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第61回:振り向けば「なんちゃってBMW」

2008.10.04 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第61回:振り向けば「なんちゃってBMW」

「アヴァンタイム」の化身発見!

ボクは『CAR GRAPHIC』や『NAVI』の巻頭を決して飾らないであろうクルマが好きである。それもどこか別のクルマに似ている「なんちゃって系」を見つけるのをライフワークとしている。

近年の個人的ヒットは、フランス製マイクロカー「ミクロカーMC1」だ。仏伊で普及している原付免許で乗れる簡便車である。

ルーフに向かって連続するシルバーのAピラーが真っ先に目に入る。それはボクが評価していたにもかかわらず、あっという間に生産中止されてしまい、今でも「エンジン・タイアなしでもオブジェとして欲しい」と思っている「ルノー・アヴァンタイム」を彷彿とさせる。

アヴァンタイムが4660mmあったのに対し、こちらの全長はたった2788mm。これまたアヴァンタイムを真空パックにしたようで笑える。

「ミクロカーMC1」。パリ・セーヌ左岸15区にて。
「ミクロカーMC1」。パリ・セーヌ左岸15区にて。 拡大

憧れのキドニーグリル

ここのところ数で多いのは、グリルが“なんちゃってBMW”なクルマであろう。

まずは中国ブリリアンス社(Brilliance)製の「BS4」である。1.6リッターおよび1.8リッターのセダンで、2007年2008年とジュネーブショーに出品された。
スタイリングは均整のとれたプロポーションだが、グリルやライトの立体的な造型を見ると「BMW5シリーズ」を想像せざるをえない。もしボクが東京で親戚の法事にこのクルマで乗りつけたら、たいしてエンスーがいないボクの親族一同は絶対BMWだと思うだろう。
またヨーロッパの世界自動車年鑑の類は大抵アルファベット順で、BMWの次にBrillianceがくるから、ついフラッと続いてページをめくってしまうのもおもしろい。
ただし書き忘れていけないのは、このブリリアンス社、中国ではBMWの現地生産を担当しているということだ。

次は同じ中国クンシェン(Qunsheng)グループが作るチンスン(Chinsun)ブランドの電気自動車である。
BS4同様イタリアには輸出されていないのだが、この夏同社の関連企業製電動スクーターのバッテリーが発火事故を起こし輸入禁止になったことから、ついでにこのクルマも話題になってしまった。

2007年12月のボローニャモーターショーでは「小貴族」という中国製シティカーがスマートの商標権侵害の疑いで急遽出品停止となったが、こんなクルマもあったとは。そのうえフロントを見れば思いっきりキドニーグリルが付いているではないか。

東京では時折スマートにメルセデスのエンブレムを貼り付けている人がいるが、遥かにその上を行く。いわばメルセデスとBMWのハイブリッドである。
と思っていたら、我が家の近所の工事現場でも「なんちゃってBMW」を発見してしまった。

「エルコリーノLX」という小型トラックである。イタリア・パレルモを本拠とするロマニタール社が手がけている。
全長3500×全幅1500mmは日本の軽自動車枠をちょっぴりはみ出す大きさだ。エンジンはスズキ製ガソリン1.3リッターが搭載されている。1トンおよび2トン積みがある。

2005年頃に「エルコリーノ」が発売されたときはスラントノーズだったが、その後のマイナーチェンジで「LX」になるにあたり、BMW風に化粧直しされた。イタリアではそのコンパクトなサイズゆえ、左官屋さんでよく使われている。

「ブリリアンスBS4」。2008年ジュネーヴ・ショーにて。
「ブリリアンスBS4」。2008年ジュネーヴ・ショーにて。 拡大
チンスン電気自動車「QSEC-01」(写真=Chinsun)
チンスン電気自動車「QSEC-01」(写真=Chinsun) 拡大
リアは何気ない軽ダンプ風なんですが……。
リアは何気ない軽ダンプ風なんですが……。 拡大

歯痒い!

これらのクルマたちを見て、BMWスタイリングセンターの皆さんは、怒るというよりもクククッと笑いをかみころしていることであろう。ボクたちも笑うことができる。

しかし待ってほしい。日本でも1980年代頃まで擬似アメ車風やメルセデス風グリルをもつクルマがいくつも存在し、中には輸出仕様のみ、ちゃんと別のグリルを装着していたモデルさえあった。

同時に、ここまで模倣される顔を持ったブランドが、日本車にあるだろうか。もちろん近年は中国で明らかに日本車を模倣したクルマがいくつも出没しているが、今回紹介したBMWのように数々のメーカーから「オレもあんな感じになりたい」と真似されるブランドはいまだない。

過去数年ヨーロッパの路上では、マツダの一連の新モデルがそれなりのオリジナリティある存在感を示していた。だが他メーカーにも「吊り目」系が増えたことで、印象が薄められてしまったのは残念である。
それが良いことかどうかは別にして、弱肉強食のヨーロッパの高速道路で、クルマの「顔」は他車に対する存在感の誇示であり、ときには威嚇である。
品質と気配りで世界で高い評価を受けるようになった日本車だが、いまだ欧州車に比べて顔のアイデンティティを確立できていない。
なんとも歯痒いばかりだ。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

前を見れば、あらビックリ!「エルコリーノLX」。
前を見れば、あらビックリ!「エルコリーノLX」。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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