スバル・レガシィS402セダン(4WD/6MT)【試乗記】
レガシィ自身が目指した地平へ 2008.09.08 試乗記 スバル・レガシィS402セダン(4WD/6MT)……555万4500円
「S402」はSTIが手がけた“スペシャルレガシィ”。それは、単なるスポーツ性の向上に力を注いだものではなく、グランドツーリングカーとしての理想をSTI流に追求したモデルだった。
当たり前のことを当たり前に
あれこれスペックを読み込むよりも、まずは乗り込んで真っ直ぐな道をしばらく走ってみればいい。STI=スバルテクニカインターナショナルが、その知識とノウハウをフルに活かしてつくり上げた「レガシィS402」の本当の価値を知るには、何よりそれが一番である。
ステアリングの操舵力は決して重くはないが、それでいて直進を保持するのも非常にラク。それはボディとサスペンションの動きが高い精度で連関しているからだろう。路面のうねりを拾っても、硬過ぎないサスペンションがしなやかに動いてそれを吸収し、車体を上下に煽ることなく、また余計な修正舵を求めてもこない。レガシィS402は、そうやって当たり前のように直進していくが、それは決して、どのクルマも当たり前にできていることではないのだ。
もし、直進だけでは今ひとつピンと来なかったとしても、ひとつふたつコーナーをクリアすれば、今度こそ納得するに違いない。ステアリングを切り込んでいく瞬間、掌にはタイヤが横方向のグリップを発揮していくさまがありありと伝わってくる。ほんの指1本分の操作にさえ、その反応はダイレクト。ロール自体は決して小さくはないし、タイヤだって殊更にグリップ指向というわけではない。しかし、そんなふうにすべての挙動が操作とピタリ一致するため、持てる旋回力を容易に、余さず使い切ることができるのである。
持続的な歓び
この走りを実現するため供せられたアイテムはと言えば、まずボディまわりではフレキシブルタワーバーが挙げられる。単なる突っ張り棒ではなく、中央にピロボールを挟み込んだこれは、主にコーナリングに効く横方向の入力に対してはガッチリと高い剛性を確保する一方、乗り心地や直進性などに影響する縦方向あるいは捻り方向の入力は適度に逃がして、しなやかな走り味をもたらす。前後のフレキシブルロワアームバーも、同じように剛性としなやかさを両立させるもの。サスペンションのセッティングも別物とされているようだが、それも、こうした土台となるボディづくりとセットで語るべき話なのだ。
ただし、STIが心血注いでセットアップしたシャシーだからといって、一般的な意味でのスポーツ性を追い求めたのではないということは、一応強調しておく。ワインディングロードをカッ飛ばそうとすると、特にS字の切り返しなどではロールをもう少し抑えたくなるし、グリップ自体もっと欲しいとも思う。しかし、S402の狙いはそこではない。目指したのは「究極のグランドツーリングカー」と謳われているように、長距離を走って疲れず、そして刹那的ではなく持続的な歓びを享受できる。そういう領域なのである。
それは本来、ベースとなったレガシィ自身が目指した地平だ。しかし、特に日本の市販車はコスト等々の制限によって、理想を極限まで追求することは難しい。つまりS402は、そうしたメーカーの仕事をSTI流に補完したモデルだと考えていいだろう。
こだわりをあと少し
しかし不満もないわけではない。たとえばエンジン。B4にはない水平対向4気筒2.5リッターターボに、さらに専用のツインスクロールターボや等長等爆エグゾースト等々を採用したこの心臓は、それでも依然としてボトムエンドのトルクが細く、6段MTとの組み合わせを以てしても、もどかしさから逃れられない。レガシィとしては、あるいはボクサーターボとしてはこれでも悪くはないのだが、せっかくSTIがここまでこだわったなら、最高出力は285psも要らないからタービン径をもっと小さくして、最大トルク40.0kgmの発生回転数を現状の2000〜4800rpmよりさらに引き下げる、なんて試みがあっても良かった気がする。贅沢な悩みではあるが、なまじシャシーのデキが良いだけに、期待値も高まってしまうのだ。
このレガシィS402、プライスボードには535万5000円という価格が掲げられている。これは「B4 2.0GTスペックB」より200万円以上高く、「BMW 323i Mスポーツ」だって買える価格だ。レガシィにこれだけ払うのは抵抗があるという人も少なくないだろう。しかし、それでいいのだ。そこに価値を見出した人にとっては、このレガシィS402はほかに代わるもののない、至高の存在となるはずだから。
(文=島下泰久/写真=荒川正幸)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。