第371回:突撃! パリサロン2008(その1)
これはもはや“CO2原理主義”だ!!
2008.10.10
小沢コージの勢いまかせ!
第371回:突撃! パリサロン2008(その1)これはもはや“CO2原理主義”だ!!
いきなり「GREEN PEACE」の洗礼……
とある海外試乗会が終わった後、少しフランクフルトで時間があったんで「2008 MONDIAL DE L'AUTOMOBILE」こと2008年パリモーターショーにクルマで行ってみることにした。パリはフランクから片道約600km。ひとり往復1200kmは正直キツイと思ったけど、たまにはいいかなぁと。それもすでにプレスデイは終わってて、一般公開日の日曜日入り。それもまたよしかなと。
そしたらね、残り物には福があるじゃないけど、いきなりちょっとばかしいつもと違う対応が(笑)。
プレスパス取得も面倒なんで、12ユーロの入場料を払うべく並んでいたところ、突然妙な女性が近づいてきた。オキテ破りの逆ナンか!? とは全然思わなかったけど、渡されたのはチラシ。そこには「120g/km de CO2 en 2012」の文字が……。そう、「自動車のCO2平均排出量を2012年までに1kmあたり120gにしないと、地球温暖化が!!」ってなフランス語の警告なんですね、たぶん(笑)。そして肝心の主張元は世界的環境保護団体「GREEN PEACE」様!
いやこれがウワサに聞いた「GREEN PEACE」の意見行動っていうか政治活動とは……。日本でも同様のが無くはないけど、ホントある種の布教活動みたい。
でもたしかにコレは今回のショーを暗示してましたね。だって、会場に入っても「CO2」「CO2」の嵐なんだもん。ここ数年、どこもずっと環境のためのモーターショーだったけど、その怨念っていうか思いがもはや「CO2」というお題目に集約されている感じ。恐ろしいくらいに。
“ブルー”たちの戦い
実際、会場内のどの車両のスペック表にもkmあたりのCO2排出量表示がなされ、それも赤い太字でオオゲサにクローズアップされている。
今回の目玉であるハイブリッドコンセプトの「プジョーRC HYモーション4」や「プジョー・プロローグ HYモーション4」「メルセデス・ベンツS400ブルーハイブリッド」などはもちろん、最も表示が大胆だったのはそれらではない。ある意味“普及型エコカー”もしくは“現実的エコカー”とも言える、通常のコンパクトカーにワイドなギアレシオやアイドルストップ機能など簡単なものを付加して環境性能を高めた“ブルーなんちゃら”たちだったのだ。つまり、VWの場合は「ブルーモーション」、BMWは「ブルーエフィシェンシー」、メルセデスが「ブルーテック」で、プジョーが「ブルーライオン」(ディーラー名か!)と呼んでいるモデルのことね。
コイツらがなかなか凄いバトルを繰り広げていた。なんせこれらはほとんどがボディサイドにデカデカとCO2排出量データを表記! たとえばVWブルーモーションシリーズの2世代目、ブルーモーションIIのCO2排出量は「パサートヴァリアント」が109gで、新型「ゴルフ」が99g!
一方、「プジョー107」のブルーライオンは108g。既存モデルでは最もレベルが高いといわれるBMWのブルーエフィシェンシーシリーズは「320dクーペ」が128gで、燃費にして4.8リッター/100km(日本風に書くと20.8km/リッター)を記録し“Best in Class”をうたい、同様に「123dクーペ」も138gで“Best in Class”をうたってる。
ついでに「DRIVe」と名付けられたボルボの普及版燃費カーは、「C30」が115gで「S40」が118gとなかなかだ。
東京モーターショーにも波及する!?
これはシリアス化しつつある地球温暖化の影響もあるが、それ以上に当地フランスならではの事情もある。今年初めにCO2排出量に応じた新車登録税の割引&割増制度が導入され、それがあまりに厳しいがゆえに、耳なし芳一も真っ青のボディ排出量表記がなされているのだ。
詳しく調べてみたところ、kmあたりのCO2排出量が161g以上のクルマは200〜2600ユーロの増税、逆に130g以下のクルマには200〜5000ユーロも減税(!)されるという。5000ユーロったらアータ約80万円! そりゃ真剣にもなるわな〜。
とはいえ今後の我が国日本もコイツを見習って、CO2税制を導入する可能性はある。そうなれば東京モーターショーでも、「CO2 ○×g!!」が声高に叫ばれることになるだろうし、笑っていられないでしょう。
しかし、最大値引きが適用されるのは元々税金が高いクルマだとはいえ、80万円引きってのは凄いよ。ヨーロッパの政府はやることがエグい。日本とはレベルが違う。
そしてさらにメチャクチャ厳しいと思ったのが、基本的に排気量のデカいパワフルカー。たとえばジープ・ラングラーのアンリミテッドなんて排出量「251g」で、それほど悪くないのに排出ランキングでは最低の「G」に区分けされていた。まるで「オマエは赤点!!」みたいな感じ。
CO2原理主義の台頭
そのほかスーパースポーツがこれまた極端で、650psの5.5リッターV8スーパーチャージャーを搭載する「メルセデスベンツSLRマクラーレン」のスペシャル版、「722Sロードスター」なんて348gで、これまたランキング「G」。もはやここまでくると逆に自慢っていうか「ワタシャ高い税金払ってまっせ〜」って表明なのかもしれない。
「G」で終わってるところが、優しいと言えば優しい。本来「Z」ぐらいまであっても良さそうだし(笑)。
でもまあ真のメンタリティはともかく、傍目からみるとまるで空港の免税品コーナーでデカデカ「DEATH」だの「KILL YOURSELF」と表示されてる各種タバコたちみたいでかなり自虐的。さしずめSLRマクラーレンは、キューバ産コイーバの超太めの葉巻ってとこでしょうか(笑)。
しかし、こんなふうに高いのも安いのも十把一絡げにして、「CO2」の御旗の元にイッキに断罪するのは、ある意味壮観ですらあり、まさにCO2原理主義の台頭だ。マジでこのムーブメントが日本に来た日にゃ、さらにヒステリックかつ笑えない状態になっちゃう気がする。
いやはやこうなるとコッチもクルマを楽しむもっともらしい理由が必要。「人間、クルマで走らないと具合が悪くなる!?」ぐらい立証しなければいけないかもよ(苦笑)。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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