キャデラックATS(FR/6AT)【海外試乗記】
ターゲットはジャーマンプレミアム 2012.12.03 試乗記 キャデラックATS(FR/6AT)キャデラックが新型「ATS」で競合ひしめくDセグメントプレミアム市場に参入。その実力をドイツ・フランクフルトで試した。
徹底的な軽量化
先日、日本でも発表された「キャデラックATS」のターゲットは明白だ。「BMW 3シリーズ」を筆頭に、「メルセデス・ベンツCクラス」「アウディA4」などの強力なライバルひしめくクラスで、その存在感をアピールすることである。過酷な道ではあるが、プレミアムカー市場を戦っていく上で、このセグメントを避けて通るわけにはいかない。逆に言えば、この激戦区で名を上げることができれば、ブランドイメージを飛躍的に高めることができるのだ。
国際試乗会の出発地点となったドイツ・フランクフルト空港近くに止められていたATSは、ショー会場などで見た時よりもコンパクトに見えた。
ボディーサイズは全長4680×全幅1805×全長1415mmと、こちらもほぼ3シリーズと重なるが、前後が絞り込まれ、キャビンがコンパクトにまとめられたフォルムによって、一段と引き締まった印象をもたらしているのだろう。「アート&サイエンス」を標榜(ひょうぼう)して以降のキャデラックの文法にのっとった縦長のヘッドランプをはじめとするディテールも、より洗練度を高めてボディーラインの中に溶け込んでいる。正直言って、写真で見るより実物の方が、はるかに新しく、そして魅力を感じられるスタイリングではないかと思う。
このATSのために、キャデラックは“アルファ・アーキテクチャ”と呼ばれる、まったく新しい車体をゼロから設計した。そのボディーは高張力鋼板、そして超高張力鋼板を広範囲に使ったほか、アルミ素材も積極的に活用。さらに1台につき総延長100m近くにもわたって接合部への接着剤の塗布も行っている。言うまでもなく、これは車体の軽量化、高剛性化に貢献するもので、車両重量は1580kgに収まっている。
パワートレインも、くしくも3シリーズと同様に直列4気筒2リッター直噴ターボエンジンを搭載し、「328i」を凌(しの)ぐ最高出力276psを発生する。最大トルクは35.9kgmで、シフトパドル付きの6段ATが組み合わされ、そしてあらためて言うまでもなく後輪を駆動する。
“ニュル”の成果を垣間見る
キャビンが小さく、ロワーボディーに厚みのあるデザインということもあり、室内は開放感より、やはりスポーティーなタイトさの方を強く感じさせる。ドライビングポジションも、低めのヒップポイントがクルマとの一体感を演出していて心地良い。
クオリティーも上々で、試乗車のダッシュボードはオールレザー張り。ピアノブラックのセンターコンソールにはキャデラック自慢のCUEシステムが埋め込まれており、各種インフォテインメントを直感的な操作で活用できる。画面に手を近づけただけでメニューが現れ、タッチパネル操作すれば指に脈動が伝わる。そこには単純に、新しいものに触れているよろこびがある。
ただし、リアシートはあまり広くない。サイドウィンドウの面積も小さめだから閉塞(へいそく)感は強め。この辺りはきっぱり割り切られているのだろう。
走りだしが余裕たっぷりなのは、分厚い低速トルクのおかげだ。アクセルペダルに軽く足を乗せておくだけで、見る見る速度が高まっていく。低音を響かせるサウンドも力強さを強調している。
吹け上がりはやや重たげだし、6段ATももう少し変速に切れ味があればというところだが、全域で力のみなぎる特性ゆえに絶対的な動力性能、そしてレスポンスには文句はない。ニュルブルクリンクのようなコースで走り込んだ成果は、シャシーだけでなく例えばこういうところにも表れている。
アウトバーンで光るその実力
また、大いにうならされるのがボディーの剛性感の高さだ。ガッチリと包まれているような感覚は安心感があるし、クルマとの関係をよりタイトに感じさせてくれる。ステアリングの中立付近の据わりも抜群で、220km/hオーバーでのクルージングでもまるで不安感はなかったし、それでいて操舵(そうだ)した際には指1本分にも満たない舵角(だかく)からクルマがしっかり反応してくれる。
そうなれば当然、ワインディングロードでの振る舞いだって期待しないわけにはいかない。そうした場面でのATSは、キビキビとシャープというよりは、あらゆる操作に対して正確なレスポンスを返し、安心して攻め込めるクルマに仕上がっていた。ロールやピッチングを無理に抑え込まず、それでいていかなる時も接地性を失うことはなく、特にリアは執拗(しつよう)に粘ってくれる。そう書くと曲がらないクルマと思われるかもしれないが、そうではない。リアが安定しているからこそフロントはどんどん曲げる方にグリップを使えるのである。
このステアリングを通したクルマとの極上の一体感は、ATSのひとつのハイライトと言えるだろう。その代わりと言ってはナンだが、マグネティックライド装着車でも乗り心地は決してソフトではない。しかし、開発陣はそれも織り込み済みだった様子。彼らはとにかく一点、突き抜けることを目指したわけだ。
そんな狙いを実際の走りからひしひしと体感して、アメリカンプレミアムブランドの国際試乗会が、なぜドイツにて開催されたのかが、よく分かった。ライバルと目するモデルの本拠地であり、アウトバーンのある舞台にて、そのパフォーマンスを確かめてほしいという意気込みが、そこには込められていたのだ。
これだけの内容で価格は439万円からという設定であり、また、ここでは触れる余地がなかったが、先進安全装備も満載しているATS。早く日本の道でも試してみたいところだが、日本での販売開始はもう少し先、2013年3月の予定である。
(文=島下泰久/写真=ゼネラルモーターズ・ジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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