メルセデス・ベンツA170エレガンス(FF/CVT)【試乗記】
少数精鋭主義 2008.09.17 試乗記 メルセデス・ベンツA170エレガンス(FF/CVT)……355.4万円
女性に人気という「メルセデス・ベンツ Aクラス」がフェイスリフト。1.7リッターのみにラインナップを絞り込んだが、走りに不満はないのか?
スリムになったラインナップ
2005年のデビューから3年、メルセデス・ベンツのコンパクトモデル「Aクラス」の2代目が初のマイナーチェンジを実施し、さっそく日本にお目見えした。
細かい変更点はいろいろあるが、私の一番の関心事はラインナップのスリム化である。これまでは、1.7リッターエンジンを積む「A170」「A170エレガンス」、2リッターの「A200エレガンス」、そして2リッターターボの「A200ターボアバンギャルド」がレギュラーのグレードとして用意されていた。
しかし、販売に占める割合はA170/A170エレガンスが圧倒的に高かったという。そもそも1.7リッターでも十分実用的であることに加え、加速性能にさほどこだわらない女性の支持が多かったこと、そして、2リッターエンジンの排気量が実は2リッター超の2034ccだった(つまり自動車税区分が2リッター以上2.5リッター未満に属する)ことが、1.7リッターモデルの人気を高めたのだろう。
そこで、今回のマイナーチェンジを機にエンジンを1.7リッター1本に絞り、「A170」と「A170エレガンス」の2グレードだけで、エントリーモデルの大役を担うことになったわけだ。
見映えするデザイン
マイナーチェンジ後のAクラスは、ラジエターグリルやバンパーの中央を尖らせたのが効いていて、目元ぱっちり、鼻筋の通ったフロントマスクが印象的。ドラミラー内蔵のターンシグナルやドアのモールもすっきりとして、好感度アップ。インテリアは基本的なフォルムに変わりはないが、ドアトリムやシートの素材の見直しにより、従来よりも上質に見えた。
見えないところでは、急ブレーキの際にブレーキライトが点滅する「アダプティブブレーキライト」が採用されたのが新しい。パワートレインの制御を変えることで、10・15モード燃費が12.2km/リッターから13.0km/リッターへ約6%向上したのも見逃せない。
ユニークなのがオーディオシステム。6.5インチディスプレイが備わるCD/DVDプレーヤーは、ディーラーオプションのHDDナビゲーションモジュールを追加するだけでグレードアップが可能。11万5500円(工賃別)という価格設定も魅力的だ。コスト面からナビゲーションシステムの標準装着は難しいこのクラスだけに、このやり方は苦肉の策ともいえるわけだが、少ない投資でナビゲーションシステムが手に入るのは、少なくとも買い手にはうれしい配慮である。
納得のエントリーモデル
試乗したのは、装備充実のA170エレガンス。もともと本革巻きステアリングや本革/合皮のコンビシートが付くが、フルレザーのパワーシートが付く“ラグジュアリーパッケージ”がおごられた試乗車は、まさに小さな高級車の雰囲気である。
さっそく走り出すと、1.7リッター直4SOHCエンジンと“オートトロニック”と呼ばれるCVTの組み合わせが、コンパクトなボディを不満なく加速させる。加速時にボーっというノイズが耳につくこともあるが、低中回転でも非力さはなく、3500rpmを超えたあたりからはトルクの盛り上がりを感じ取ることができた。
硬すぎないサスペンションは快適な乗り心地をもたらし、高速走行時のスタビリティも十分。背が高いこともありコーナーではそれなりにロールは大きいが、とくに不安を感じることはなかった。
というわけで、相変わらずトータルバランスの高いA170。全長4mを切るボディはアイポイントが高いこともあってとても扱いやすく、それでいて十分な居住空間を誇るメルセデスのエントリーモデルは、誰にでも安心してお勧めできるコンパクトカーなのだ。
(文=生方聡/写真=峰昌宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。