさなどというものを求めるのは時代錯誤で、こういうかたちに進化するのは、やはり必然なのかもしれない。
市場がこの新型ワゴンRをどう評価するか。それには、つまり世相が色濃く反映されることになるのだろう。ワゴンRは日本にとって、もはやそういう大きな大きな存在なのだ。
(文=島下泰久/写真=荒川正幸)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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