三菱トッポG(FF/4AT)【試乗速報】
モテる軽は、身長1600mm以上 2008.10.07 試乗記 三菱トッポG(FF/4AT)……146万3700円
“3強”の天下となっている「トールボーイ軽」市場に、三菱自動車が刺客を送り込んだ。返り討ちにあうのか、それとも……。
ミツビシ期待の新戦力
私情を差し挟んではいけないと思いつつ、ついつい応援してしまうのが三菱自動車。なぜって三菱自動車はわれらが浦和レッズの筆頭株主、名古屋や横浜には負けないよ!
その三菱が、2008年9月17日に新型軽自動車「トッポ」を発表。早速、ライバルの動向をスカウティングしてみましょう。
2008年8月の軽自動車売り上げランキングをみると、第1位が「スズキ・ワゴンR」(1万3737台)。むむ、モデルチェンジ直前なのにこの数字、あっぱれ。2位が「ダイハツ・タント」(1万718台)で3位が「ダイハツ・ムーブ」(1万375台)。のほほんとしたタントとアグレッシブなムーブ、ダイハツの2トップは抜群のコンビネーションだ(数字は社団法人全国軽自動車協会連合会の資料より)。
この“軽自動車3強”に共通するのは、全高が1600mmを超えていること。いわゆる「トールボーイ」だ。三菱はどうかといえば、2年前にモデルチェンジを受け、「立体駐車場に入庫可能なセミトールワゴン」というふれこみで登場した「eKワゴン」の9位(3124台)が最高位。トップ3とはかなり差がある。
つまり軽自動車を買う人にとっては、立体駐車場に入るかどうかなんて関係なかった。とにかく背が高いほうが売れる。「立体駐車場〜」にこだわった三菱のクルマ作りは、ちょっとお上品にすぎたのかもしれない。
そこで劣勢を挽回するために三菱は戦力を補強、eKワゴンをベースに全高を130〜150mm高くした「トッポ」を投入したというわけだ。2003年に「トッポ BJ」の生産が終了して以来、三菱のラインナップから消えていた「トッポ」の名称がここに復活した。
「トッポ」のウリは、軽自動車トップとなる1430mmの室内高。小学5年生程度の身長なら車内で起立できるという高さを武器に、“軽自動車3強”の牙城を脅かすことができるのか。厳しい戦いが予想されるが、「Jリーグのお荷物」とバカにされてたレッズだってアジア・チャンピオンにまで昇りつめたんだ。トッポにだって可能性はあると自分に言い聞かせながら、試乗会会場へ向かう。
無難なデザインは「i」のせい?
試乗会会場で対面した三菱トッポは、ジミだった。エクステリアのデザインは無難にまとまってはいるものの、スズキの新型ワゴンRやダイハツ・ムーブのような押し出しの強さはない。ま、インパクトがありゃいいってわけでもないけれど、トッポのデザインはいまいち覇気に欠ける気がしてならない。
試乗したのは、一番の売れ筋である3気筒SOHCのNAエンジンと4ATを組み合わせたFF仕様。さっそく乗り込んで、インテリアのあちこちをチェック。
シフトセレクターをインパネに配置して前席をウォークスルー化するとともに、オーディオや空調類の操作系をバランスよく配置、そして豊富な小物入れを用意するなど、最新の軽自動車のトレンドはしっかり押さえている。けれども、外観と同じく「これぞトッポ!」と喝采を贈りたくなるチャームポイントはない。
コスト的な制約が厳しい軽自動車だからエクステリアもインテリアも凝ったデザインは難しい、という意見もあるでしょう。けれども、“軽自動車3強”との差を詰めるには大胆な采配が必要なのではないか。サッカーでいえば前半を終えて「3-0」で負けているような状況だ。目の覚めるようなフォーメーション変更や思い切った選手交代がないと、ムードが変わらないじゃーあ〜りませんか!!
あるいは、「大胆なデザインと革新的なレイアウトの意欲作」ということで自動車専門誌的には高く評価された「i」が売れていないことで、デザイナーの手が縮んでしまったのかもしれない。ちなみに本年8月の「i」の販売台数は623台。「i」の魅力をユーザーにしっかり伝えていないという意味では、自分みたいな仕事をしている人間にも責任がある。
と、ショボンとしまったけれど、いざ走り出すとトッポのしなやかな乗り心地にサポーター、じゃなくてリポーターは勢いを取り戻す。
100km/hを超すとやや足まわりがバタつく感じがあるけれど、60〜80km/h程度の速度域であれば非常に快適だ。軽やかさと柔らかさを兼ね備えたフィーリングは、かつての小型フランス車を思わせる。
ちょっと古く感じる理由
成人男子3名乗車でも、街なかだったら加速にも不満はない。4ATとのマッチングも上々で、50psという限られたパワーをスムーズかつ効率よく路面に伝えている。高速道路の追い越し車線に飛び出すために3気筒SOHCエンジンをブン回すと振動やノイズが気になるけれど、100km/h巡航程度であれば不満はない。
ひとつ気になるのは、18.8km/リッターという10・15モード燃費。ライバルたちは、同じ3気筒NAエンジンと4ATの組み合わせで21〜23km/リッターくらい走っている。もしかすると実燃費はそんなに差がないのかもしれない。けれど、実際に購入しようと思ってカタログを集めているような人から見れば、看過できない数字の開きだ。
ライバルとの比較で言うと、たとえば新型ワゴンRは後席がリクライニングするのはもちろん、160mmもスライドする。いっぽうトッポは、確かに頭上空間はたっぷりあって広々としているけれど、リクライニングだけでスライドはしない。「他人と比べてはいけない」という亡くなったおばあちゃんの教えに背いてしまうが、ここははっきりと比べておきたい。
正直、ワゴンRやムーブを横目にニラむと、どうしてもトッポじゃなきゃ駄目だ、という理由は薄い。室内高は魅力といえば魅力だけど、通勤ラッシュの山手線じゃないので立ったままつり革につかまって移動するわけでもない。燃費の問題といい後席シートの件といい、ライバルからは少し後れをとっている感アリ。
厳しい言いかたをすれば、トッポは新型車とはいえ2年前に登場したeKワゴンがベースだから、少し古く感じるのは仕方ないかもしれない。辛口になってしまったけれど、レッズだって罵声を浴びて強くなった。乗り心地に代表されるように、決して素性は悪くない。あとは見せかたの工夫とか、ちょっとした商品性の詰めがあれば、「ミツビシのトッポをよろしくお願いします!」と胸を張って推すことができると思うのだ。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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