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第227回:商用車はつらいよ! これが伊仏のトンデモ法規だ

2012.01.13 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第227回:商用車はつらいよ! これが伊仏のトンデモ法規だ

イタリアに革命的自由化到来

イタリアではこの2012年1月から、ある革命的な自由化が行われた。何の自由化かというと、商店や飲食店に関するものだ。「営業日・営業時間」と「バーゲンの時期」の自由化である。
日本の方々は「エッ?」と驚くかもしれない。だが従来イタリアでそれらは、「長時間労働を防ぐと同時に、過当競争も抑制する」などといった理由のもと、自治体と商業団体によってかなりシビアに統制されていたのだ。

実はこの自由化案は、過去にもたびたび法案が提出されては消えていた。しかし今回は経済危機を背景に、営業時間やバーゲン時期をフレキシブルにすることで市場の活性化を促そうということで、ついに施行に移されたのだ。
この自由化、消費者団体が歓迎の意向を示しているのに対し、商業団体は露骨に不快感を示しており、これを執筆している脇のテレビでは、「最終的には、休みが取りにくくなっちゃうわよ」とローマで商店を営むおばさんが放映されている。

街角に止まる3輪トラック「アペ500」。フロントには赤い斜線が。
街角に止まる3輪トラック「アペ500」。フロントには赤い斜線が。 拡大
斜線は、かつて商用車を表すものであった。
斜線は、かつて商用車を表すものであった。 拡大
仏ロワール地方の「シトロエン2CV」ミーティングで。商用貨物仕様のフルゴネットのフェンダー上に再現された「プラーク・ブルー」。
仏ロワール地方の「シトロエン2CV」ミーティングで。商用貨物仕様のフルゴネットのフェンダー上に再現された「プラーク・ブルー」。 拡大
専門誌『2CV et Derives』のドメズ編集長とプラーク・ブルー。
専門誌『2CV et Derives』のドメズ編集長とプラーク・ブルー。 拡大

商用車に課せられた法規

クルマに関しても、ヨーロッパには日本人では想像できないような法律が過去に存在した。例えばボクがイタリアに来た1996年には「ラジオ税」というのがまだあった。要は、カーラジオがぜいたく品として認識されていた時代の名残が、1990年代まで生き延びていたのであった。

トンデモ法規は、こと商用車に多かったようだ。イタリアでは戦後、商用車は赤い斜線を車両の前後に記さなければならなかった。その法規は、1980年代まで続いたそうだ。
目的はといえば、警察官がひと目で商用車と判別でき、過積載や盗品輸送などの取り締まりをしやすくするためだった。個人商店の商用車は、乗用車などより長年大切に乗られているものが多い。したがって、いまだ斜線入りトラックは時折街で見かける。

実は似たようなものがフランスにもあったことを知った。2011年7月、ロワール地方で開催された「シトロエン2CV」の世界大会でのことである。商用貨物仕様の「2CVフルゴネット」のボディーに、なにやら文字や数字を書き込んでいる職人さんがいた。

「何してるんですか?」と尋ねると、
「昔の法規の再現だよ」と脇にいたフランス人の知人が教えてくれた。

彼は正確を期すべく、会場に即売コーナーを設けていた専門誌『2CV et Derives(2CVとバリエーション)』の編集長も呼んできてくれ、ふたりでいろいろと教えてくれた。
彼らの話を総合すると、1960年代フランスでは商用車の前部に商店や事業所の所在地を、後部には所在地や代表者のイニシャルを記さねばならなかったのだ。
理由はこうだ。例えば生鮮食品を扱う卸業者は、指定エリア外で商品を売りさばくことが固く禁じられていた。そうしたことをはじめ、さまざまな商業上の違反を取り締まるため、こうしたナンバーが有効だったのだという。ナンバーは、その色から「プラーク・ブルー(青いナンバー)」と呼ばれていた。

ちなみに先ほどの職人さんは、古いクルマのボディーに懐かしムードの商店名ロゴを入れたり、イラストを描くのを得意としている人だった。その作業の一貫として「プラーク・ブルー」も再現していたのである。

風化っぽいペインティングが施された2CVフルゴネットにも、それっぽくプラーク・ブルーが。
風化っぽいペインティングが施された2CVフルゴネットにも、それっぽくプラーク・ブルーが。 拡大
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まだまだ生きてた、こんな税金

それにしてもこのプラーク・ブルー、できれば忘れたい。面倒くさい時代の代物なのに、今日では当時を振り返るものとしてファンの間で珍重されている。このあたり、さながらミリタリーグッズのレプリカと共通するものがある。

そんなことを考えつつわが街シエナを歩いていたら、知り合いのエレベーター保守点検会社のおやじさんがクルマを見ながら、「あ、いけね。今月は税金の納付月だ」とつぶやいていた。ボクはてっきり自動車税か何かと思ったのだが、実はそうでないらしい。おじさんが思い出したのは、「広告税」であった。

「な、なんですか、それ?」と聞くボクに、彼は丁寧に説明してくれた。広告税とは、法人・個人に関わらず、クルマに社名や商店名を記す場合に課税される市税だ。
現行の税額は1台約60ユーロ(約6000円)で、毎年1月が納期だ。広告面積は自由とはいえ、おじさんの会社は「プジョー206」と「フィアット・パンダ」の2台があるから、毎年およそ1万2000円を納税しているわけだ。
ちなみにイタリアの多くの都市では、商店の窓に看板を掲げるにも市税がかかる。事務所の窓に社名をカッティングシートで貼っただけでも課税される。いずれにしても、前述のラジオ税に匹敵する、なんとも前時代的な決まりである。

この広告税、イタリアから営業時間やバーゲン時期の規制が廃止されても、ついつい問題提起されずにまだしばらく存続しそうで怖い。かくもあらゆる物に税金をかけたがるイタリアやフランスにおける唯一の幸いは、若者ドライバーが得意になって愛車に貼り付けている、「KENWOOD」や「PIONEER」といった日本ブランドステッカーまでは広告とみなされず、課税されないことかもしれない。

(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

廃止プラーク・ブルーを再現しているのは、この道27年のジャン・ドー氏。
廃止プラーク・ブルーを再現しているのは、この道27年のジャン・ドー氏。 拡大
イタリアでは今でもクルマのボディーに記された社名表示や広告に課税される。
イタリアでは今でもクルマのボディーに記された社名表示や広告に課税される。 拡大
エレベーター保守管理会社の「プジョー206」。これでも社長は広告税を払っている。写真の右上に写っているのは、哀れんで眺める筆者。
エレベーター保守管理会社の「プジョー206」。これでも社長は広告税を払っている。写真の右上に写っているのは、哀れんで眺める筆者。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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