第48回:驚愕! イタリア自動車ディーラーの夏
2008.07.05 マッキナ あらモーダ!第48回:驚愕! イタリア自動車ディーラーの夏
8月は半分以下しか売れない!
イタリアで製造業の夏休みは8月頭から約3週間が一般的だ。したがって自動車メーカーの広報マンとも大気圏突入前の宇宙船の如く、8月の最終週まで連絡がとれなくなってしまう。
いっぽう公立学校はボクが住むトスカーナの場合、高校の卒業試験を除き、すでに6月中旬から夏休みに入っている。そのため、自営業や開業医など、比較的休みの調整がつけやすい家は、早くも休暇に入っていたりする。
とくに近年は家計節約で7、8月を避ける家庭が多いため、夏休みは年々前倒しの傾向にある。
そうした夏休みシフトにともない、ガクッと客足が落ちるのがイタリアの自動車販売だ。どのくらい落ち込むかを昨2007年の登録台数データで説明しよう。
6月には約22万6000台あったのが7月には21万1000台に減り、続く8月には10万3000台と、いきなり半分以下まで急降下してしまったのである。
この季節イタリア人の頭の中はヴァカンツァ(ヴァカンス)一色で、クルマのことなんぞ考えているのは粋ではないのだ。もっと現実的な視点からすれば、休暇の大出費を前にクルマの消費マインドは自ずと萎える。
加えて、ただでさえ納期1か月が当たり前なこの国で、たとえクルマを注文しても到底ヴァカンツァには間に合わない。
幸いなのはこうした傾向は長年続いていることで、メーカーもディーラーもさして驚いていないことだ。
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地元行事の日も休み
実際この時期のイタリア式自動車ディーラーはどんなムード&体制なのか?
その前に、まず最初に記しておかなければならないのは営業時間である。一般的に午前中は朝8時半もしくは9時から昼の12時半もしくは1時まで。そこから約2時間の昼休みがある。
セールスマンの多くは家に戻ってしまう。ボクの知り合い(50歳)は奥さんも働いているので、パスタを作って待つ母親のところに毎日帰る。
午後は3時から6時までというのが一般的だ。日曜は展示会がないときは定休である。サービス/パーツ部門は土曜もお休みとなる。
そうしたタイムテーブルを頭に入れながら、まずボクが訪れたのは地元のプジョー販売店だ。訪問したのは6月25日木曜日の午後である。
セールスのニコラ氏は、「8月はお客様が困らないよう、地区内の販売店で話し合い、交代で店を数日休業します」と教えてくれた。
なおボクがいたときに来たお客は、併設のパーツセンターを訪れた2組のみだった。
次に訪れたのはトヨタの地元販売店である。こちらは原則として8月はカレンダーどおり営業するという。
セールスマンは交代で夏休みをとるようにしていて、すでに2人が夏休み中だった。ただし有給休暇が残っていても、連続10日を超えてはいけないので、多くの社員は別の月に有給を使って第2の休みをとるそうだ。
セールスのフランチェスコ氏は、店の例年の動向として「6月はヴァカンツァ前なので販売好調ですが、7月は通常より3割、8月は4割それぞれマイナスになります」と教えてくれた。
続く28日土曜日も近所の店を訪ねてみることにした。
6月最後のウィークエンドで、本格的な夏休みシーズンに突入した日である。後日の発表によれば、この週末に700万人のイタリア人が移動したという。
メルセデスのディーラーを覗くと、やはり顧客は見当たらなかった。セールス氏は「ショールームは夏も暦どおり営業します」と教えてくれた。8月は、週末と国民の祝日である15日が休みということか。
ところが彼はこう付け加えた。「ただし、8月のパリオの週だけは数日休業します」と。
「パリオ」とは、ボクが住むシエナで行なわれる中世に起源を遡る競馬である。
イタリアのディーラーの休業は、こうした地元イベントにもたびたびリンクしている。
話は前後するが、前述のトヨタの店も「パリオ」の日は午後お休みだそうだ。まあ、店のスタッフにもパリオを応援したい人が多いことや、そんな街中が盛り上がるときに店を開けてもお客は来ないことを考えると、臨時休業するのが妥当であろう。
きっかけはトリノショーの消滅か
最後は6月4日に新型「デルタ」を発表したばかりのランチア・ディーラーである。
ボクがいた30分で商談客は1組。あとは現在はアルファに乗っていて「前にデルタに乗っていたので見にきた」というおじさんと、若者3人だった。
新型デルタに限らず、イタリアでは新車発表=夏休み前、本格的販売=休み明けというパターンが多い。
2003年の新型「フィアット・パンダ」や、昨2007年の新型「フィアット500」もそうだった。
実はこのタイミング、なにもイタリアのメーカーが発案したものではない。古くから米国や欧州のメーカーには、秋口に翌年のモデルイヤーの始まりとするところが多かったのだ。
とくに毎年春に行なわれていたトリノショーが2002年に消滅してからは、イタリアのブランドは国際的カレンダーに追随するようになった。
考えてみれば、メーカーにとっても発表という大仕事を終えてからヴァカンツァに入りたいのが正直なところだろう。
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暑い中の熱い人たち発見
ボクの「8月に来るお客さんて?」との質問に、あるセールスマンはこう答えた。「クルマが壊れちゃった人、かな」
やはり夏にクルマのことにうつつを抜かしているイタリア人など、皆無なのか?そう考えながら、ディーラー横丁をうろついていたときである。「プルプルプル〜」という音とともに「アウトビアンキ・ビアンキーナ」が現れた。1957年にフィアット500の姉妹車として登場した「小さな高級車」である。
暑さで頭が朦朧(もうろう)としていたこともあって、フラフラ足で追ってゆく。するとバイクショップに辿り着いた。
ビアンキーナは店の持ち物だった。お客同士で「乗りっこ」をしていたらしい。
あるおじさんが、エンジンルームにちょこんと収まった空冷2気筒エンジンを眺めながら「あの頃は、なんでも自分で修理したもんよ」と懐かしむ。
続いてもうひとりの親父がルーフを指差しながら「ヴァカンツァっていうと、屋根いっぱいに荷物乗っけて、出かけたもんだよな」と言うと、他のお客からも「そうそう」と笑い声が上がった。
やはりバイクショップには、乗り物に熱い人が多いようだ。不毛の地に突入しつつある夏の自動車街で、オアシスを発見した気がした。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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